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[2021.01]冷静なる快進撃を続けるロサリア(Rosalía)の軌跡

文●若杉 実

若杉 実●文筆業。拙著『渋谷系』『東京レコ屋ヒストリー』『裏ブルーノート』『ダンスの時代』など。

 新世代フラメンコの才媛にグラミーの女神が2020年も微笑んだ。オズナ(プエルトリコ)との共演作「Yo X Ti、Tu X Mi」がLATIN GRAMMY URBAN SONGに輝く。


 最初の受賞が2018年のシングル「Malamente」。BEST LATIN ROCKとURBAN OR ALTERNATIVE ALBUMの2部門を制覇。翌年にはアルバム『El Mal Querer』がBEST LATIN ROCK、URBAN OR ALTERNATIVE ALBUMを獲得、3年連続の快挙となった。


 地元メディアはお祭り騒ぎだが、ロサリア本人が平常心を失うことはない。歌、作詞・曲、そしてダンスも非の打ちどころがないが、同時に自分がいまどこにいて、なにが満たされなにが足りないのか、自身を知ろうとする客観力をもっている(マスコミが自分に注目しつづけるのも時間の問題だろうとも冷静に判断している)。
 グラミー以降、前進することを放棄しない姿勢は、多くのアーティストとの共演歴を見てもあきらかだろう。オズナを筆頭にトラヴィス・スコット、J・バルヴィン、アルカそしてビリー・アイリッシュなど。これらの共同作業が前進と客観視を養う良策として機能しているのはまちがいない。
 共演相手は今後も多岐にわたることが予想されるが、現時点では一定の分野に絞られた傾向がみられる。ラッパーやトラップ系といった方面だが、それはロサリアのある一面との共通性をうかがわせるものでもある。

 彼女はフラメンコと現代のエレクトロニカを融合することで、フラメンコの歴史に風穴を開けた。世界中のプレスが“ヌエバ・フラメンコ”“アーバン・フラメンコ”という文字をセンセーショナルに躍らせ、またストリートダンスを加味した振りには“フラメンコ・フュージョン”なるスタイルを寄与している。
 受賞曲「Malamente」は、同年リリースのアルバム『El Mal Querer』におさめられているが、これは2枚目であり、デビューアルバムはその前年の『Los Ángeles』。誤解を招きやすいタイトルだが、この作品は現代風によみがえらせたルンバ・カタラーナであり、今日のロサリアを知る者にすればむしろ異質に映りかねない。そのため“アーバン・フラメンコの歌姫”として紹介する記事では“不都合な履歴”として敬遠されてきたきらいがある。
 だが彼女の原点として見過ごせるようなものではなく、この事実があるからこそ“アーバン・フラメンコ”の誕生は必然だったと解釈できるようなストーリーがそこには潜んでいた。

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