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[2023.2]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2023年2月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。

20位 Dimitris Mystakidis · Morso

レーベル:Fishbowl Music Tank [26]

 ギリシャのアーティスト、ディミトリス・ミスタキディスの最新作。ディミトリスはギリシャの大衆歌レベティコで使われるギター、ライキ・キタラ(Laikí Kithára)の名手として知られているアーティスト。1986年、16歳のときにプロとして音楽活動を開始、以来レベティコのルーツやギターテクニックを探求してきた。ライキ・キタラの教則本も出版しているほど。作曲家、ミュージシャン、ヴォーカリストなど、ギリシャの多くのアーティストと共演するマルチ奏者であり、ギリシャの芸術大学、音楽大学でも教授を務めている。
 本作は、自身のオリジナル曲だけを収録したもので、オリジナル曲だけのフルアルバムとしては自身としては初めての作品となる。レベティコやギリシャの伝統音楽、民族音楽を解釈し制作した曲が収録されている。ブズーキや、ライキ・キタラ、バグパイプ、ネイなど地中海沿岸の民族楽器が、エレキギター、ベース、ドラムとソウルフルに響き合っており、また中東のサイケデリックさも感じられ表情豊かな楽曲ばかり。
 本作では社会の不正やジェンダー差別、外国人排除などの社会問題に対し、怒りや絶望、悲しみを表現している。彼の渋い歌声と美しいギターの音色が本作をより印象付けている。
 アルバムタイトル『Morso』は、大工仕事でネジや釘などを使わずに二つの木材を接合する方法のことで、ギターなどの弦楽器製作においても、アームとボディを接合することを示している。本作では、ギターのことはなく、ギリシャの民族音楽と現代音楽との融合、また民族間の融合ということも意味しているのではないだろうか。聴けば聴くほどハマっていく作品。

19位 Payadora Tango Ensemble · Silent Tears: The Last Yiddish Tango

レーベル:Six Degrees [-]

 アルゼンチン/ウルグアイのタンゴと民族音楽、そしてオリジナル曲を独自のアレンジで演奏するカナダの室内楽アンサンブルユニット、Payadora Tango Ensemble による作品。キンテートで演奏したり、タンゴとバレエのコラボを行うなどいくつかのプロジェクトを精力的に行なっている。
 本作は、トロントのユダヤ人介護施設のソーシャルワーカーであるポーラ・デイヴィッド博士が主導したプロジェクトにより制作された作品。ホロコーストで性的暴力や拷問の犠牲となった女性たちの証言や文章、詩に、ユニットのメンバーによるオリジナルの曲が付けられた。ホロコーストの生存者である彼女たちが文章を書くことによって、その時のトラウマを処理する助けになるのだという。トロント在住の作家は、戦時中だった思春期の頃、ポーランドの納屋で小さな木箱に入れられ、地中に埋められたそうだ。この経験をはじめとし、本作はナチス占領下のポーランドで女性や子供たちが経験した想像を絶する暴力の物語を語っている。
 楽曲は、戦前、戦後にポーランドなど東欧諸国のユダヤ人の間で発展したイディッシュ・タンゴ。歌詞もイディッシュ語で歌われている。ヴァイオリンの音色が女性たち、子供たちの心の悲鳴のように聴こえる。曲の背景を考えると、聴いていて胸が締め付けられる想いになる。
 イギリスBBCをはじめとした世界中のテレビ局で “史上最高のユダヤ音楽の録音” と絶賛、報道された。歴史的に記録として残すべき作品。

18位 Meral Polat Trio · Ez Kî Me

レーベル:Meral Polat / AudioMaze [18]

 トルコ系クルド人のルーツを持つオランダ人女性、Meral Polat がメインのトリオ Meral Polat Trio によるデビューアルバム。先月同様18位にランクイン。
 彼女は俳優でもあり、舞台やテレビ、映画などに主演し活躍してきた。パンデミックになり外出禁止になったことで音楽活動を始め、バンドを結成することになった。ギターとピアノにアメリカ出身のChris Doyle、ドラムにプエルトリコ出身のFrank Rosaly、Meral はヴォーカルとパーカッションを担当し、三人とも現在はオランダに在住している。
 本作では、Meral がクルド語とトルコ語で歌い、彼女自身による歌詞と、彼女の父、故Ali Ihsan Polat の詩も使われている。アルバムタイトルはクルド語で、直訳すると「Who am I ?(私は誰?)」。彼女自身のルーツを辿り、トルコ地方の民族音楽と現代の曲が融合した彼ら独自の多国籍な音楽を表現している。アナトリアン・ロックを思わせるロック調の強いギタープレイの楽曲で始まり、ブルースを思わせる抒情的な楽曲や、メランコリックな楽曲、力強いグルーヴィーな楽曲など、多彩な楽曲が収録されている。俳優だからか表現力がとても豊かで、何より彼女の歌声が楽曲といい具合にマッチしており聴いていてとても心地よい。国籍、時間を超えた音楽の旅ができる、三人独特の作品。

