[2017.11]【連載 TÚ SOLO TÚ #211】ラテン・ジャズ注目のアルバムが次々とリリース パルミエリのあとに続くアーティスト達
文●岡本郁生
今年4月にラテン・ジャズ・アルバム『ウィズダム/サビドゥリア』をリリースしたエディ・パルミエリだが、7月の来日の際に会ったとき、「(自分は)これと同じぐらいの、あるいはもっと良い作品は今後二度と作れないだろう。だからもうラテン・ジャズ・アルバムはやらない。これで終わりだ」と語っていた。この作品が彼の最高のラテン・ジャズ・アルバムであり、これ以上のものはできない、と。しかし、活動をやめてしまうわけではなく、来年には20年編成のビッグバンドを擁したサルサ・アルバムを予定しているという。巨匠の挑戦はとどまるところを知らず。まったくもって驚くばかりなのだが、そんな中でしかし、この数年、素晴らしいラテン・ジャズ・アルバムが次々とリリースされているのも確かなのだ。今月はそんな中から注目すべき作品をいくつかご紹介してみたい。
まずは、いまやパルミエリ楽団にとってなくてはならない存在となったベース奏者ルケス・カーティスと彼の兄でピアニストのザッカイが中心となったカーティス・ブラザーズの最新アルバム『シザジー(SYZYGY:「朔望/惑星直列」の意)』(2016年)。トゥルース・レヴォルーションズというレーベルも主宰し、ジャズ系の若いミュージシャンから、アンディ・ゴンサレス、“リトル”ジョニー・リベロらラテン系のベテランまでを擁するバラエティ溢れる作品を送り出している彼らは、これまでに、インサイト名義で『ア・ジェネシス』、ナタリー・フェルナンデスとインサイトの名義で『ヌエストロ・タンゴ』、そして、カーティス・ブラザーズ・クァルテット名義で『ブラッド・スピリット・ランド・ウォーター・フリーダム』、さらに、ザ・カーティス・ブラザーズ名義で『コンプリーション・オヴ・プルーフ』を発表している。
今回のアルバムはクァルテット名義で、ザッカイ(ピアノ)、ルケス(ベース)にリッチー・バーシェイ(ドラムス)、レイナルド・デ・ヘスス(パーカッション)というメンバー。一番驚いたのは、ピアノではなくエレピ(フェンダー・ローズ)をメインで使っている点だ。1曲目「アフロ・ブルー」から始まって、バド・パウエルの「ハルシネーションズ」(これはピアノ)、ガレスピーの「ビバップ」、ウェイン・ショーター「イエス・オア・ノー」(これもピアノ)、コール・ポーター「オール・オヴ・ミ―」、ホレス・シルヴァー「クイックシルヴァー」といったジャズの名曲だけでなく、スタイリスティックスの「ベチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」、マーヴィン・ゲイ「ワッツ・ゴーイング・オン」、さらにチャーリー・パルミエリ「スタート・ザ・ワールド・アイ・ウォント・ゲット・オン」といったおなじみの曲がずらり。いわば、スタンダードのカバー・アルバムなのである。
しかし、単にカバーやってみました…… というのとはまったく違う。いわゆるラテン・ジャズのスタイル—— つまり、ピアノ/パーカッション(ドラムス含む)/ベースによるトゥンバオを基本にして演奏が展開されるのだが、「アフロ・ブルー」にしても、エレピになるとこんなにも雰囲気が変わるものなのか! 彼らの中にある、ジャズ、ラテン、そして、R&Bの素養が非常に色濃く滲み出しているように思われるサウンドである。そこには軽やかなポップさも感じられ、ニューヨークに住む若い世代のラテン~ジャズ・ミュージシャンたちがどんなことを考えているのかが実によく表れたアルバムとなっているように思われる。爽やかな印象さえ感じさせる充実した1枚だ。
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