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[2020.01]ニコラス・エンリッチ(キンテート・グランデ バンドネオン奏者) インタビュー

文● 清川宏樹 text by HIROKI KIYOKAWA

 タンゴファンにとって年に1度の大きな楽しみである民音タンゴシリーズも、本年で51回目を迎える。毎年アルゼンチンを代表するアーティストが来日し、演奏、歌、そしてダンスからなる「総合芸術」としてのタンゴのステージを届けてくれるが、来日する演奏陣は、巨匠率いるオルケスタから、来日を重ねるお馴染みの楽団、そして若手率いる気鋭のグループまで毎年様々だ。本年の演奏陣であるキンテート・グランデは、まさにブエノスアイレスの今を時めく若手~中堅までのトップ奏者たちによる五重奏だが、そのコンセプトは革新性のみにあるわけではない。新たなタンゴを切り拓くとともに、かつて存在した楽団へのオマージュと再現にも真正面から取り組み、まさにタンゴの「温故知新」を目指すグループと言えよう。

 ディエゴ・スキッシをはじめとする新たな作曲家の登場や、CD『Los que vendrán』に参加した奏者をはじめとする確かな実力を持った若手バンドネオン奏者の台頭などにより、世界の音楽シーンの中でのアルゼンチン・タンゴを取り巻く状況は少しずつ、良い方向に向かいつつある。そのシーンのど真ん中にいる音楽家の一人が、キンテート・グランデのバンドネオン奏者、ニコラス・エンリッチだ。彼は2014年の民音タンゴでグレコス・タンゴ・オルケスタの一員として来日しているが、当時の公演のリーダーであるラウタロ・グレコと並び、彼は今やブエノスアイレスを代表する若手筆頭のバンドネオン奏者である。最近ではフアン・パブロ・ナバーロ六重奏団/七重奏団への参加も特筆すべき点で、まさにタンゴの「内と外」の世界をつなぐ稀有な存在となりつつある。そんな彼の来日を目前に控え、メールでのインタビューを行った。

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