17位 Wesli · Tradisyon

レーベル:Cumbancha [13]

 ハイチ出身、現在はカナダ在住のソングライター/ギタリスト/プロデューサーである Wesli の6作目のアルバム。
 1980年ハイチの首都ポルトー・プランス生まれ。8人兄弟で、裕福とは言えなかった家庭に生まれたが、音楽が生活の一部であった。2001年カナダ政府主催の奨学金コンテストで優勝しカナダのモントリオールに移住、アレンジとパーカッションを学びながら様々なアーティストの作品に参加していた。2009年にデビューアルバム『Kouraj』をリリース、以降4枚のアルバムをリリースした。2018年にリリースしたアルバム『Rapadou Kréyol』は高く評価され、2019年カナダのJuno賞(ワールドミュージックアルバム部門)を受賞した。本作はそれ以来の作品となる。
 自身のルーツに立ち返り、ハイチの伝統の隠された側面を探るべく彼は数年かけて旅に出た。何百年も前にハイチに持ち込まれたアフリカの言葉の歌を学ぶためにハイチのブードゥー教信者の集会所やコミュニティグループを訪れたり、ハイチの民族楽器などのテクニックを研究した。本作では、その成果が結集された作品となっており、ハイチの過去を語り、未来を想像する2部作の1枚目としてリリースされたもの。ヴードゥー教のカーニバル音楽「ララ」やレゲエなどハイチ音楽の幅広く伝統的なジャンルに、エレクトロニック、アフロビート、ソウル、ファンク、ヒップホップなどを融合させ、とても魅力的な楽曲を作り出している。また、ハイチのルーツともなるアフリカの文化とも見事に融合、ハイチの豊かな音楽史に敬意を表し、その魅力を余すところなく伝えている。2部作の2枚目もぜひ聴いてみたい!

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)

16位 Okra Playground · Itku

レーベル:Nordic Notes [7]

 フィンランド・ヘルシンキを拠点に活動する6人組ユニット Okra Playground の3rdアルバム。伝統的なフィンランドの音楽を新鮮なアプローチで演奏したいという共通の思いを持ったミュージシャン達により2010年に結成された。本チャートでも何度かランクインしているミュージシャン、マイヤ・カウハネン(Maija Kauhanen)、パヴィ・ヒルボネン(Päivi Hirvonen)もこのユニットのメンバー。2016年にデビュー作『Turmio』、2018年には2ndアルバム『Ääneni yli vesien』をリリースし、どちらも好評を博した。それ以来、ヨーロッパをはじめとした海外でのフェスに多く出演、ツアーも開催し、世界で認められるユニットとなった。
 弦楽器のヨウヒッコ(jouhikko)や、カンテレなどフィンランドの伝統的な民族楽器を使い、エレクトロやポップ、ロックなどの影響を受けた現代的なサウンドに仕上げている。
 本作品のテーマは、変化、成長、矛盾。パンデミックやウクライナの戦争など、世界を揺るがすような社会問題を扱ったオリジナルの楽曲を作り、彼ら自身のメッセージを歌詞に込めている。3人の女性メンバーのヴォーカルも美しく、神秘的なエネルギーが感じられる。伝統と現代が融合されている素晴らしい作品。

15位 V.A. · Chłopi: Wesele Boryny

レーベル:Muzyka Zakorzeniona [-]

