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[2021.01]宮沢和史インタビュー『次世界』編 〜ニューアルバム『次世界』に込められたメッセージ〜

取材・文●佐々木俊広

※本記事は無料記事です。
 姉妹編の「宮沢和史インタビュー 〜2020年について聞く ツアーのこと、沖縄のこと〜」はこちら↓


 1月20日に、1年8ヶ月ぶりとなるオリジナル・アルバム『次世界』をリリースする宮沢和史。コロナ禍の中で制作された最新作にはどんなメッセージが込められているのだろうか?その想いを訊いていこう。

── リリースの資料にもありますが、「今の時代に対する不安」というのはコロナもそうですし、雇用の不安定さや介護、待機児童の問題…… ずっと解決していない様々な要因があります。今回、『次世界』の制作にあたっては諸々の葛藤もあったと思うんですけれども、どういうところを念頭に置いて作られましたか?

宮沢和史 ここ何年か、世界を揺るがすような大きい出来事が続いていますよね。アメリカの同時多発テロとか東日本大震災、そのたびに色々考えさせられるわけですけど、特に東日本大震災のとき… あの衝撃は人間の価値観を変えちゃうぐらいのものでしたし、あのときは言えなかったけれども、ある意味、僕らは“変われるチャンス”をもらったのかなって思ったんですよね。だけど結局、何ヶ月か経ったら元に戻っただけで相変わらず政治もだらしないし、「変われるチャンスを逃したんだ、俺たちは」と。今回はなんというか、地球上の全員が大変じゃないですか? 誰かが弱っていると誰かが得するみたいな構図じゃないので、本当に変われるチャンスだと思うんですよ。

 「早く元の生活に戻りたい」。それは僕もそう思いますけど、ただ元の生活に戻るだけだと、また数年後に世界を揺るがす“何か”が起きるはずですよ。おっしゃられたようなことが解決しないまま、雪だるま式に問題が多くなってくるなかで、「変えるチャンスをもらった」と考えなきゃいけないし、“次の世界”っていうものをみんなで想像していく。「これは人間にとって一番幸せな姿じゃないか?」ってちゃんと話し合って、そこへ向かおうじゃないかっていうふうに世界規模で話し合えるチャンスですよね。それで『次世界』っていうタイトルです。

 ジョン・レノンの「イマジン」。僕は本当にロックの金字塔だと思うんです。「想像しようじゃないか、未来を。争いもない、宗教もない、そういう世界を想像しようと。でも、みんな僕のことを“夢想家”って言うけど、そんなことないよ、君も一緒にやろうよ」っていう歌なんですよね。すごいメッセージだと思うんですよ。(アルバム・タイトルにもなった)「次世界」はジョンのメッセージをもう一回、僕なりに解釈して、今の時代の生きた言葉で歌にしたいなっていうことで生まれた曲なんです。それが柱になって「未来飛行士」なんかも、「今は何も約束できない時代だけど、次に会うときにはお互いちゃんと生きて、この星へ帰還しよう」っていうメッセージですよね。

── 歌詞にも“未来”という言葉がたくさん出てきます。非常に前向きでポジティブなアルバムだと受けとりました。

宮沢和史 コロナ禍の世界に迷い込んで、やっぱり僕もひとりの人間ですから不安で怖かったですし、いつまでこれが続くんだろう…って。音楽家も本当に仕事がない状態ですから。我々が言える、みんなを勇気づけられる一つの方法っていうのは「今は大変だけど、絶対に明日は来るから」ということですよね。必ず朝日が昇るからっていうことですけど、それすらもコロナってわからないじゃないですか? 明日、僕も死んでいるかもしれない。コロナ渦で生まれた曲っていうのがそろそろ世の中から聞こえてくるでしょうけど、それを皆さんがどう思われるかについて僕は何も言えません。難しいですよね。

 だけど、『次世界』に収録した曲は無責任でもなく、ただ「明日が来るから頑張ろう!」みたいな安っぽいものでもない。それはジョン・レノンという指針が僕の中にあるのでね。コロナ禍において、毎日自宅で過ごしていても詞を書けない日、曲が生まれない日のほうが圧倒的に多かったけれど、そこから抽出した僕のなかでの真実、嘘じゃないもの。皆さんを音楽で勇気づけたいという気持ちの入った曲、そして自分自身も高揚した曲が選ばれています。

