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[2019.08]アドリアーナ・カルカニョット 〜“海”をテーマにした3部作が完結

文●ヂエゴ・ムニス text by DIEGO MUNIZ

 オリジナル未発表作品をリリースしない期間を経て、8年ぶりにアドリアーナ・カルカニョットが戻ってきた。その間、ステージから遠ざかっていたわけではなく、『Olhos de Onda』(2011)や、ルピシニオ・ホドリゲス集を歌った『Loucura』(2015)などをリリースし、昨年はポルトガルで教鞭をとった一サイクルを終え、その成果物として計画された「A Mulher do Pau Brasil」ツアーも行った。そして今年、海にインスパイアされて書いた『Margem』を録音するためにスタジオを入った。1998年の『Maritmo』からスタートし、その10年後に2作目となる『Maré』を発表した海をテーマとした三部作を完結するもの。この最新作は、『Maré』をリリースした際に、作品におさまらなかった「o Principe das Marés」(Péricles Cavalcanti作)と「Os Ilhéus」(José Miguel Wisnik作)の2曲をベースに構成された。11年もの歳月をかけて、ほぼ秘密に独りで制作を行い、もっとも政治色を帯び、そしてキャリアのなかでももっともポリリズミカルな作品となっている。期限、プレッシャー、期待からも解放されたアドリアーナは、ボサノヴァ〜ファンキのビート〜ポルトガルギターまで起用し、海をテーマに自らのクリティカルな視座を表現する。ベン・ジル、ブルーノ・ヂ・ルーロ、ハファエル・ホーシャ、スタジオでの録音をサポートしたメンバーとともに、8月よりブラジルでツアーをスタートしアメリカ、ヨーロッパをまわる予定だ。

——『Margem』は11年もの年月をかけて制作され、これまでのキャリアでももっとも長い時間をかけて制作された作品ですね。その時間は、作品に新しいなにかをもたらしましたか?

アドリアーナ・カルカニョット そんなに時間があること自体が新しかったです。アルバムをつくるのに、こんなに長い時間をかけられたことがありませんでしたから。

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