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[2022.2]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2022年2月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

 e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。

20位 Oki · Tonkori in the Moonlight(1996-2006)

レーベル:Mais Um [-]

 アイヌに伝わる伝統的な弦楽器、トンコリの奏者であるOKIの最新作。OKI DUB AINU BAND として世界の音楽フェスティバルをはじめ、日本国内のフェスにも数多く出演していることでも知られているが、本作はOKI 名義としてのソロ作品となる。イギリスのレーベル「Mais Um Discos」よりリリースされ、本チャートにランクイン。
 ソロ、バンドとして多くのアルバムをリリースしているが、本作は1996年リリースのデビュー作『KAMUY KOR NUPURPE』から、2006年リリース『KILA & OKI』までの8作品より、レーベル側が選んだ曲が収録されている。以前の作品から選曲しているので、2004年に亡くなった安東ウメ子の声も聴くことができる。
 アイヌの伝統的な楽器を使い、アイヌ語での歌詞でありながら、グルーヴはまさにワールドミュージック!今、改めて聴いてみて新鮮さが感じられる作品。今まで国際舞台で精力的に活動してきた成果が、ここに集約されている作品。輸入盤として聴くことも感動!

19位 Karolina Cicha & Spółka · Karaimska Mapa Muzyczna

レーベル:Związek Karaimów Polskich [12]

 ポーランドの作曲家/歌手/マルチインストゥルメンタリストのカロリーナ・シチャの最新作。彼女オリジナルの作品としては、本作が9作品目となる。歌いながらアコーディオンやキーボードを演奏し、足でドラムを叩くというマルチな演奏を行う。2015年には世界最大のワールドミュージックの祭典「WOMEX」のオフィシャルセレクションに選出され、ヨーロッパ、アジア、アメリカなど多くのフェスティバルに出演している。
 ポーランドの伝統音楽や、少数民族の民族音楽に傾倒しており、これまでポーランドのタタール人の音楽的遺産を掘り下げた作品や、ポドラスキ地方の少数民族の言語に捧げられた作品を発表している。
 本作は、ポーランドにも僅かながら在住している少数民族で「最小の少数民族」と言われているカライム人の音楽をまとめた作品。2020年にバーチャルプロジェクトとしてスタートし、インターネットでの公開から1年後、世界初のカライム伝統音楽専門のアルバムとしてリリースされた、画期的な作品。カライム・コミュニティの歌と歴史を追求し、各地のカライム・コミュニティを旅してきた足跡を地図として表現し、音楽地図を描いている。カライムの音楽は、リトアニアとクリミアの音楽的伝統に加え、ウクライナ、ロシア、ポーランドの影響も受けている。
 彼女は、少数民族に眠る宝物の音楽を熱心に探す活動を行なっており、発見した歌の古い精神を生かしつつ、彼女独自の現代的なアレンジを加え表現している。何かに残さないと消えていくかもしれない音楽を発掘し、表現している彼女の活動に頭が下がる思いだ。

18位 Orquestra Afrosinfônica · Orin, a Língua dos Anjos

レーベル:Máquina de Louco [7]

 ブラジル、バイーアのビッグバンド、オルケストラ・アフロシンフォニカのアルバム。2020年11月20日「黒人意識の日」にリリースされていたが、1年経ってランクイン。昨年末ブラジルディスク大賞2021の関係者投票で、4位に選ばれた作品。
 オルケストラ・アフロシンフォニカは、2009年に作・編曲家/ピアニスト/指揮者であるウビラタン・マルケスによって結成され、打楽器、木管、金管、弦楽器、女声コーラスなど総勢22名で構成されている。アフロシンフォニカという名前通り、アフロ・ブラジル音楽をビッグバンドで奏で、バイーアの打楽器、そして女声コーラスが加わる。
 タイトルの「Orin」とはヨルバ語で「歌」という意味。まさに女声コーラスが神聖さを醸し出し、アフリカと密接な関わりを持つバイーアのビッグバンドならではの個性が際立つ。カンドンブレの儀式で使われるリズムや、ペルナンブーコのマラカトゥなど、アフロ・ブラジルの要素がたっぷり込められている。また、ゲストには、マテウス・アレルイア、ジェローニモ・サンタナ、ラッゾ・マトゥンビといったバイーアを代表する歌手たち、アンゴラ人のドドー・ミランダ、そして現代ブラジル音楽を代表するバンドとなったバイーアのバンド、BaianaSystemも参加。豪華な面々がバイーア色を更に強め、バイーア好きにはたまらない作品となっている。

