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[2023.3]【太平洋諸島のグルーヴィーなサウンドスケープ㉜(最終回)】 資源 resources、波 wave、生命 life ― 太平洋諸島の音楽文化への旅の澪標 ―

文●小西 潤子(沖縄県立芸術大学教授)

 ミクロネシアから出発し、メラネシア、ポリネシアの島々へと東に航路をとり、ハワイから小笠原、沖縄、八重山諸島に折り返し、台湾へと西まで戻ってきた本連載記事。2020年8月から32回目にあたる今回は、太平洋諸島のグルーヴィーなサウンドスケープの総集編です。
 
 青い空と美しい海、ダイビングなどのマリンスポーツやリゾート、体格のよいラグビー選手…本連載記事では、太平洋諸島と聞いて浮かぶさまざまなイメージを背景としつつ、遠景にある人々の営みや歴史に触れながら、前景に響く音や風景を描き出してきました。形式的に限定されがちな「音楽」だけを切り取るのではなく、太平洋諸島の空気ごと伝えたい思いから、タイトルには M.シェーファー(1933-2021)が提唱したサウンドスケープという造語を選び、ドキドキ感をグルーヴィーと表現しました。

 本連載記事のキーワードは、資源 resources、波 wave、生命 life。資源 resources は、もともと島々にあったモノだけでなく、そこに人々がもたらし育んだモノも含みます。波 wave は、太平洋の荒波を象徴するのみならず、大地のうねりや波に乗って人々が手を振って行き交う様子 ― すなわち人の移動も指します。そして、生命 life は歌や踊りに生命を注ぎ、そこから糧を得てきた太平洋諸島の人々の生きざまのことです。

 太平洋諸島は、水資源や植生豊かな山地性の火山島と海洋資源に恵まれた美しい低地性の環礁島に大きく分かれます。人々の祖先にあたるラピタ人は、大海原の波を乗り越えて、台湾からインドネシア東部、ミクロネシア、メラネシアを経由し、トンガ、サモアに到達しました。そこで古代ポリネシア文化を築き、800年もの休止期間を経て再び東進し、ハワイ、ニュージーランド、ラパヌイ(イースター)島に到達し、1400~1600年代にはソロモン諸島の一部、ニューカレドニア、フィジー、サモア、ニウエ、フランス領ポリネシアの一部まで支配する大帝国を形成しました。

 ヤシの木と若干のパイオニア植物、コウモリ、アザラシなど限られた在来動植物しか存在しなかった島々にブタ、イヌ、ニワトリ、タロイモ、ヤムイモ、バナナなどを持ち込み、魚類ごとの特性に合わせたさまざまな釣り針を開発して暮らしたとされています。度重なる移動をしながら、こうして環境に適応し、生命をつないできたのです。1963年以来、第4回目の1年延期と、コロナ禍での2020年の休止を除いて、オリンピックと同年に、各地持ち回りで開催されてきた太平洋芸術祭 The Festival of Pacific Arts では、太平洋諸島の人々のアイデンティティを象徴するカヌーでの来航と歓迎が恒例の行事となっています(写真1)。

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