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[2017.08]【第7回 カンツォーネばかりがイタリアじゃない】Roma incontra il mondoヴィッラ・アーダの奇妙な夏祭り

文● 二宮大輔

ヴィッラアーダ小島

ヴィッラ・アーダの小島

「夏は夜」という枕草子の定説は万国共通なのかもしれない。ローマでも夏は夜が格別だ。昼間の日差しの暑さをほのかに残す石畳に、涼しい夜風が吹き抜ける。ジェラートやかき氷を食べながら、川沿いを散歩する。イベントも盛りだくさんで、例えば野外上映会。この時期、雨の少ないローマでは、野外にスクリーンを設置して特別プログラムを実施することが多い。そして同じような感覚で野外にステージを組んでライヴも行われている。夏休みに、何日間もかけて緩やかに続いていくローマの野外ライヴは、広大な土地を利用して開催される「夏フェス」とは性格を異にする、町の日常生活と地続きの音楽フェスティバルだ。

 そんな野外ライヴの一つに、1994年から続くRoma incontra il mondo(ローマ、世界と出会う)がある。ARCIという全国的な文化事業団体が主催するこのイベントでは、ローマ市の北東に位置するヴィッラ・アーダ公園の中にある人工池の小島に設置されたステージに、七月半ばから九月半ばまでの約二か月間、日替わりで国内外の様々なミュージシャンが出演するほか、ジャーナリストのトークショーや風刺劇も行われる。今年のメンツは国内インディー・ロックの代表格バウステッレ、エキゾチックなジャズ楽団サン・ラ・アーケストラ、イギリスの伝説的ポストパンク・バンドのワイヤーなどなど、まさに「世界と出会う」である。

サンラアーケストラ

サン・ラ・アーケストラ

 私も一度このイベントを観に行ったことがある。その時に出演していたのは往年のイタリアン・ポップスをスカ風にアレンジする人気歌手ジュリアーノ・パルマのバンド・セット。五百人規模の会場では、観客がビールやソーセージを手に持って音楽に耳を傾ける、ある種の夏祭りのような楽しい雰囲気が広がっていた。

ジュリアーノパルマ

ジュリアーノ・パルマ

 だが、その時に感じた楽しさだけでは説明し切れない不思議な魅力が、Roma incontra il mondoにはあって、それにはヴィッラ・アーダという場所の特殊性が深く関わっているように思う。

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