↓国内盤あり〼。

https://diskunion.net/latin/ct/detail/1008265353

17位 Hoven Droven · Trad

レーベル:Heilo / Grappa Musikkforlag [18]

 1991年結成のスウェーデン五人組バンド。90年代のスウェーデンのフォーク・ロック界を牽引してきたバンドであり、スタジオ録音の作品としては10年ぶり、8枚目のアルバムとなる。
 30年のキャリアで、ヨーロッパと北米で何千回もの公演を行い、伝統的なスウェーデンの民族音楽をベースに彼ら独自の音楽を表現し、多くのファンを獲得している、また、交響楽団、合唱団や、スウェーデンの有名アーティストであるダンサー、ファイヤーアーティストなどと幅広く共演してきた。
 今回の作品では、約30年間のキャリアの中でバンドが磨き続けてきた技術を集約して制作されたとのこと。タイトル「Trad(伝統)」は、これらの曲がいつの日か、彼ら自身がインスピレーションを受けているスウェーデンの豊かな民族音楽の遺産の一部となることを願って付けられたそうだ。
 イントロだけ聴くと、ロック!と思うが、フィドルが加わるとちゃんと伝統音楽と見事に融合しており、彼らオリジナルの音楽として成立している。スウェーデンに残るべき音楽となることだろう。
 上記動画では、おじさん5人がすごく狭いスペースで演奏している姿が見られる。ロックバンド(しかもヘヴィメタっぽい!)のような風貌で、楽しそうに演奏しているのがすごく良い!是非観ていただきたい!

16位 Kateřina Göttlichová · Zimnice

レーベル:Indies Scope [32]

 チェコのヴォーカリスト、作曲家、マルチインストゥルメンタリストであるKateřina Göttlichová のソロデビュー作。スペインからバルカン半島の民族音楽を演奏する女性中心のチェコのバンド、BraAgas のメンバーとしても活躍している。約20年音楽に関わり、チェコの音楽賞であるアンデル賞も複数回受賞しているベテランミュージシャン。ソロプロジェクトとして本作をリリースした。
 バンドでの活動を予定していた2020年、パンデミックのためそれが全てキャンセルになり、自宅で曲作りを始めたのが制作するきっかけとなった。
本作も彼女が得意としている民族音楽がベースになっており、スラブ民族の音楽とワールドミュージックが融合した作品となっている。バンドでのアルバム制作時に出会ったスラブ民謡の美しい歌詞に、伝統的な民族音楽を基にした現代的なメロディーがつけられている。
 アルバムジャケットで彼女が持っているのは、スウェーデンの民族楽器であるニッケルハルパ。この楽器に惚れ込んでしまい、ソロでの作品の音のベースにしようと考えたそう。このニッケルハルパやギターなどのアコースティック楽器が使われ、バンド作品よりもアコースティックな感じが全体的に出ている。また、エレクトロニクスな要素も入り、アコースティックとうまくミックスされ、彼女独自の世界観を美しく表現している。

15位 Choduraa Tumat · Byzaanchy

レーベル:PAN [-]