 1924年にノーベル文学賞を受賞したポーランドの小説家ヴワディスワフ・レイモント(1867〜1925)が小説『Chłopi(農民)』で描いた時代の農村の音楽、特に結婚式で演奏された音楽を集めたコンピレーションアルバム。ポーランドの国立民俗収集活動の一環として1950年代に行われた録音や、この地域で口頭伝承された内容に基づき、農村の結婚式の模様をこのアルバムで表現している。参加しているアーティストは、ポーランドの伝統音楽や民族音楽を演奏しているバンド(NapięcieとKożuch)や、民族学者であり歌手でもあるJoanna Skowrońska、ヴァイオリニストでもあり歌手でもあるRóża Martyna Grabowska など。Napięcieはポーランド舞踊の曲を18世紀から19世紀にかけての歴史的な楽器を用いて演奏するグループで、伝統舞踊のワークショップなどを開催している。Kożuchは伝統音楽と民族音楽に特化した国内のフェスティバルで受賞するほどの実力派バンド、海外でも活躍している。いずれのバンドも実力派の若手演奏家がメンバー。
 本作には、儀式で使われた曲や、披露宴で踊るための曲が収録されている。バンドによる演奏曲もあれば、女性デュオのアカペラ曲など。農村の結婚式だから、ご近所同士が集まり音楽が鳴ればダンスをしたのだろう、また近所のおばちゃんたちが新郎新婦のために歌ったのだろう、そんなことを想像させるような構成。音は素朴でシンプル、そして声は非常に情熱的。当時の音を忠実に再現しているようだ。
 リリースされた昨年、2022年はヴワディスワフ・レイモントの生誕155周年で、それを記念してのリリース。小説から音楽を再現しているところがなかなか渋い。伝統音楽や民族音楽、特に農民たちの身近にあった音楽の記録として、非常に貴重な作品といえよう。

14位 Angeline Morrison · The Sorrow Songs: Folk Songs of Black British Experience

レーベル:Topic [-]

 イングランド南西部コーンウォールを拠点に活動する女性フォーク・シンガー/ソングライター/マルチインストゥルメンタリスト/研究者である、アンジェリーン・モリスンの最新作。イギリスの黒人歴史月間である10月(2022年)にリリースされた。
 アフリカ系のルーツを持つ彼女は、学生時代からイギリスにおける黒人のアイデンティティについて研究してきた。2020年、Black Lives Matterの発端となったアメリカでの警官による黒人殺害事件をきっかけに本作のプロジェクトについて考え始めたという。調査を行ったところ、英国の伝統的なフォークソングでは、アフリカ系移民の人々は少なくともローマ時代からこの島に存在していたにもかかわらず、その歴史はほとんど知られておらず、英国の民謡に登場することはあまりないことが判った。本作には、英国の歴史に登場する実在の人物の物語を掘り下げた彼女のオリジナル曲を、伝統的な英国スタイルのフォークソングで制作、収録されている。
 登場人物は、大西洋横断奴隷貿易の時代にコーンウォール沖合で難破した船から見つかった年齢不明の「西アフリカの少年」や、19世紀初頭にサーカスに売られ、見せ物にされた白斑のある黒人少年 George Alexander Gratton、1919年のリバプールの人種暴動で殺害された黒人 Charles Wotten、7歳のときにブラジルから奴隷として連れて来られたが最後は主人と一緒に墓に埋葬された Evaristo Muchovela など、アルバムタイトルが『哀しみの歌』であるように、どの物語もとても痛ましい。落ち着きがあり、我々の心に語りかけるような彼女の歌声が、登場人物たちの人生を語り直し、彼らを称えている。
 全16曲収録されているが、そのうち5曲は間奏(Interlude)としてセリフのような声が入っている。「有色人種の生活水準は非常に低い」というストレートな声から始まると、胸をギュッと掴まれる思いになる。間奏がいい演出となり、各曲にぐいぐい引き込まれていく。何も考えずにこのアルバムを聴いたなら、おそらく英国伝統フォークとして聴いたのだろうが、物語を知ると深く心に刻み込まれる。歌詞をじっくりと見ながら聴きたいと強く思った。我々が到底知ることがなかっただろう過去の出来事を知るきっかけとなる貴重なアルバムだ。

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)

13位 Aziz Sahmaoui & Eric Longsworth · Il Fera Beau Demain Matin Jusqu’à Midi

レーベル:Passé Minuit en Accords [-]

 グナワ音楽のグループ「University of Gnawa」のリーダーでモロッコ出身フランス在住のアジズ・サハマウイ(Aziz Sahmaoui)と、アメリカ出身フランス在住20年以上のチェリスト(探検家でもある)エリック・ロンスワース(Eric Longsworth)による最新作。演奏には「University of Gnawa」のパーカッショニスト、アディール・ミルガーニ(Adhil Mirghani)も参加している。数年前のフェスティバル「En Accords, Festival Imprévisible et Inattendu」で二人が出会い、それぞれの世界や人生からお互いインスピレーションを受け、共演へと繋がった。
 本作はイギリスのミュージシャン Cat Steven が1971年にリリースしたアルバム『Teaser And the Firecat』に収録されている「Morning has Broken」のアレンジバージョンから始まる。アジズのマンドリンと歌、そしてエリックのチェロが美しく重なり、繊細さと力強さを表現している。グナワのリズムや、ジャズ、ブルースなどが織り混ぜられ、見事に異文化が融合しているサウンド。アディールのパーカッションもそれを支えて彼らの表現をより豊かにしている。そして、アジズのフランス語やアラビア語で歌う柔らかく妖艶で、詩的な声が、サウンドと絶妙な組み合わせ!彼らの世界観が豊かに広がり、音楽への旅へと誘われる作品。

