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[2018.04]島々百景 #26 八重山諸島・竹富島

文と写真:宮沢和史

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 沖縄県の石垣島から船に乗って南西へ進むとあっという間に小さな島に着く。石垣島のフェリー乗り場周辺の雑踏からたった15分で次元をひとつまたいだほどの別世界に上陸することができる。その島の名前は竹富島。島のおじさんが三線を弾いて歌いながら水牛車で島内を案内している光景をテレビなどでご覧になったことがあるかと思うが、そう、まさにあの島である。星の数ほどある琉球弧の民謡の中で最も知名度が高く、多くの人に親しまれている「てぃんさぐぬ花」と肩を並べる名曲「安里屋ゆんた」は実はこの小さな島から生まれた歌である。どのくらい小さな島かというと海と設置している外周は9.2㎞、しかも、島内を一周する道はなく一般的には足を踏み込まないエリアが結構あるから、実際の行動範囲は限られ、感覚的には自転車で一汗かくくらいで周れてしまうイメージだ。

 サー 君は野中のいばらの花か サーユイユイ
 暮れて帰ればやれほんに引き止める
 マタハーリヌ ツィンダラ カヌシャマヨ

 てぃんさぐぬ花と比べてみると歌詞は最後の一行以外は島の言葉ではなく共通語だから紐解きやすいし、メロディーもどこか聞き覚えのあるような親しみやすさがあって覚えやすく、これならみんなと一緒に歌えるかも、そんな気分にさせてくれるキャッチャーさがある。イントロの軽快なメロディーと相まって、地域を越えて多くの人に愛される要因が揃っているように思える。八重山諸島の小さな島で生まれたわりには土臭さがない。それもそのはずで、実は我々に馴染みのあるこの安里屋ゆんたは元々は安里屋のクヤマという美女と、何とか彼女を自分のものにしようとするのだが、上手くあしらわれてしまう役人目差主とのやりとりを歌にしたもので、のちに三線の伴奏が付き、節唄となり、さらに、1934年に星克作詞、宮良長包作曲により標準語で作品化された。なので我々がよく聴くのはこれで、言ってみれば「新安里屋ゆんた」とでも呼べる現代版なのである。不朽の名作というのは文字通り古くならない、朽ち果てないばかりでなく、時代時代の人が手を加え、マイナーチェンジ、リニューアルが施され更新されていくものなのだろう。それだけいつの時代も歌いたい人が数多くいる人気曲だからと言えるわけで、時代が変わり、人々の価値観が変わっても、アップデートされ、〝今の時代〟を生き続けていくだろう。

 竹富島というところは、いつ頃から人が暮らし始めたのかが定かではなく、12世紀頃までの様子を伺い知りことが困難だが、共同体における生活の中で徐々にリーダーが地域をまとめていったと思われる。琉球史で言うところのグスク時代に琉球や大和から島に渡ってきた個性的で人間力の強い六人の人物が地域のリーダーとなり、事あるごとに話し合いの場を持って平和的に島をまとめていたようだ。まず、初めに村を形成したと言われている琉球から来た他金殿や、屋久島出身の根原金殿ら、六人による体制を六山の神、六山の時代、などと呼ぶ。その後、琉球と宮古島からの圧力が八重山に及び始めると、八重山一帯をまとめていたオヤケアカハチが1500年に琉球勢に立ち向かうが倒れ、この時からおよそ100年間、八重山地方は琉球王国の支配下に置かれることとなる。竹富島で生まれ、琉球で様々な学問を学び、土木建築家として才能を開花させた西塘が島に戻り、八重山を統治し、琉球王国の地方行政官庁を一時は竹富島に配置した。島には日々大勢の人々が集まり、人口は増え、大変な賑わいをみせていたに違いない。

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 竹富島に伝わる古謡を、島で暮らしてらっしゃる、上勢頭同子さん、次子さん、まりさん、御三方の歌で聴かせていただける機会に恵まれた事があった。中でも特に印象的だったのは「うずらまのゆんた」

 荒し火ぬ燃いやくん 野や火ぬ燃やくん
 卵まーや 転ばし うずらまや びざらし
 天雨ぬ給られ 上雨ぬ給られ
 卵まや 生しみ うずらまや 嬉さし

【歌意】
 荒れた畑でうずらが巣を作って卵を大
 事に温めて暮らしていたが、
 畑に火が燃え広がってしまった。
 しかし、天の神が雨を降らせてくれてう
 ずらは難を逃れた。
 卵は無事に孵った。

 この歌がどういう背景から生まれたのかは勉強不足で定かではないのだが、かつては、自分たちの地域、社会、に降りかかった大きな現象がひとつの結果を生み出し、そうなった原因を導き出し、そこにひとつの教訓が生まれ、その教訓を地域社会に戒めていくために、記録する代わりに歌として口承するのも古謡のひとつの役割だったであろう。言い換えればその歌の中にシマに起こった惨事や神がかった事象、哀しみや喜び、島外不出の秘密などが隠されているのかもしれない。〝民謡〟と呼ばれるようになる前の古謡を自分としては今後もう少し掘り下げて勉強してみたい。

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