[2019.08]映画『存在のない子供たち』
文●圷 滋夫 Shigeo Akutsu
昨年のカンヌ国際映画祭審査員賞受賞作。冒頭から言葉の鋭さが 胸をザワつかせる。まだ12歳の主人公ゼインは「クソ野郎を刺した」罪で収監中だが、「僕を産んだ罪で両親を訴える」という衝撃的な理由で今、法廷に立っている。
映画はまず手錠をかけられたゼインとエチオピア移民の黒人女性ラヒルを映し出すが、二人が出会うのは物語の中盤だ。そして裁判の進行を少しずつ点描するのと並行して、ゼインがなぜ両親を憎むようになり、ラヒルとどんな関係を築いたかを、物語の起点に遡って描き出す見事な構成だ。
レバノンのスラム街のボロアパートに住むゼインの両親には、何人もの子供がいる。しかしいずれも出生届を出さず学校にも行かせず、単なる労働力としか考えて いない。そしてゼインが大好きな11歳の妹サハルを、大家から色々と便宜を図って貰うために、大家のバカ息子の嫁にしてしまう。
怒りと悲しみに打ちひしがれた ゼインは、家を飛び出し当てもなく彷徨い、仕事にありつけないでいる時にラヒルと出会う。ラヒルは不法滞在者でまだ小さなヨナスを一人で育てていて、その子守役としてゼインと一緒に疑似家族のように暮らし始めるのだが…。
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