 トゥヴァ共和国出身の女性ミュージシャン、Choduraa Tumatの最新作。今月2位のホーメイ・ビートもトゥヴァ共和国出身だからホーメイは世界的にも今来ているのか?と思ってしまう。
 タイトル『Byzaanchy』とは、トゥヴァの歴史ある民族弦楽器、ビザーンチのこと。彼女もビザーンチを演奏し、見事なホーメイで歌っている。幼い頃から兄達が歌うホーメイに慣れ親しみ、一緒に歌ってきたそう。1998年に女性だけのホーメイのアンサンブルユニット「Tyva Kyzy」を結成し、それ以来トゥヴァの伝統的な音楽を演奏し続け、精力的に活動している。演奏のため日本に来日したこともあるようだ。
 本作はトゥヴァの伝統的な歌を、4種類のビザーンチを使用し収録されている。ホーメイの歌声に魅了されてしまう作品だ。トゥヴァのビザーンチを普及させ、トゥヴァの伝統音楽のレパートリーを世界に知らしめるべく制作されたとのこと。このチャートにランクインし、見事に結果を残している。
 上記動画はこのアルバムに収録されている曲ではないが、彼女が育ったトゥヴァの美しい自然の中で民族衣装に身を包みホーメイを歌う様子が収録されている。歌っているのは、動画の中に現れるイシュキン川流域に住んでいた伝統的な歌手の歌。自身のユニットでも演奏している曲である。美しい自然と歌のコラボがとても素晴らしい。

14位 Lakhdar Hanou Ensemble · Argile

レーベル:Cricao [-]

 フランス系アルジェリア人のウード奏者ラクダール・ハヌーが率いるラクダール・ハヌー・アンサンブルの最新作。タイトル『Argile』は粘土という意味。古代メソポタミアに焦点を当て、メソポタミア文明の象徴である粘土板に刻まれた歴史や神話をもとに作られた曲が収められている。そのためにパレスチナやイラク出身の女性ミュージシャン達を迎え、オリエンタルな世界観を醸し出している。
 フランスのトゥールーズで行われた公演が、このアルバムを制作するきっかけとなった。ラクダール・ハヌーのウードと、イラク出身のスザンヌ・アブダルハディによるヴォーカルとダフ(西アジアの民族打楽器)でオリエンタルさを引導し、ピアノ、チェロ、ヴァイオリンなどクラッシック音楽の要素と見事に融合している。即興的な演奏を感じる一方で緻密な計算によって練り上げられていることも感じられる作品。
 神話に登場する女神達を歌の題材にし、演奏するのはメソポタミア周辺の出身である女性アーティスト。神話がより正確なものとして聴こえてくるようだ。詩の内容が解るとなお良いのだが、曲だけでも充分世界観を感じられる素敵な作品。

13位 Juçara Marçal · Delta Estácio Blues

レーベル:Mais Um [14]

 サンパウロの過激な歌もの実験音楽シーンの中心グループ、メタ・メタ(Metá Metá)の女性ヴォーカル、ジュサーラ・マルサル(Juçara Marçal)のソロ作がランクイン。2015年の『Anganga』以来となる4枚目のソロアルバムが『Delta Estácio Blues』。
 本作のインスピレーションの出発点は意外なところにある。米国デトロイトのラッパー、ダニー・ブラウン(Danny Brown)の2016年作『Atrocity Exhibition』だ。ジュサーラと、メタ・メタの盟友でギタリストのキコ・ヂヌシ(Dinucci)は、ダニー・ブラウンの、予め素材のみを用意した予測不可能なビートに歌詞をつけるというプロセスに興味を持ち、同じ手法を『Delta Estácio Blues』で行うことに決めた。キコとジュサーラは、リズムとメロディーの土台を作ることから始め、曲作りの共作者と何度もやり取りをして、アレンジを肉付けし、最後にジュサーラがヴォーカルを乗せた。複雑なアレンジと即興的なフィーリングのバランスが均衡した楽曲群がこのように完成した。
 本作の音の多くが電子楽器を使い制作されたことは、上記のライヴを見てもよくわかる。キコやマルセロ・カブラル(Marcelo Cabral)だけでなく、ジュサーラ本人も電子楽器を操作しているのが印象に残る。
 なお、ブラジル最大の音楽賞プレミオマルチショウの特別審査員部門で、『Delta Estácio Blues』が2021年の最優秀アルバム賞、収録曲の「Crash」が最優秀楽曲賞を受賞した。

