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[2020.04]ブラジルポピュラー音楽にヴァイオリンの居場所を開拓した 踊るヴァイオリニスト、ヒカルド・ヘルツ

文●宮ヶ迫ナンシー理沙 text by NANCI LISSA MIYAGASAKO

 マルチ・プレイヤーでソングライティングでも注目されるアントニオ・ロウレイロや超絶技巧ギタリストのヤマンドゥ・コスタ、ブラジルインスト音楽界の最重要グループの一つであるパウ・ブラジルでの活動で知られるピアノのマエストロ、ネルソン・アイレスなど目を引くデュオ作品の数々をリリースし、ブラジルポピュラー音楽におけるヴァイオリンの存在を新たに確立したと言われる奏者、ヒカルド・ヘルツ。サンパウロのノヴォス・コンポジトーレス周辺のアーティストとの親交も深かったり、ミナスの新世代ともつながっておりアレシャンドリ・アンドレスの近年のリーダー作『Macieiras』(2018)などにもゲストとして参加していたりする。ジャンルを超えて活躍する。

 身体をうねらせ、くりんくりんの長い髪の毛を振り乱しながら、飛び跳ねて演奏する踊るヴァイオリニストには、ヴァイオリンの概念を覆される。彼の音楽は祝祭的で、パフォーマンスは演劇的、音楽がもたらす喜びを最大に表現し、聴く(見る)者にもそれを感じさせてくれる。2019年末にリリースした、ハバナの女性弦楽団カマラータ・ロメウと共演した最新作のMVでの飛び跳ねっぷりに釘付けになってしまい、年越しはそれを聴きながら、我が家の大掃除に励むことができた。

 いつか生演奏が見たいなぁと思っていたタイミングで初来日の情報が舞い込んできたのだった。それも、招聘をしたのは日本最大級のブラジル人集住地域のひとつである群馬県大泉町を拠点とし、主に移民の子どもたちを対象とした音楽教育活動を行う〝Música Sem Fronteiras(日伯芸術音楽協会)〟 という、コミュニティのなかからこんなセンスの良いブッキングをする人がいたなんて! という嬉しいサプライズ付きだった(団体については、別枠)。

 ヒカルド・ヘルツの来歴についてまとめておきたい。1978年生、サンパウロ出身。2歳の頃から習い事で音楽教室に通い、音楽の虜になった。8歳のときにはサンパウロ交響楽団の公演でソロ演奏を行った少年に憧れて、「彼が習っている先生に僕も習いたい!」とたどり着いたのは、日本からの移民であるヴァイオリン奏者のフクダ・ヨシタメ、エリザ親子。大学入学に至るまで、手ほどきを受けた。

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