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[2019.12]成熟するカイミ家の若き鬼才、 アリシ・カイミ 日本初インタビュー

文●ヂエゴ・ムニス text by Diego Muniz

 カイミ家の第三世代を代表する人物、カリオカの(リオ出身の)歌手、コンポーザーは伝統と独自のコンセプトとの間に橋をかけながら、独自路線を開拓する。若干29歳にして、アリシ・マラグッチ・カイミは、ブラジル・ポピュラー・ミュージック界で最も目立ったディスコグラフィーの持ち主のひとりだ。1stアルバムである『Alice Caymmi』(2012)では、ビョークから祖父ドリヴァル・カイミまで非常にバラエティに富んだ選曲をし、さらには『Rainha dos Raios』(2014)でジルベルト・ジルとカエターノ・ヴェローゾ作の「Iansã」の独特な世界観に挑み、『Alice』(2018)では、注目を浴びるドラーグクイーン、パブロ・ヴィタールとのデュエットを発表した。


 最新作『Electra』は、ピアニスト、イタマール・アシエリを迎えて、声に余計な加工を加えずありのままの声で、クラシカルなアルバムを完成させた。

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Alice Caymmi『Electra』

 題材としたはギリシア神話に登場する女性エレクトラ。ブラジルの政情や、愛を主題とした詩を取り上げ、チン・マイア、ハイムンド・ファギネル、マイーザ、トン・ゼー、カンデイアなどの大アーティストたちのあまり知られていないレパートリーを選曲し、さらに、アマリア・ロドリゲスのファドまで歌った。

 ドリ・カイミの娘で、ナナ・カイミの姪である、コンポーザーそして歌手であるアリシが、代々MPBの世界で活躍してきた家族の一員であること、そして日本文化にも影響を受けたという新作について語ってくれた。

── 『Electra』は今までのディスコグラフィーのなかでも一際異色で、ピアノとヴォーカルだけで自分をさらけ出した内容になっていますね。このアルバムを制作するにあたりどのような作品を参考にしたのでしょうか。

アリシ・カイミ その技術、ヴォーカルの卓越性をもって、否応なしに影響を受けたのは、叔母のナナ・カイミの『Voz e Suor』です。ヴォーカルとピアノだけの傑出したアルバムであり、とても記憶に残っているアルバムです。他にも聴いてきた素晴らしい作品がありますが、このアルバムは特別です。

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Foto Bruno Ribeiro

── ヴォーカルとピアノだけでアルバムをつくろうと思ったきっかけは?

アリシ・カイミ 貫禄があって、独特だと、私の声についての評判をいろいろと聞きますが、声を主役にしたことがこれまでありませんでした。いままで、アレンジをとても重要視してきましたし、音楽家でも自分はアレンジャーでありプロデューサーだと思ってきました。でも、アルバムにするに値すると思い直して、声のニュアンスや表情を聴いてもらえるように人物設定をすることにしました。観客がライヴで接したすべてが、アルバムに詰まっています。

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