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[2020.01]映画評 『家族を想うとき』『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』

文●圷 滋夫

 イギリスが世界に誇る名匠ケン・ローチ監督は怒っている。16年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した前作『わたしは、ダニエル・ブレイク』発表後に、再び表明した引退宣言を撤回する程に!

 ローチの創意を再び突き動かしたのは、テクノロジーの進化によって労働者が秒単位でがんじがらめに管理されてしまう社会システムの冷淡さだ。それによって幸せだった家族が少しずつ壊れていく姿を、ローチはスクリーンに克明に刻んでいる。

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『家族を想うとき』

 舞台は前作に続きニューカッスルだ。銀行の取り付け騒ぎにより慣れ親しんだ仕事も手に入りかけていたマイホームの夢も失い、人生設計が完全に狂ってしまったリッキーは、フランチャイズの宅配ドライバーとして再生を試みる。しかし〝個人事業主〟という誘い文句とは裏腹に、本部の冷酷な規則とコンピュータ管理による融通の利かない奴隷のような労働に、心身共に少しずつ疲弊してゆく。

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