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[2022.6]【連載 アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い㉔】別荘を囲む自然を仰ぎ浮かんだ歌 ⎯ 《Dindi(ジンジ)》《Correnteza(水の流れ)》

文と訳詞 : 中村 安志 texto por Yasushi Nakamura

中村安志氏の好評連載記事「アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い」と「シコ・ブアルキの作品との出会い」は、基本的に毎週交互に掲載中です。いずれもまだまだ興味深いお話が続きます。今回はジョビンとシコのエピソードから。来週のシコについての記事もお楽しみに!

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 ジョビンにとって、静かで豊かな自然に囲まれたリオ郊外の地、ポッソ・フンドにある別荘で過ごす時間は、とても貴重な時間であったようです。ここで着想し練り上げたとされる作品には、例えばこの連載の15回目でご紹介した「大西洋岸の森林を守れ」と叫ぶ「Borzeguim」など、自然を讃える作品などが多数挙げられるほか、「3月の水」、「マチータ・ペレー」など、ボサノヴァ成功以後の時期においてジョビンの作風の大きな転換点となった名作、更には、「Estrada branca(白い道)」といった、静かに思索に耽るかのような歌なども、こうした環境で過ごす時間の中で生まれたと言われています。

 今回ご紹介する歌「Dindi(ジンジ)」は、この地で書かれた作品の中でも比較的初期となる、1959年の作品。後に独自のアレンジが加えられ、ボサノヴァのレパートリーとして有名になり、日本でも多くの方に知られていると思います。ただ、面白いもので、この59年の録音を聞く限り、ボサノヴァというよりも、それまでのブラジルでよく歌われてきたロマンティックな歌謡曲にかなり近いものとなっています(音源をお聞きください)。

 意外に感じられることかもしれませんが、ジョビンが制作した時点では、ボサノヴァの曲として意識されてもいなかったものが、ジョビンの作品であるというだけで、後にブームとなったボサノヴァの仲間に便宜上含まれるという流れをたどった例がいくつも存在し、この曲はその典型的な例かもしれません。

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