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[2023.1] 【島々百景 第79回】 ブエノスアイレス① アルゼンチン

文:宮沢和史

 この3年間は南米からすっかり足が遠のいた。南米に限らず自分は一度も国外へは出ていない。「2023年こそは南米で歌が歌える」と意気込んでいたものの、もはや、第何波なのか知らないが、去年の11月から1日の感染者数が増加に転じ、クリスマスと正月休みをきっかけに感染者数を示すグラフが再度高波状態に推移している。ゼロコロナ政策をあっさり放棄した中国では春節を前に人口の半分弱、メディアによってはもっとずっと多くの人が感染したと伝えている。かたや、サッカーワールドカップ カタール大会では連日何万人もの観客がマスクを着けずに絶叫し続けた。この温度差を見ると、この先どんな未来が待ち受けているのか、光は差しているのかどうなのか?また分からなくなったことは否めない。ただ、ブラジルでは極右のボルソナロ大統領が失脚し、労働党出身のルラが大統領に返り咲き、ブラジルの経済、社会、政治、文化が好転すると期待した矢先の1月8日、前大統領の狂信的支持者が首都ブラジリアの大統領府・国会議事堂・連邦最高裁判所に押し寄せ、建物の一部を破壊し侵入し、2時間もの間占拠したというとんでもないニュースが飛び込んできた。逮捕者は少なくとも400人と現地メディアが発表している。2021年に起きたアメリカのホワイトハウス襲撃、占拠事件と酷似する騒動だが逮捕者はその四倍にも及ぶ。選挙結果に納得できない敗北候補者が負けを認めずその支持者が選挙の無効を求めて暴動を起こすという、民主主義への冒涜を扇動した元アメリカ大統領の罪は重い…。それもこれも、このところ多数決が常に僅差であることが問題であり、分断という現象が世界各地で起こり得るのではないかという危機感を覚えずにはいられない。前にもこの場で述べた気がするが、2000年のゴアとブッシュとの大統領選からこの傾向が如実化した気がしてならない。民主主義の根幹の大きな要素である多数決が限りなく50%対50%に近い戦いが近頃多すぎる。イギリスのEU離脱の時もそうだった。こうなるとどっちへ転んでも片方の勢力は不満をつのらせ、片方の足を引っ張り、正常に前進できない。その不満を利用して民主主義や法律、人間としての道徳さえも歪ませてしまおうと試みた男の罪は重すぎるし、今年に入ってのブラジリアの暴動にボルソナロがどこまで関与したのかしなかったのか現時点では不明だが、アメリカ合衆国の暴動あっての今回の事件であることは否定できない。タブーというのは罪深い人物が一度壊してしまうと2度とその穴は塞げないものなのだ。ブラジルが2000年代のような安定を取り戻すにはもう少し時間がかかりそうだ。

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