12位 Derya Yıldırım & Grup Şimşek · Dost 2

レーベル:Les Disques Bongo Joe [11]

 2014年に結成された5人組(現在は4人で活動)ユニット、デリヤ・ユゥドゥルム&グループ・シムシェクの3rdアルバム。2021年にリリースされた『Dost 1』に続く二部作のアルバムとしてリリースされた。
 メンバーは80年代から90年代生まれで、トルコ、ドイツ、イギリス、フランス出身と多国籍な構成。それぞれベルリン、コペンハーゲン、南仏に暮らしており、コンサートやレコーディングの時に集まって活動している。アルトゥン・ギュンなどに続き、トルコ/アナトリアのフォークやロック、サイケデリア、ポップスを演奏するグループとして注目されている。
 タイトル「Dost」はトルコ語で「友達」のことを意味する。このアルバムで、彼らの人生と個人的経験を掘り下げ、尊敬や寛容、愛と平和を持ちながら有意義に過ごすためのつながりを表現している。
 ヴォーカルとバーラマ(サズ)を担当するデリヤ・ユゥドゥルムは、ドイツ・ハンブルグでトルコ系移民の音楽家の家庭に育った。父親の影響でバーラマをはじめ、ベルリン芸術大学で本格的に学んだ。本作ではトルコ語で歌っている。収録曲は彼らのオリジナル曲だが、60〜70年代のトルコのサイケデリア・ロックを彷彿させる曲調で、どこか懐かしくメランコリーな気分になる。彼女の物憂げな声とバーラマが、アナトリアのレトロなサウンドに乗り、彼女の心情が伝わってくるかのようだ。
 彼女自身はドイツ生まれだが、親や親戚などの世代はトルコからドイツへの移住者である。多くの移住者が祖国に帰れないことが明らかになったとき、自国の文化として残ったのが音楽だった、とデリヤは言う。悲しみや痛み、別れなどが想像されるが、音楽がそれらを癒してきたという現実が感じられる作品。彼ら目線の、民族音楽のパワーが感じられる。

11位 Sona Jobarteh · Badinyaa Kumoo

レーベル:African Guild [28]

 西アフリカのガンビア共和国にルーツを持つイギリス出身のコラ奏者、ソナ・ジョバルテの最新作。前作は2011年リリースの1stアルバム『Fasiya』で、それ以来の作品となる。
 7世紀前から続くガンビアのグリオ(西アフリカの伝統伝達者)の家系に生まれ、その中でもプロとして名手となった最初の女性である。コロナ前の2019年には世界各地のフェスティバルで演奏し、好評を博していた。
 イギリス生まれでありながらもガンビアのルーツを持つためか、ガンビア、そしてアフリカへの思いも深い。アフリカ大陸における教育改革を実践するため、ガンビアに教育機関「ガンビア・アカデミー」を創立し、人道的な活動も熱心に行なっている。このアカデミーの生徒たちも本作の数曲にコーラスとして参加している。
 前作ではガンビアの伝統的な楽曲が収録されていたが、本作では全て彼女が作った楽曲。しかもほとんどの曲で、彼女がコラをはじめ全ての楽器を演奏、コーラスまでひとりで録音したという。「パンデミックがなければこの作品は完成しなかった」と彼女は言っており、パンデミック中に自身の音楽と向き合うことができた。
 本作では、セネガルの大スターユッスー・ンドゥールや、2021年にアルバム『Djourou』(本チャート2021年4月に初ラインクイン)で共演したバラケ・シソコらもゲストとして参加。ユッスーとのコラボ曲「Kambengwo」は、汎アフリカ主義においてアフリカ諸国間の協力が重要であることを表現している。人生でこんなに一生懸命曲を作ったことはないというほど、とても辛く苦しい作業だったそうだ。アフリカ特有のリズムで徐々にアップテンポになり、最後はユッスーが「アフリカ!アフリカ!」とコールしているのがとても印象的。バラケとの曲「Ballaké」はコラの二重奏がとても美しく、二人がコラの音色で対話しているようだ。
 伝統を受け継ぎ、それを進化させようと追求しているソナの姿勢が、彼女の魅力的な歌声や演奏からそれがとても伝わってくる。素晴らしい作品。