12位 Youssou N’Dour · Mbalax

レーベル:Universal Music Africa [23]

 セネガルのスーパースター、ユッスー・ンドゥールの最新作!2019年に利リリースされたアルバム『History』以来で、今回新たに契約したユニバーサル・ミュージック・アフリカからのリリースとなる。
 タイトルはセネガルのダンスミュージックである「ムバラ」、彼自身のルーツとも言える音楽、ムバラに回帰した作品となっている。
 ユッスーのベーシストでありプロデューサーだったアビブ・ファイユが2018年に亡くなったが、今回の作品はユッスーの弟であるブーバ・ンドゥールのプロデュースによるもの。パンデミックで自宅に長く留まることを余儀なくされた2年前頃から本作のための作業が始まった。
 アルバム収録曲の8割をセネガルのウォルフ語で歌い、その他はフランス語と英語の歌詞となっている。環境問題を扱った曲「Ndox」(水を意味する)など、様々な社会的なテーマを想起させる作品となっている。また、昨年3月に66歳で亡くなった同じセネガルの偉大な歌手、チョーン・セックに捧げる曲「Ballago Ndumbe Yaatma」も収録されており、彼への敬意が感じられる。
 アルバムジャケットには、様々な楽器に囲まれたユッスーが表現されている。今までのキャリアや経験をもとに成長してきた彼自身の音楽を、楽器を描くことによって表現している。これからも世界の人々に語りかけ、セネガルの音楽を広めていこうとする決意のようなものがこのジャケットから感じられる。今年の注目作とも言える作品であろう。

11位 Monsieur Doumani · Pissourin

レーベル:Glitterbeat [5]

 東地中海に浮かぶ小さな島国キプロス共和国の人気トリオ、ムシュー・ドゥマニの4枚目となる最新作。2021年10月にいきなり1位にランクインして以来ずっとラインクインし続けている注目作。
 2011年に活動を開始して以来、彼らはキプロスの伝統音楽や民謡を現代的にアレンジし蘇らせるサウンドを追求してきた。世界中のフェスティバルなどに出演し、多くの聴衆から高い評価を得て世界中で紹介されてきた。2018年にリリースされた前作となる3rdアルバム『Angathin』では、Transglobal World Music Chartの「2018年のベスト・アルバム」として表彰された。
 満を辞してのこの最新作はドイツのレーベル「Glitterbeat Records」と契約し、彼らのサウンドとスタイルの面で新たな時代の幕開けとなった。前作リリース後、創立メンバーであったアンジェロス・イオナスが脱退し、サポートで参加していたアンディス・スコルディスが正式メンバーとなった。
 タイトルの「Pissourin」はキプロスの方言で真っ暗闇のことを意味する。本作では、夜闇の中にうごめく生物たちをモチーフとしたダークで幻想的な歌詞、彼らのトレードマークである地中海的なサウンドを、シュールでサイケデリック、アヴァンフォークの方向へと押し進めている。弦楽器、重層的な歌声、トロンボーンによるローエンドが織りなすダンサブルな感じで、全く新しいサウンドを展開している。

↓国内盤(CD&LP)あり〼。

10位 Mitsune · Hazama

レーベル:Mitsune [-]

