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[2020.04]発見された スピネッタ晩年のスタジオ録音 『YA NO MIRES ATRÁS』

文●フアンホ・カルモナ text by Juanjo Carmona

1月23日、アルゼンチンの音楽家の70歳の誕生日に7曲を込めたこのアルバムがリリースされた。

 アーティストの没後に発表されるアルバムは疑問符を投げかけられがちである。こういった音楽業界の商業的な慣習にはサプライズは少ないが、このアルバムに関しては商業性というものを超越し、個人のUSBドライブに残されたトラックが発見されたという以上の意味を持っている。『パラ・ロス・アルボレス(2003年)』、『パン(2005年)』、『ウン・マニャーナ(2008年)』を通して描いてきていた音楽的延長線上にある。

 ラテンアメリカ音楽で中心的な位置に立ち、アルゼンチンロックの父として君臨してきた「エル・フラコ」ことスピネッタは62歳で肺癌で突如世を去った後も成長を続け、新たな聴き手を掴んでいる。アルメンドラ、ペスカド・ラビオソ、インビシブレ、スピネッタ・ハーデ、ロス・ソシオス・デル・デシエルトといったグループを編み出してきた。流行や音楽業界の需要とは一線を画し、スピネッタは音楽家の中で最も敬愛される存在であることから、彼の誕生日である1月23日はアルゼンチン全体で「音楽家の日」として祝されることとなった。

 スピネッタの影響力はとどまるところを知らない。このアルバムをリリースする5日前には米国のラッパー、エミネムが「アマメ・ペテリビ(1973年ペスカド・ラビオソ)」をサンプリングすると発表。以前にはヒップホップグループのア・トライブ・コールド・クエストが「ルイド・デ・マヒア(1976年インビシブレ)」に、フライング・ロータスは2012年に「ア・エストス・オンブレス・トゥリステス(1969年アルメンドラ)」を自曲「ゴーン・フィッシュング」のコーラスの中に用いた。

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