10位 V.A. · Ears of the People: Ekonting Songs from Senegal and The Gambia

レーベル:Smithsonian Folkways Recordings [-]

 西アフリカのセネガル共和国とガンビア共和国のカザマンス地方に住むジョラ族の伝統楽器「エコンティン」の音楽を集めたコンピレーションアルバム。アメリカのスミソニアン・フォークウェイズからリリース。
 エコンティンは、瓢箪と木の棒、動物の革、釣り糸で作られた3弦のリュート型撥弦楽器で、バンジョーのルーツであるとも言われている。この地方独特の楽器で手作業で作られている。
 本作は、アメリカの民俗音楽学者スコット・リンフォードが2019年に現地で録音、セレクトした全25曲が本作に収録されている。女性も含めた9人のエコンティン奏者たちの演奏と歌が、村の広場や自宅、即席のスタジオなどで録音された。彼らが歌うのは日常的なテーマで、人生、愛や友情、暴力や紛争の苦難、路上爆撃の悲惨な記録など、セネガルの社会を多様に表現している。エコンティンの音が素朴でシンプルなのだが、生命力溢れる歌がなんとも魅力的。家畜の鶏の鳴き声も聞こえるのは気のせいか⁈
 この地方でしか聴けない実に貴重な音源が収録されており、ジョラ族が生きてきた歴史や文化、伝統が込められている。日本の民謡にも聴こえるような歌もあり、ユニークでエネルギーが感じられる作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)

9位 Mahsa Vahdat & Skruk · Braids of Innocence

レーベル:Kirkelig Kulturverksted [20]

 イラン人女性歌手 Mahsa Vahdat 、ノルウェーの合唱団 SKRUK 、ノルウェーのハープ奏者 Ellen Bødtker による最新作。
 Mahsa Vahdat は、1973年テヘラン生まれ。テヘラン芸術大学で音楽の学士号を取得し、ペルシャの伝統音楽を様々な師匠から学んできた。ペルシャの古典音楽や声楽の伝統に根ざしつつも、現代的で革新的な表現を反映、個性的な演奏スタイルを確立している実力派歌手。海外のアーティスト達と多くコラボレーションを行い、国際的にも活躍している。姉のMarjan Vahdatも歌手であり、共演も多数行っている。姉妹はノルウェーのレーベル Kirkelig Kulturverksted と契約しており、本作もこのレーベルからリリースされている。
 本プロジェクトは3年前から構想されており、昨年の8月に実際に録音された。Mahsaがメロディーを作り、彼女の夫であるイラン系アメリカ人の音楽家・作曲家の Atabak Elyasi が合唱団のために作詞と編曲、メロディーを追加で書き、プロデューサー Erik Hillestad が、詩を英語に翻訳した。他にも古典のルーミーや現代詩人の詩も本作に収録されている。タイトルは直訳すると「無垢の三つ編み」。
 昨年の9月、ヒジャブ着用を義務づける法律に違反したとして、22歳の女性がテヘランで道徳警察に逮捕・拘束され、その後死亡した。これはイラン人女性の怒りに火をつけることとなり、三つ編みは女性たちの自由のシンボルとされた。亡くなった女性もヒジャブの下に三つ編みをしている写真が公開されている。録音したのもタイトルを付けたのもこの事件の前のことであるが、偶然が重なり本作は注目されることとなった。Mahsa と合唱団の女性メンバーは、抗議と連帯のため髪を切る動画を制作し、世界的にも拡散されている。
 アルバム収録曲は、Mahsaのソロ歌唱とEllenのハープの音、そしてそれを支えるかのように合唱団のコーラスが重なる。彼女の歌の表現力が実に見事で、女性たちの苦しみを代弁しているかのようだ。とても美しく、希望や真っ直ぐなメッセージが強く伝わる音となっている。SKRUKの指揮者は、本作を「音色の絵画」と表現している。まさに絵画のごとく心に響く音色だ。

8位 Baul Meets Saz · Banjara

レーベル:Uren Production [4]