 日本、オーストラリア、ドイツ出身のメンバーで構成され、ベルリンを拠点に活動する女性だけの津軽三味線トリオ。また、コントラバスやパーカッションのリズムセクションを加えた5人編成のバンドにも展開し活動している。2018年4月に結成し、ヨーロッパ各地の文化イベント、フェスティバル、コンサートなどで幅広く演奏している。2018年にデビュー・アルバムをリリースし、本作は二作目となる。
 「Mitsune」は「蜜音」ということらしいが、三味線の3本の弦、3人の女性、3つの文化が調和することなど、何かの3つを示す「ミツ」という言葉をもじったものでもあるそうだ。いきなり10位にランクインしたので、ヨーロッパでの活動が認められている証拠と言えよう。
 日本の民謡だけでなく、現代の名作レパートリー、中東音楽やブルース、ロックなどの影響を受けたオリジナル作品を演奏している。三味線だけでなく篠笛やヴァイオリン、ネイ、カヌーン、箏なども加え演奏しているようだ。どんな音になるのか非常に興味深い。
 タイトルの「Hazama(狭間)」は、メンバーが異なるバックグラウンドを持ち、「文化の狭間」で異文化集団として活動している彼らの経験を探求し、世界の狭間で宙ぶらりんになっているような感覚を表現している。
 今後の活躍がすごく期待されるユニットである。

9位 Xanthoula Dakovanou · Lamenta

レーベル:Quart de Lune [6]

 ギリシャ出身、歌手であり作曲家の Xanthoula Dakovabouの最新作。主にギリシャの伝統音楽やバルカンポリフォニー、地中海の伝統的な歌などをベースに歌っている。また、精神分析と精神病理学の博士号を取得しており、音楽と精神分析学の専門家で、音楽療法士としても活動している。
 本作は、ギリシャ北西部のイピロス地方の伝統的な音楽(Miroloiと呼ばれる嘆きの歌)に触発され制作されたもの。世界的に有名なフランスのジャズマン、マジック・マリクや、現在ギリシャの伝統的なクラリネット奏者の一人であるニコス・フィリッピディスなど、16人の優れたミュージシャンが参加。また、ギリシャの伝統的音楽の分野で活躍する著名なミュージシャンも参加している。その結果、深みがあり、嘆きながらも恍惚とした雰囲気を醸し出し、伝統的な音楽と現代音楽が見事に融合している。
 また、本作の音楽を使い、国際的に有名なベルギーのコンテンポラリーダンスの振付家よる振り付けで、コンテンポラリーダンスのショーが先月フランスで行われ大好評だったようだ。伝統音楽と現代音楽との融合、そしてその音楽とダンスとのコラボとなると、非常に興味深い。
 音楽療法士のプロが作った作品だからか、アルバムを聞いていると癒される。嘆きの歌をベースに作られているので、嫌なことがあったり、嘆きたい時に聴くと良い作品。

8位 Omar Sosa & Seckou Keita · Suba

レーベル:Bendigedig [3]

 キューバ出身のピアニストオマール・ソーサと、セネガルのコラ奏者、セク・ケイタの最新作。2017年にリリースされた前作『Transparent Water』は世界で高い評価を得たが、これが彼らのセカンドアルバムとなる。
 パンデミック期間中に録音され、オマールと’90年代から行動を共にするベネズエラ出身のパーカッショニスト、グスターボ・オバージェスも参加している。
 「このアルバムのコンセプトは、平和、希望、団結です。私たちが生きているこの瞬間、すべてが少しずつ崩壊していく中で、私たちが最後に自分の中に持っているものは、自分の内なる声、自分の精神や光、そして祖先との神聖なつながりです。私たちは、音楽を通して希望を与え、一緒にいられることを伝えようとしています。」とオマールは語っている。パンデミック後の世界において、思いやりと真の変化の新たな夜明けへの希望の讃歌であり、平和と団結を求める人類の永遠の祈りを直感的に繰り返した作品となっている。
 アルバムタイトルの「SUBA」とは、セク・ケイタの母国語であるマンディンカ語で「日の出」を意味する。困難に直面していても新しい一日が始まる日の出を見て、正常な状態にリセットしようという意味がこめられている。コロナ禍で落ち込んでいる世の中で、希望が持てるアルバムである。

