見出し画像

[2018.11]【連載 それでもセーヌは流れる 118】モンマルトル時代のサラヴァ1967-1977

文●向風三郎

1) バンジャマン・バルー著『サラヴァ 1967-1977』(Le Mot et Le Reste社刊 2018年4月)表紙写真はピエール・バルーと愛犬ライカ2

バンジャマン・バルー著『サラヴァ 1967-1977』
(Le Mot et Le Reste社刊 2018年4月)
表紙写真はピエール・バルーと愛犬ライカ

 2016年12月ピエール・バルーは82歳でこの世を去った。2018年4月に刊行されたバンジャマン・バルー著『サラヴァ 1967〜1977』は、父の生前から準備されてはいたが、その突然の死は父から聞き出せなかった多くのことを悔やむことになる。しかし、父の死後だからこそ明らかにされる多くのこともある。バンジャマンは1970年、ピエールと当時の妻ドミニク(歌手、タップダンサー、ブティック・サラヴァの切盛り等)の間に生まれた。ピエールやサラヴァのアーティストたちの膝の上や肩の上にいた当時の写真で見ることができる巻き毛の幼児だった。この幼い子の遊び場はモンマルトルの丘アベス界隈、遊び相手はサラヴァ録音スタジオ関係者やミュージシャンたち。だがバンジャマンにはその頃の記憶はほとんど消えていて、ましてやその周りの大人の世界で一体何が起こっていたのか知るよしもなかった。サラヴァは彼が生まれる前(1965年)に設立された。風説に言われるように、クロード・ルルーシュ映画『男と女』(1966年)の世界的成功で入ってきた大金で始めた会社ではない。その映画の制作資金不足を補うため、先に映画音楽(フランシス・レイ+ピエール・バルー)をレコード会社に売り込んだがことごとく断られ、それならば自分たちで音楽出版社を作ってやろうと即席に設立されたものである。映画は当たり、その配当でサラヴァ社が録音スタジオをモンマルトルに据えた時から、この丘は音楽の梁山泊と化し、イジュラン、アレスキー、ブリジット・フォンテーヌ、アート・アンサンブル・オブ・シカゴ、ナナ・ヴァスコンセロス、ピエール・アカンダンゲ、ジャン=ロジェ・コーシモン、マージュン等が昼に夕に集まってきて、創造と宴を繰り返すようになる。スタジオが人手に渡る1977年までの狂騒の10年間、幼いバンジャマンは何かを見ていたのだが、幼児の記憶ではほとんど理解できなかったことを50年後に再検証したいと思ったのだ。本書はアーティスト、録音技師から事務秘書に至るまでサラヴァ創世記の当事者たち十数人の証言によって、この10年間にピエール・バルーとその一党に何が起こっていたのかを浮き彫りにする。

 残念なことに、最重要と思われる証言者が三人欠けている:ブリジット・フォンテーヌ(語りたくないという気持ちをリスペクトしたいとバンジャマンは書いている)、ジャック・イジュラン(今年4月に死去)、そして頭目ピエール・バルー。

 サラヴァには正確な記録者がいない。大人になったバンジャマンが90年代にサラヴァのスタッフに加わった時、このレーベルにはカタログ(製品目録)がない、ということに驚いたと言う。彼は在庫のある品のリスト化から着手していったが、あれもあったはずだ、これも録音されたはずだ、は何も記録されていないのである。跡形もなく処分されたり、どこかに持ち去られたストックというのもある(はず)。ピエールが経営やマネージメントというものに頓着しなかったということが主原因であろうが、サラヴァには様々な穴が開いている。

この続きをみるには

この続き: 4,594文字 / 画像4枚
この記事が含まれているマガジンを購入・購読する
このマガジンにはラティーナ2018年11月号の主要な記事が収められていますが、定期購読マガジンの「ラティーナ」を購読していただくと、最新号とアーカイブの全てが月額900円で読めるのでお得です。(※デジタル定期購読している方は、e-magazine LATINA内の全ての記事が読めます。このマガジンを「目次」と考えてください)

ラティーナ2018年11月号のアーカイブです。

このマガジンを購読すると、世界の音楽情報誌「ラティーナ」が新たに発信する特集記事や連載記事に全てアクセスできます。「ラティーナ」の過去のアーカイブにもアクセス可能です。現在、2017年から2020年までの3.5年分のアーカイブのアップが完了しています。

「みんな違って、みんないい!」広い世界の多様な音楽を紹介してきた世界の音楽情報誌「ラティーナ」がweb版に生まれ変わります。 あなたの生活…

「スキ」、ありがとうございます! Obrigada!
1
広い世界の多様な音楽を紹介してきた世界の音楽情報誌「ラティーナ」がweb版に。 あなたの生活を世界中の多様な音楽で彩るために情報を発信します。 月額900円のデジタル定期購読で、新規記事も、過去のアーカイブも読み放題! (※2017年以降の主要記事がアップ済。順次追加)

こちらでもピックアップされています

世界の音楽情報誌「ラティーナ」
世界の音楽情報誌「ラティーナ」
  • ¥900 / 月

「みんな違って、みんないい!」広い世界の多様な音楽を紹介してきた世界の音楽情報誌「ラティーナ」がweb版に生まれ変わります。 あなたの生活を世界中の多様な音楽で彩るために、これからはこちらから情報を発信していきます。 毎月の特集や、強力な面々による連載に期待してください。世界のニュースや音楽情報、新譜リリース情報、イベント情報などは、日々更新していきます。購読者に向けて、様々なプレイリストも共有予定です。

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。