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[2018.05]特集:中南米を旅する -音楽家たちが見た中南米の景色- 南米で夢をみる(宮沢和史)

文と写真●宮沢和史

texto e fotos por KAZUFUMI MIYAZAWA

プロフィール 1966年山梨県甲府市生まれ。THE BOOMのボーカリストとして1989年にデビュー。これまでにTHE BOOMとしてアルバムを14枚、ソロでは4枚、GANGA ZUMBAとしては2枚リリースしている。作家としても、喜納昌吉、矢野顕子、夏川りみ、MISIA、中島美嘉、岡田准一(V6)、島袋寛子、平原綾香、Kinki Kidsなど、多くのミュージシャンに楽曲を提供。代表曲のひとつ 「島唄」はアルゼンチンでの大ヒット(2001年)をはじめ、国境を越えて今なお世界に広がり続けている。デビュー25年を迎えた2014年、日本武道館でのライヴを最後に、THE BOOMの歴史に幕を閉じ、しばらくの充電期間を経て、2017年から歌手活動を少しづつ再開している。沖縄芸術大学で非常勤講師も務める。

 昨今のように、世界中に緊張感が走り、不穏な靄が立ち込め、何かの些細なきっかけでかろうじて保たれていた均衡が崩れてしまいかねない状況が続くと、フラっと行ってみたい国なんてなかなか思いつかない。そもそも、理想的、完璧な国なんて幻想でしかなくて、世界中どこを見渡したって楽園、ユートピアなんてあるはずがないし、国家なんてどこも一長一短だと誰しも思うわけだが、近頃は〝悪いところばかり目に付くけどいい部分だってある〟と、どこの国も一短一長とでも言いたくなるような段階に突入しているように見える。ヨーロッパの国々には難民が流入し、国粋主義が台頭し、ナチズムが見え隠れする。日本の周りを見渡してみたって長期政権に居座る強面のリーダーがメンチきって互いに一歩も譲らない。国益最優先、って言うけど、国益っていったいなんだろうって思う。国益を得るとそこの国民は幸せになれるのだろうか? 誰もが裕福になるのだろうか? 僕はならないと思う。なぜなら食料・土地・水源・など、人間が生きていくのに必ず必要な資源は有限であり、その何倍もの人間がこの惑星に巣食っている限り、力のある者、お金を持っている者、悪い人間、が富を奪い取り、蓄え、ほとんどの者が地べたに置いていかれる構図にならざるを得ないからである。人類全員がモノを潤沢に所有し選択の自由を得ることは不可能だからである。権力を持つ者たちが自分の利権を肥やすために持たざる者を増やしていく流れ、要するに貧富の二極化、差の拡大、がますます加速するはず。大嫌いな言葉の一つだが、〝勝ち組・負け組〟の二極化と言いたくなる。負け組の開き直りがドナルド・トランプという男を神輿に乗せてしまった。ポピュリズムは諸刃のやいばであり、場合によってはファシズムと対義語になる場合もあるわけだが、トランプにしろ、ナチスドイツにしろ、民衆の不平不満、苛立ち、破壊願望、破滅主義、がむしろモンスターを誕生させてしまったと言えるのではないだろうか? 火山噴火と一緒で、あちこちに吹き溜まった負のエネルギーが、あるきっかけで一気に噴き上がり、辺りをめちゃくちゃにして、地形を変え、その後、流出したマグマがゆっくりと冷めて静けさを取り戻し休火山となるが、気づかないうちに再び地下にマグマが溜まり噴火の時を待つ。俯瞰から見たら戦争というものはそういうものではないだろうか? 戦後70年くらい経過すると、戦争を知らない世代がほとんどを占め、また戦争という形で噴火活動が始まる。まさに今その前夜なのかもしれないと思うことが多くて本当に怖くなる。そんな時に、口達者な学長にうまく言いくるめられて振り回され、なりふり構わずタブーを冒している政府、財務省、が情けなくなるが、言い方を変えればそんな小さなことで国家機能がストップしてしまうような国は、他国にその気があれば数ヶ月で占領されるだろう。かつて、わが国がそうやって周囲の国々を飲み込んでいったように。

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