↓国内盤あり〼。(ハードカバー書籍風豪華44Pフルカラーブックレット付・ライナー日本語訳封入)

7位 Justin Adams & Mauro Durante · Still Moving

レーベル:Ponderosa Music [4]

 イギリスのギタリスト/作曲家のジャスティン・アダムズと、イタリアの音楽グループ CanzionIere Grecanico Salentino(CGS)のバイオリニスト/歌手/パーカッショニストであるマウロ・デュランテとのデュオ作。
 ジャスティン・アダムズは、砂漠のブルースで知られる Tinariwen のアルバムをプロデュースし、ブルースのギタリストとしても活動。2019年のWOMADで二人が共演し、友情が深まった。アダムズの砂漠のブルースと、デュランテの故郷である南イタリア・プーリアの伝統音楽タランタに共通点があることを見出し、このアルバムを制作するきっかけとなった。
 デュランテはフレームドラムとヴァイオリン、アダムズはブルースギターで、パンデミック中に重ね録りなしで制作。インスト曲もあるが、英語、イタリア語で、それぞれが歌っている曲もある。デュランテが伸びやかで美しい歌声を聞かせる一方、アダムズは乾いた渋い声で聞かせる対比が面白い。
 砂漠のブルースとイタリアの伝統音楽、共通点があるのかは謎だったが、アルバムを通して聴いてみると、彼らのルーツがうまく合わさり新しいものが生み出されているといえよう。大変聞き応えのあるアルバム。

6位 Vigüela · A la Manera Artesana

レーベル:ARC Music [-]

 小説『ドン・キホーテ』の舞台で知られるスペイン中南部のカスティーリャ・ラ・マンチャ出身の5人組ユニット、ヴィグエラ(Viguela)の最新作。本作が9枚目のアルバムとなる。1980年代半ば頃から活動しているベテラングループ。2016年頃から海外に向けて進出し、ヨーロッパ各地のフェスティバルなどで演奏、ワークショップも行なっている。スペインが国の事業として海外に文化を紹介する活動の企画にもピックアップされ、フラメンコ以外のスペイン伝統音楽を国際的なプロのステージで披露した最初のグループでもある。
 アルバムタイトルは「職人道」という意味。本作では「職人的な創造性」ということに焦点を当て、スペインの舞踏音楽であるファンダンゴ、ロンディーニャ、セギディージャ、ホタ、そしてアカペラで歌うトナダ、活気のあるソンなど、様々な地域の伝統的なスペイン音楽をこのアルバムで紹介している。
 スペインの地方で古くから根付いている曲を今もなお守り続け、それを世界に向けて発信しようとしている活動はとても素晴らしい。スペイン音楽の力強さとともに、彼らの「職人」としての意気込みが感じられるアルバム。

5位 Riccardo Tesi, Elena Ledda, Lucilla Galeazzi, Alessio Lega, Nando Citarella, Maurizio Geri, Gigi Biolcati, Claudio Carboni· A Sud di Bella Ciao

レーベル:Visage Music [13]

 2014年にヨーロッパ各地で公演し、大成功をおさめたショー「Bella Ciao」の新バージョンを同じメンバーで公演する予定だったが、このコロナ禍で実現が難しくなった。それに関わる音楽家たちを尊重するべくクラウドファンディングで資金を集め、作成されたアルバム。
 「Bella Ciao」は、1964年にイタリアにフォーク(民謡)音楽を復活させるべく誕生した同名プロジェクトの開催50年を記念しオマージュしたもの。1964年「Bella Ciao」では北イタリアがメインだったが、1966年ダリオ・フォー(風刺喜劇でノーベル文学賞を受賞した劇作家/演出家)が監督した
舞台「Ci ragiono e canto」で、南イタリアの民謡を発掘し舞台化を実現させた。開催予定だった新バージョンのショーは、この「Ci ragiono e canto」をモチーフとしており、社会派・プロテストソング、労働歌からラブソングまでの歌とダンスを通し、イタリア南部の人々の生活と感情を綴ったもの。舞台で使用する曲をアルバムとしてまとめている。
 音楽監督はアコーディオン奏者のリカルド・テシ、ヴォーカルにはエレナ・レダ、ルシラ・ガレアッツィなどベテラン歌手、バンドメンバーにはイタリアトラッドフォークの名手たちを揃えている。ゲストも多数参加、本チャートで今月7位にランクインしているCGSのマウロ・デュランテもヴァイオリンで参加している。
 イタリア南部で使われている楽器を取り入れ、南部に伝わる伝統的な民謡を中心に、現代的なアレンジとなっている。歌の力がとにかくすごい!これを聴けば、南イタリアを旅しているかのような気分になれる。旅に行けない今、お薦めの一枚。