 トルコ出身ベルギー在住のサズ奏者 Emre Gultekin と、インド出身でバウル(インド・ベンガル地方の吟遊詩人のことでユネスコ無形文化遺産に登録されている)を実践している音楽家 Malabika Brahma(歌手)、Sanjay Khyapa(パーカッショニスト)によるトリオの最新作。前作は2018年にリリースしており、本作はそれ以来のリリースとなる。
 Emre Gultekin はブリュッセルを拠点とし、海外でサズを演奏する活動を行なっている。2016年インド・ベンガル地方に行った際に、Malabika と Sanjay の二人に出会い、音楽や人間性に自分のルーツと共通するものを感じたという。トルコにもサズを演奏するアーシュク(aşik)と呼ばれる吟遊詩人がおり、共通部分が多いのだろう。その場で一緒に演奏し、それ以来機会があると共演している。
 力強く伸びやかな Malabika の歌声、そしてサズとドゥブキ(小さいフレームドラム)がそれを支えている。二つの文化と音楽的な伝統が見事に融合し、神秘的で哲学的でありながら、現代的な音楽となっている。アルバムを聴いていると、三人が音楽を通して対話しているようだ。ライヴでの音源も収録されており、即興演奏の感じも伺える。国境や人種、文化の違いを超越し、彼らの友情や人間愛といったものが感じられる。バウルとサズの出会い、まさにアルバムタイトル通りで、三人が織り成す音がとても美しい。

7位 Constantinople, Kiya Tabassian & Ghalia Benali · In the Footsteps of Rumi

レーベル:Glossa [3]

 イラン出身でカナダ在住のシタールの巨匠キヤ・タバシアンによって2001年にモントリオールで設立されたユニット、コンスタンチノープルの最新作。東洋と西洋の異文化間の交流促進、世界中の多様な音楽的要素を取り入れた音楽を制作するために活動、これまでに20枚のアルバムをリリースしている。
 本作は、13世紀のペルシャのスーフィー(イスラム神秘主義)の詩人、ルーミーの作品がテーマとなっている。キヤ・タバシアンが、チュニジア系ベルギー人のアーティスト/歌手のガリア・ベナリと出会ったことで、本作のプロジェクトが具体化された。キヤは「彼女こそ、ルーミーの洗練された詩を歌うための理想的な声であり、ルーミーの作品の象徴的な意味を音楽的に伝える名手たちのアンサンブルをすべてまとめるために必要な原動力だと感じた」と言っている。まさにその通りでルーミーの世界観や普遍性といったものが、音楽的に見事に表現されている。音楽に合わせてガリアによる詩の朗読もあり、とても美しい。
 2018年にリリースされたセネガル人歌手/コラ奏者アブライエ・シソコとの共演作品『Traversees』も記憶に新しいが、それとは世界観が全く異なる作品となっており、コンスタンチノープルのテクニックに驚嘆せずにはいられない作品。

6位 Mostar Sevdah Reunion · Lady Sings the Balkan Blues

レーベル:Snail Records [9]

 ボスニア・ヘルツェゴビナの伝説的なグループ、モスタル・セヴダ・リユニオンの12作目となる最新作。ボスニア・ヘルツェゴビナ発祥の伝統的な民族音楽セヴダ(セヴダリンカともいう)を演奏する。ユーゴスラビア紛争の最中1998年に結成され、今年で結成25周年。途中メンバーの死去や新メンバー加入を経て、現在も活動している。セヴダだけでなく、ロマのミュージシャンとも共演したり、セヴダと現代音楽との融合を試みている。1stアルバムは1999年にリリースされ、それ以来様々なワールドミュージックのフェスティバルで演奏し、多くの音楽賞を受賞しているグループ。
 セヴダは短調で感情的なメロディーが特徴で、ブルースやフラメンコ同様に喜怒哀楽(特に哀しみ)を表現し、庶民のための音楽。本作は「バルカン・ブルースを歌う女性」ということで、2017年に加入した女性ヴォーカル Antonija Batinić の歌がメインとなっている。女性の気持ちを歌った伝統的なセヴダの楽曲や、オリジナル曲が収録されている。愛する人を待ち続けている女性や、望まぬ結婚をさせられる女性の気持ちを、彼女の伸びやかで力強くも切ない歌声で感情的に表現している。
 アルバム最後の曲は、2021年ツアー前に亡くなってしまったグループのメンバー Milutin Sretenovic Sreta を偲んで録音された曲。Sreta は2018年にリリースされた前作『The Balkan Autumn』でメインヴォーカルを務めていたキーパーソン。SretaとAntonija が一緒に歌っているこの曲が最後の収録となり、ボーナストラックとして本作に収録されている。
 地理的なことも影響するのだろうが、東洋的な音階も感じられるセヴダ。現代的にもアレンジされており、非常に聴きごたえのある印象的な作品。

5位 Taraf Syriana · Taraf Syriana

レーベル:Lula World Records [15]