ジャケ写

●タイトル:【次世界(じせかい)】
●発売日:2021年1月20日(水)
● 仕様・形態:
Type-A : CD+DVD+Booklet(三方背BOX仕様) / 5,500円(税抜価格5,000円)
Type-B : CD / 定価2,750円(税抜価格2,500円)
●内容:
<CD> *Type-A、B共通
1. 未来飛行士  作詞・作曲:宮沢和史、編曲:町田昌弘、米田直之
2. 次世界    作詞・作曲:宮沢和史、編曲:町田昌弘、米田直之
3. 歌い出せば始まる 作詞・作曲:宮沢和史、編曲:高野寛
4. アストロノート  作詞・作曲:宮沢和史、編曲:町田昌弘、米田直之
5. 最大新月 ~2020.08.15 Live ver.~   作詞:宮沢和史
6. 白雲の如く(白雲節) 沖縄民謡    訳詞:宮沢和史 
7. 旅立ちの時  作詞:ドリアン助川、作曲:久石譲、編曲:京田誠一

<DVD> *Type-A のみ
Kazufumi Miyazawa 明日へ向かうために、あの場所へもう一度~Documentary Movie~ 2020
1 Opening
2 大阪リハーサル~ライブ@大阪服部緑地野外音楽堂 2020.08.15
*「気球に乗って」
3 いわきを訪ねて
*「僕にできるすべて」
4 レコーディング
*「最大新月」、「未来飛行士」
5 佐渡を訪ねて
*「DISCOTIQUE」
6 沖縄・首里城を訪ねて
*「島唄」
7 Ending

── 期間としては集中的に作られた曲が多い?

宮沢和史 4月から書き始めて、夏の終わりぐらいまで寝かせて…また引っ張り出して歌詞を一文字だけ直したりとか。詞は先に全部できていまして、曲は故郷の山梨に籠って1週間で作りました。

── オリジナルの新曲が中心ですが、今回、すごく印象的なのは「白雲節(しらくむぶし)」ですよね。「白雲の如く」として宮沢さんの言葉で訳されて収録されています。嘉手刈林昌、登川誠仁、知名定男など、巨匠たちそれぞれの名唄も印象的なラブソングです。

宮沢和史 沖縄の民謡には名曲が星の数ほどあるんですけど、ひときわ輝くラブソングですね。沖縄民謡と他の地域の民謡と違うところはやっぱり“恋の歌”が圧倒的に多い。内容を簡単に言えば、「白雲のように見えるあの島に、自分に羽が生えていたら飛んで行けるのになぁ。毎晩飛んで行って、好きな人と一緒に愛を語りたいのになぁ」。でも、途中で「あなたが住んでいる島は、あの白雲のように見える島のさらに向こうの島」という歌詞が急に出てくるんですよね。本当に会えない人なんだな、と。それは距離的なことかもしれないし、もしかしたら好きになっちゃいけない人かもしれないし、いろんな解釈ができる。自分の人生や愛の価値観をいかようにも当てはめられる唄だから、多くの唄者、聴く者たちに愛されているのだと思うんですよね。

 僕はこのコロナ禍において、民謡の中ではこの唄をいちばんよく聴いたんですよ。会いたい人に会えない、家族に会えないまま火葬されてしまう方もいらっしゃる。すごく今の時代に響くこの唄をみんなに知ってほしくて、島言葉の歌詞になるべく忠実に、だけどわかりやすく自分なりに訳してみました。原曲はもっと跳ねたリズムなんですけど、ここではバラード調にしています。最初は聴いていても沖縄民謡だとは気がつかない人もいるかもしれませんね。

── もう1曲、宮沢さんの自作ではない「旅立ちの時」(1998年「長野パラリンピック」のテーマソング)をセルフ・カヴァーされていますね。合唱コンクールなどで今も根強い人気のある曲です。

宮沢和史 これも「今、歌ったら勇気づけられる人がいるんじゃないかな?」と思ったのと、今なら以前録音した時よりもうまく歌えるかもな、と。合唱で歌われているっていうのも少し耳に入っていました。一つの大会のテーマソングで終わるのももったいないし、何よりもいい歌なので。

── 作曲は久石譲さんですけど、宮沢メロディーっぽいなというところも。

宮沢和史 うん、自分寄り(のアレンジ)にしていますね、今回は特に(笑)。久石さんは「ぜひ歌ってください!」とおっしゃってくださって。

── 編曲の京田誠一さんは上妻宏光さんの編曲などもされている方ですか?