4位 Divanhana · Zavrzlama

レーベル:CPL-Music [-]

 ボスニアの5人組バンド、Divanhana の6枚目のアルバム。スタジオ録音としては4枚目。前作は2018年リリースだから4年ぶりのリリースとなる。ボスニアの伝統的な民族音楽であるセヴダ(セヴダリンカともいう)を、ジャズ、ポップスなど現代的なアレンジで演奏している。2009年に結成、2011年にファーストアルバムをリリースしている。それ以来、各国の音楽フェスに出演、ヨーロッパ各地でのコンサートツアーも成功させている。
 本作はパンデミック直前の2020年2月に録音されたもの。ボスニアで歌い継がれてきた伝統的な歌や、彼らのオリジナル作品が収録されている。そしてパンデミック中にスロベニアやスイス、アルゼンチンなど他国のミュージシャン達ともやり取りし、このアルバムに反映させている。
 ボスニアは地理的な影響もあり、様々な宗教、文化、伝統が歴史的に複雑に絡み合ってきた地。そのせいかゼヴダのメロディーは短調であり、とても感情的である。でも彼らの音楽はそれだけではない。現代的な要素や、世界の他の地域の音楽要素も取り込んでいるので、彼ら独自のセヴダを創り上げている。いきなり4位にチャートインしてきたのも頷ける作品だ。

3位 Susana Baca · Palabras Urgentes

レーベル:Real World [2]

 ラテン・グラミー賞の受賞歴もあるアフロ・ペルーの大物歌手、スサーナ・バカの最新作。11月にランクイン以来ずっと上位をキープ! 
今年で77歳、音楽キャリア50年の大ベテラン歌手。本作は、プロデューサー/アレンジャーに、スナーキー・パピーのマイケル・リーグを迎え、ペルーの首都から150キロ離れた小さな町カニエテで録音された。
 ペルーの文化大臣も務めたことのあるスサーナは、ここ最近のペルーの政治情勢に憂いていたのだろう、このアルバムを抗議の形として録音したという。かつて、より良い世界のために闘った人々の遺産と伝統を、このアルバムに込めたそうだ。アヤクーチョの伝統曲「Negra del Alma」や、ムシカ・クリオーヤで Manuel Acosta Ojeda作の「Cariño」、ペドロ・ラウレンスのミロンガ曲「Milonga de mias amores」など、また自身の旧作にも収録されている「Color de Rosa」、「Vestida de Vida」を再録。自身の最も深いルーツの音楽を、現代的なアレンジに仕上げ、希望と抗議のメッセージを込めている。そして聴く人に、人生への愛と、誠実に生きることを感じてもらいたいと言っている。
 彼女の誠実な人生が込められているアルバムで、未だパワフルで成熟したヴォーカルにうっとりする一方、名曲たちの普遍性に圧倒される。

2位 Khöömei Beat · Changys Baglaash

レーベル:ARC Music [1]