 シリアの民族音楽に影響を受けたカナダ在住の4人の音楽家によるユニット Taraf Syriana(タラフ・シリアナ) のデビューアルバム。シリア内戦の戦火を逃れカナダに移住したシリア人音楽家、Naeem Shanwar(カヌーン)、Omar Abou Afach(ヴァイオリン・ヴィオラ)を始め、モルドバ出身のアコーディオン奏者 Sergiu Popa、スイス人チェリスト Noémy Braun による構成。彼らはシリアやその近隣諸国の民族音楽を専門にしており、メンバーの中には教鞭を取っているものもいる。パンデミックの最中に結成され、リハーサルはリモートで、初コンサートはオンラインで開催された。
 本作には、シリアや中東の少数民族の伝統的な歌や、ロマの歌、そして彼らのオリジナル楽曲などが収録されている。シリアで最も有名なロマの音楽家 Mohammed Abdul-Karim (1911-1989) が作曲したタンゴの楽曲も収録されており、この地域の民族音楽が多様性に溢れていたことがよくわかる。 
 ゲストヴォーカルに、ロマのギタリスト/歌手の Dan Armeanca、カナダで俳優やミュージシャンとしても活躍しているシリア人 Ayham Abou Ammar が参加し、楽曲に彩りを与えている。また、チェロは本来4弦なのだが、2弦を追加し6弦のものを使用。シタールや東地中海の弓奏楽器ケメンチェ、リュート、ギンブリなどの音をチェロで表現したくて使用しているそうだ。カヌーンとチェロ、ヴァイオリンの弦楽器と、アコーディオンの音の組合せがとても絶妙で素晴らしい。シリアは古くから文化や文明、民族が交差する場所だったということがよくわかる作品。様々な民族的、音楽的背景を持つ音楽家たちによる多様で豊かなアンサンブルが堪能できる。

4位 Souad Massi · Sequana

レーベル:Backingtrack Production [2]

 アルジェリア出身のSSWスアド・マシの最新作。本作が彼女にとって10作目のアルバムとなる。今月は4位をキープ!
 幼い頃から音楽と近くにある環境で育ち、クラシック音楽とアラブ・アンダルシア音楽を学んだ。フラメンコグループや、ハードロックバンドでも活躍、1998年に初のソロ・カセットをリリースした。翌年パリで開催されたフェスティバルに出演し、自ら作詞・作曲を手がけたことで注目を集め、大手レーベルとの契約が成立。その後の作品は世界で多くの賞を受賞し、キャリア20年を越える実力派アーティストである。
 本作は、ほぼ彼女が作詞・作曲を行い、パンデミックで感じた不安や孤独に立ち向かう強い気持ちを表現、フランス語、アラビア語で歌っている。プロデュースはティナリウェンやラシッド・タハを手掛けたイギリスのギタリスト/作曲家のジャスティン・アダムズ(Justin Adams)。彼のアイデアで、カントリー、ロック、カリプソ、ボサノヴァ、砂漠のブルースなど、今までの作品より多彩なサウンドとなっている。
 タイトルは、ガロ=ローマ時代に癒しと治癒の力を持つと考えられていた女神セクアナ(Sequana)から名付けられている。このアルバムを聴いて癒されるように、ということだろうか? 彼女の柔らかく、心に寄り添うような歌声と、ギターの音色は確かに癒される。ジャンルにとらわれず、彼女独自の世界観を堂々と表現していて、強さも感じられる。とても気持ちのいい作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)

3位 Vieux Farka Touré et Khruangbin · Ali

レーベル:Dead Oceans [6]

 マリのギタリスト、SSWであるヴィユー・ファルカ・トゥーレの最新作。昨年11月に来日公演を行ったテキサス出身のトリオ、クルアンビン(Khruangbin)とのコラボ作品となる。ヴィユーの父で、2006年に亡くなったマリの伝説的なギタリスト、アリ・ファルカ・トゥーレへのオマージュ作品で、アリの楽曲のカバー曲が収録されている。アルバムタイトルはもちろん敬意を込めてアリの名前からつけられた。
 クルアンビンは、1960年代のタイ・ファンクから影響を受け2009年に結成されたバンドで、ダブ、ロック、ファンク、サイケデリックなど独自の音楽を展開し、近年世界の音楽フェスに引っ張りだこの存在。バンド名はタイ語で「飛行機」を意味する。そんな彼らとヴィユーが出会い、本作を制作することになったのだが、パンデミックの影響で一時は中断せざるを得なかったがこの度ようやく完成となった。
 マリの伝統音楽のスタイルとブルースが融合されたアリのサウンドを維持しながら、新たな次元の音楽となっている。アリの音楽的遺産が見事なまでに昇華され、若い世代にも伝わるに違いない。ヴィユーとクルアンビンの、アリへの敬愛がとても感じられる作品。

