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[2019.06]QUARTABÊ 巨匠たちの作品を遊び心満載に再解釈する 〈4年B組〉の生徒たち

文●宮ヶ迫ナンシー理沙

text by NANCI LISSA MIYAGASAKO

 ブラジル新世代の音楽家のなかでもその音楽性が評価され注目される女流演奏家ジョアナ・ケイロス(本誌で連載掲載中)が所属することで知られ、その斬新さが目を引くインストゥルメンタル・グループ4人組、クアルタベー。デビュー時のアーティスト写真では、いたずらっぽい表情で、全身ペンキだらけ学生服姿の彼ら。コンセプトは、学校のクラス。作品ごとに一人の巨匠を課題に選び、その巨匠の作品を大胆に再解釈をする。〝実験〟と〝遊び〟がグループのモットーだ。

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 メンバーは、マリアー・ポルトガル(ドラム)、弊誌でおなじみのジョアナ・ケイロス(クラリネット&クラローネ)、マリア・ベラルド(クラリネット&クラローネ)、そして、黒一点のシカォン(キーボード)。(前作までベース奏者、アナ・カリナ・セバスチアォンが所属していたが、脱退。現在、シコ・セーザルのバンドメンバーとして活躍中)。

 グループの原型は、サンパウロ前衛派の中心人物であるアヒーゴ・バルナベーが『Claras e Clocodilos』(1980)の再解釈を試みるために招集した女流バンドである(さらにその前身にサンパウロ前衛派に影響を与えたコンポーザーHermelino Neder曲集のためにアヒーゴが組んだ「O Neurótico e as Histéricas」がある)。彼らのライヴ映像がYouTubeで見られるが、なるほどこのアヴァンギャルドさは、この前身のバンドから受け継いだものだと納得する。彼らのライヴを見たモアシール・サントス研究をするアンドレア・エルネスト・ヂアスが、自身が企画しているFestival Moacir Santosで演奏して欲しいと依頼したことがきっかけで、クアルタベーは始動する。全くの白紙の状態で自由にモアシール作品を再解釈して欲しいと依頼され、その際にマリア・ベラルドの学友だったハーモニー楽器のキーボード奏者としてシカォンが招き入れられた。まるで長年いっしょに演奏をしているかのように、良い化学反応を起こしたメンバーの演奏は好評で、アルバムを求める声に応えて、グループを継続することになったのだという。遊び心をもち、笑いが絶えないという彼ら。まるで4年B組(クアルタベー)だねと、ふざけてつけた名前に愛着が湧いてグループ名として採用された。

 最新作は、『lição #2: dorival(課題#2:ドリヴァル)』。前作にも増して大胆にドリヴァル・カイミ作品を彼ら独自に解釈をし、各方面で物議を醸し出している作品。最新作について、巨匠たちの作品を解体し再構築してく彼らのその試みについて聞いた。

── 前作のときに、ジョアナが「ここまでやっちゃっていいのかな?!」と恐る恐る大胆なアレンジに挑戦し、それは自分たちを解放する、また異なった提案をする勇気をもつ訓練となったと語っているのを聞きました。最新作では、とても大胆にドリヴァル作品を解体して、その恐怖心から解放された印象をもちました。制作はどのように行われたのですか?

マリアー・ポルトガル クアルタベーは、最初からモアシール・サントス作品にまったく新しい解釈をするという目的で結成されました。1stでは、異なった音を提案し、独自のアレンジを施したとはいえ、そのフォーマットは原型を尊重したものでした。メロディーはそのままだったりして、あるところまでは伝統的な方法で曲を解釈しようとしました。「ドリヴァル」では、そのもう一歩先を行こうとしました。ドリヴァルはモアシールと異なり歌を作曲したコンポーザーで、今の世代の人たちにとってそうであるかどうかわからないけど、ある世代の人たちにとっては、聴き親しまれたコンポーザーです。ブラジル音楽に関心があれば、ドリヴァル作品には必然的に出会います。その歌詞も、メロディーも多くの人の耳に記憶されています。それに対してモアシールは広く一般的に知られていたわけではありません。ドリヴァルは、ポピュラー音楽のコンポーザーであり歌手でした。だからこそ、よりラディカルなことをしようと考えました。結果、ドリヴァル作品が容易にそれだとわからない作りになりましたが、部分的にわかる箇所もあれば、そうでない箇所もある。それでも、ドリヴァルはそこに存在していて、私たちがよく言うのは、私たちが奏でる音符は、ドリヴァルがつくった何かしらを素にしているということです。歌だったり、彼が演奏するギターだったり。

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── それは、将来的に自作をつくるための一歩で、あらたな作品への架け橋になったとも言えますか?

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