■エルザ・ソアレスの91歳の死
近年も新たな黄金期を迎えていたブラジルの偉大な黒人女性歌手、エルザ・ソアレス(Elza Soarez)が、2022年1月20日15時45分(現地時間)にリオデジャネイロの自宅で、老衰で亡くなった。91歳だった。
マネージャーであり友人でもあるペドロ・ロウレイロ(Pedro Loureiro)によると、家族に向かって「私は死ぬと思う」と言った後、彼や家族と40分ほど話しをし、力を失い、目を閉じて亡くなったそうだ。苦しむことなく、安らかに亡くなった。「エルザは、病気で苦しんで死ぬことを恐れていた。エルザはスイッチを切っただけだ」とペドロは言う。「彼女の最期は女王そのものだった。DVDを収録し、歌を歌い、新しい家を買い、別荘も買った。すごく幸せで、すごく元気で、70年のキャリアの絶頂で亡くなった」
今月17日と18日に、エルザは元気そのもので、DVDの収録を行っていたそうだ。「いつもと同じように始まり、朝起きて、理学療法を行い、すべてが正常だった。少し疲れ気味で息苦しさもありましたが、理学療法のせいだと思っていた」と1月20日のことを、ペドロは振り返る。
「その後、エルザは休みたいと言い、少し言葉を吃り始めた。それで、ぼくや家族が気になったが、“大丈夫だから”と言って、エルザはぼくらと喧嘩した。“私は死ぬと思う”と言ったのはそれから暫くしてから」
DVDの収録の最後に歌った歌は、「Mulher do Fim do Mundo(世界の終わりの女)|2017年」で、このような歌詞で終わる。
実際に、最期まで歌い続けた、91歳の偉大な歌手人生であった。
奇しくも1月20日という日付は、1966年から1982年まで婚姻関係にあり、人生で最愛の人だったとエルザが言うガリンシャ (Garrincha|ブラジルではペレに並ぶ人気サッカー選手だった)が1983年に亡くなった日と同じ日付であった。
彼女の死の報を受け、駐日ブラジル大使館もSNSでコメントを発表した。
■駐日ブラジル大使館
■MAKO
エルザ・ソアレスが本国でどんなにか尊敬された存在かを伝えるために、それを端的にテキスト化しているリオ在住の日本人女性歌手Mako氏の追悼コメントも引用したい。
ブラジルの音楽家も一斉に追悼コメントを出した。日本でも馴染みのある音楽家のコメントからいくつか紹介したい。
■CAETANO VELOSO
こちらはカエターノ・ヴェローゾのSNSから。カエターノが載せた動画は、カエターノとエルザが歌う「Língua(言語 / 舌)」。
カエターノが書いているのは、1984〜5年頃のエピソード。ガリンシャの死(1983年)の責任をエルザ・ソアレスに押し付ける一部の声によって、エルザのブラジルでの名声が落ちていた。しかしながら、ガリンシャの引退(1972年)後、酒癖が酷くなるガリンシャを立ち直させるために、エルザはブラジルでの歌手としてのキャリアを捨て、ヨーロッパに共に移住するなど、ガリンシャのために尽くしていた。エルザがいなければ、ガリンシャはもっと以前に破滅していたというのが妥当だろう。ガリンシャの家庭内暴力が息子に及ぶことを恐れ、エルザはガリンシャとの生活から離れたのだった。
■EMICIDA
■ROBERTA SÁ
■PEDRO LUÍS
◾️PAULINHO DA VIOLA
その他にも、本当に多くの追悼のコメントが出ており、こちらにもまとめられていた(ポルトガル語)。
エルザ・ソアレスの波乱万丈な人生については、書き始めたらいつまでもこの記事をアップできないので、また機会を改めて記したい。合掌。
(ラティーナ2022年1月)
(文責:花田勝暁)