↓国内盤あり〼。

2位 Gaye Su Akyol · Anadolu Ejderi

レーベル:Glitterbeat [1]

 2017年に SUKIYAKI Meets the World で来日し多くのファンを魅了したトルコの女性歌手、ガイェ・ス・アキョル(本作でガイ・ス・アクヨルより呼び名が変更)の最新作。本作で4作目、4年ぶりのリリースとなる。
 トルコのサイケデリアをベースに、サーフロックやポストパンクの要素を織り交ぜた独自の音楽性を展開し、世界各地のフェスやツアーで飛び回っていた。しかし、パンデミックにより自宅で作曲に集中、その間100曲以上作曲したとのこと。これらの曲を中心に本作に収録されている。(選曲と曲順を決めるのが大変だったそう!)
 タイトルは直訳すると「アナトリアのドラゴン」、神話に登場するドラゴンが深い眠りから目覚める様子を表現している。母国トルコでかつて起きたクーデーターで多くのものが失われたことを憂い、現在の政治に対してのメッセージ、そして女性や性的マイノリティの人々の権利向上を訴える内容となっている。ドラゴンが咆哮するかのごとく、まさに彼女の魂の叫びがこのアルバムに込められている。
 過去作からの進化形として、本作では新しいサウンドを追求した。それは楽器編成にも表れており、ロックギターやベース、ドラムといった現代の楽器に、ウードやエレクトロ・バグラマ、ジュンブシュ(トルコのバンジョーのような弦楽器)などの伝統的な楽器が加わり、トルコの過去と現在をより密接に結びつけるものとなっている。
 過去作よりもポップさは感じられるが、サイケデリックやロックとの融合が本当に絶妙で気持ち良い!MVのセンスも(いい意味で)ぶっ飛んでいて、カッコ良い!彼女の叫びがストレートに心に響く。良い作品です。

↓国内盤あり〼。(日本語解説/帯付き、LPもあり)

1位 Lucas Santtana · O Paraíso

レーベル:Nø Førmat! [12]

 ブラジル・サルヴァドール出身のSSW、ルカス・サンタナの最新作。2019年リリースの前作同様パリのレーベル NO FORMAT! からのリリースで、本作が9作目。先月12位でランクインしたが、今月は1位に!
 タイトル『O Paraíso』とは「楽園(パラダイス)」のこと。パンデミック中に構想された内容で、我々に「楽園はここにある」という発想の転換を促している。自然の美に対する感覚が、実は普遍的なものであるということからインスピレーションを得たそうだ。近年の地球環境問題についての危機へのメッセージも込められいる。
 ルカス自身のギターに、Zé Luís Nascimento のパーカッション、日本に来日したこともあるチェリスト Vincent Segal のチェロなどが加わり、フランス在住のミュージシャンたちが参加している。ブラジル人女性歌手Flavia Coelho、フランスのバンド L'Impératrice の女性歌手 Flore Benguigui もゲストヴォーカルで参加。
 ほとんどの楽曲がルーカスによるオリジナル作品だが、カバー曲2曲収録されている。1974年にリリースされた Jorge Ben Jor の曲「Errare Humanum Est」と、のちにセルジオ・メンデスもカバーしたビートルズの「The Fool on the Hill」で、本作のコンセプトに合わせて選んだようだ。
 カポエィラやマラカトゥのリズムが感じられる楽曲から本作は始まり、彼の世界が広がっている。根底にはブラジルのリズムが感じられ、ジャズやエレクトロニクスがミックスされた独創的なサウンドとなっている。シリアスな内容を扱い、哲学的な内容となっているが、彼の柔らかい歌声や人柄からなのか、繊細で、洗練されたエレガントな作品に仕上がっている。フランス語やスペイン語(これがまたボサノヴァ風で不思議な感じだが良い!)で歌っている曲もあり、ブラジルだけでなくヨーロッパに向け作られていることも推察される。パリのレーベルからのリリースだから本チャートにランクインされたのだろうが、ブラジル音楽としての完成度はとても高い!ルカスの父親はトン・ゼーの従兄弟で、ジルやカエターノと共にトロピカリアを創ってきたプロデューサーの Roberto Sant'Ana(ホベルト・サンタナ)。まさにトロピカリアの継承者であると言える素晴らしい作品。


(ラティーナ2023年2月)

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