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[2019.08]歌の国 ブラジル

文●中原 仁

プロフィール●音楽・放送プロデューサー、選曲家 / J-WAVE「サウージ!サウダージ」など番組制作。『21世紀ブラジル音楽ガイド』を監修。

 1985年4月。初めてブラジルを訪れ、リオに到着した日の夜に行ったのが、イヴァン・リンスのコンサートだった。イヴァンの曲も歌も素晴らしかったが、それ以上に感動したのは、よく知られた曲が始まると、オーディエンスが一斉に大合唱を始めたこと。何度となく歌声の輪に包まれているうち、自然に涙がこぼれてきた。隣を見ると、日本から同行した友人も同じように顔をくしゃくしゃにしている。ブラジル人が自ら声を上げて歌うのが大好きであることは、ライヴ盤やコンサートの映像を通じて知っていたが、目の当たりに体験した感動は言葉にできないほど大きなものだった。

 以来30余年の間に、こうしたシーンを100回以上は体験してきた。ブラジル人は 〝音楽の最高の楽しみは自ら歌うこと〟と心得ていて、ライヴの主役であるアーティストがオーディエンスの歌の伴奏に回ることも珍しくない。

 思い出せばいくつものシーンが蘇ってくる。87年、ミルトン・ナシメントが名曲「トラヴェシア」の20周年を記念して行なったコンサートは終始、一万人以上のオーディエンスの大合唱に包まれ、歌の輪の中で僕は号泣していた。

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