 南はモンゴル、東はブリヤート共和国に接し、中央アジアに位置するトゥヴァ共和国(ロシア連邦共和国に属している)の男女5人組ロックバンド、ホーメイ・ビート。本作品がセカンド・アルバムとなる。
 2017年に結成され、伝統的な楽器や現代的な楽器の演奏技術、トゥヴァ独特の喉歌の習得など、それぞれの分野では一流のトゥヴァの音楽家たちで構成されている。2017年にファースト・アルバムを発表、中央アジアのホーメイ国際フェスティバルにも出演し「現代的な解釈でのホーメイ」というノミネーションで受賞もしている。その後は、各国のフェスにも出演、今日ではロシアだけでなくその周辺国でも知られた存在となっている。
 本作のタイトルは「The Hitching Post(馬などの動物をつないでおく支柱)」を意味する。その支柱はトゥヴァや他の遊牧民すべてにとって中心的な場所であり、他の場所に移すべきではなく、常に揺るぎないものとされている。自分たちの音楽についても、トゥヴァの伝統を守り常に揺るぎないものとしていくことをこのアルバムで表現している。
 トゥヴァ共和国の民族音楽をベースにした現代的な音楽を、伝統的な民族楽器と現代的な楽器で演奏、そこに彼らの特徴的なヴォーカルが重なり、まさに芸術作品と言える音楽となっている。
 MVでは、大地を切り裂くようなドラムで始まり、彼らが育ったトゥヴァの大自然の中、疾走感溢れる映像が、彼らのパワフルな音楽、自然を表現するホーメイと見事に融合している。アルバムジャケットにも表現され、MVの最後に現れる支柱が、まさに揺るぎないものとして登場するのがとても印象的。自然のエネルギーを感じる作品だ。

1位 Small Island Big Song · Our Island

レーベル:Small Island Big Song [-]

 Small Island Big Songは、歌を通して太平洋とインド洋に浮かぶ16の島々の海洋文化を結びつけるマルチプラットフォーム・プロジェクト。これらの地域の100人以上のミュージシャンが参加している。その最新アルバムで、今月いきなり1位にチャートイン!
 2015年に台湾のプロデューサー、バオバオ・チェンとオーストラリアの音楽プロデューサー兼映像作家ティム・コールによって設立されたプロジェクト。2018年にリリースされた前作、プロジェクトと同名のアルバム『Small Island Big Song』は、世界各国で評判を呼び、イギリス、ドイツなどで音楽賞を次々に受賞した。本作はその次の作品になるのだから、期待度はかなり大きかったことがわかるだろう。
 本作も前作同様、ミュージシャンたち自身の文化遺産を代表して誇れる曲を彼らの母国語で歌い、伝統的な楽器を使いレコーディングを行なった。各曲の映像の撮影場所についても彼らの文化にとって意味のある場所を選んでもらい撮影している。また、他の島のミュージシャンたちも一緒に歌い、演奏し、舞台となった島の歴史や文化、自然について一緒に語っている。例えば、上記動画は、モーリシャスの黒人奴隷の物語(サトウキビ畑で奴隷として働かされ、歌声は封じられた結果、彼らの文化は途絶えてしまった…)からインスピレーションを受けた歌。奴隷が繋がれていただろう鎖を発見するところから映像が始まり、「自由になりたい」という歌詞が続く。歌っているのはモーリシャスの歌手と台湾アミ族出身の歌手。演奏しているのもマダガスカルやタヒチ、パプアニューギニア等のミュージシャンたち。この曲一つとっても壮大な感じがするのだから、全12曲の理解を深めじっくり聴くと相当面白いのではないだろうか。(是非やりたい!)
 1月末から5月まで、北米&ヨーロッパツアーを開催予定とのこと。彼らのエネルギーを生で感じてみたい!と思わせる素晴らしい作品。

↓このプロジェクトの映画が2019年に制作され、日本では2020年に『大海原のソングライン(原題:Small Island Big Song)』として公開されました。2020年11月号の特集記事「私の好きなアジア映画」で、野田隆司さんがこの映画を選んでらっしゃいます。以下全文読めますので、是非!


(ラティーナ2022年2月)

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