宮沢和史 夏川りみさんに僕が書いた曲を彼がアレンジしたものがありまして、そのときに「ああ、素晴らしいな」と思って機会があったら絶対やってもらおうと。なるべくオリジナルの構成を崩さないようにしたいとお願いしましたが、京田さん曰く「オリジナルよりもさらに宮沢らしさを出したい」ってことで、オリジナルよりもロックな力強さがありますよね。

── この2曲以外、2020年に書かれた新しい歌について。宮沢さんの曲は“月”をモチーフにしているものが多いと思いますが、今までの歌はどちらかというと“見上げた月”で、今回のアルバムでは月の距離が近いと感じました。フォーカスしているというか、宇宙空間から地球と対の視点で見ているというか。月は月でも、そこが今までの曲と少し違う印象を受けました。

宮沢和史 「アストロノート」という曲の中にある歌詞は… リーマンショックとか今までも世界を揺るがす出来事が色々ありましたけど、一方でリーマンショックなんて全然、屁でもない人もたくさんいたわけで。でも、コロナっていうのはもう全員ですよね。全員が明日どうなるかわからない恐怖にさらされている。地球っていうものから、どうやっても逃げられない運命にあるんだなって今さらながら実感したんですよ。

 たとえ莫大なお金があっても宇宙に滞在できるのはほんの数分… で、ここから逃げられないってことは、我々はこの惑星という乗り物に乗っている“宇宙飛行士”であると。しかし、行き先は自分じゃまったく決めることができない。それを決めるリーダーもいない。「どこ行くんだ?」ってただ自転している。だけど、宇宙飛行士なんだなと思ったときにやっぱり月との距離感とか、宇宙観とかが違って見えたんですよね。それが如実に詞に出ているということだと思います。

── 『次世界』はサウンド的にはシンプルなロックがベースで、前作(『留まらざること川の如く』)に通じる世界観もあると感じました。たくさんの引き出しを持っていらっしゃる宮沢さんであればカラフルにすることも当然可能だと思うんですけれども、その辺は敢えてシンプルに、というのが今の気分でしょうか?

宮沢和史 僕はこれまでほぼ“ロック”のアルバムってなかったんですよね。いちばん最初に刺激を受けたのはロックと日本の歌謡曲だったりしますから、やっぱりビートルズは大事だし、当時のニューウェイヴとか大好きだし、影響を受けていないはずがないんですけど、プロになったときに「彼らと同じような道を行っちゃいけないな」って勝手に決めたんですよ。憧れたからこそ、彼らには作れないものを作らないといけないって。ただ、その答えが何だかわからないから沖縄の扉を開けてみたりすると、知らない音楽に出会えて。それと自分の経験を結びつけたらなにか新しい火花が散るんじゃないか?っていう、その連続ですね。それがブラジルだったり、キューバ音楽だったりしてきたわけです。

 でも、ここへきて自分で決めたルールを外してみたときに、「やっぱりイギリスのロックが好きだったな。今でも好きだよな。そういう縛りはもう全部やめて作ってみようかな」と。ブリット・ポップが自分に与えた影響ってものすごいし、そこを避けないでやると自然にロックになる。

── ファースト・ソロ・アルバム『Sixteenth Moon』(98年)も聴き直したんです。改めて、賞味期限のない歌がたくさんあるなぁ、今の気分で聴けるなぁと感じました。

宮沢和史 あれがだから自分の偽らざるルーツっていうか。イギリスで、ちゃんと自分の身体に合う生地のスーツを作りたい、みたいなね。当時のマヌ・カッチェやドミニク・ミラーなんかは成熟してすごいときでしたから。どちらかと言うとAORに近い耳ざわりで、今回作ったアルバムのほうが初期衝動、ロック小僧に近いかもしれないですね(笑)。

── 今、ギターでの曲づくりはナイロン弦、スチール弦、割合的にはどちらが多いですか?

宮沢和史 このアルバムは詞を先行させましたから、詞に乗せるっていう意味ではなんでもよかったんですけど、今はナイロンのほうが多いですね。音の強弱が付きやすいし、静かに弾くこともできるし、ナイロンのほうが喋るのに近いというか。いつもミニギターで作りますね、フルじゃなくて。ベッドに寝っ転がりながらでも弾けるように。

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── 「歌い出せば始まる」の歌詞でも “小さなギター”がリフレインされていて印象的です。

宮沢和史 最近、買った日本製のギターなんです。あのね、曲を作るときっていつも同じルーティンだとダメな人って多いと思うんですよ。楽器を買ったら急に曲ができるとか、けっこうあるんですよね。ギターに限らず、機材なんかを買うとそれをいじっている時間が楽しいので。

── レコーディングはいつもと違う方法で?

宮沢和史 そうですね。「旅立ちの時」はメンバーを時間差で入れようっていうふうにして、かなり広いスタジオを借りました。京田さんと僕とエンジニアは常に居て、ドラムとベースが先に来て、録ったら次のミュージシャンが来る前に帰ってもらって…というやり方をした曲もあるし、あとは事前になるべく当日の作業を減らせるようにしておいて。前作は僕の自宅スタジオで全部録ったんですけど、自宅にはみんなも来にくいだろうから。基本的にはなるべくみんなで一緒にいる時間を少なくする。みんなもそれを分かっているので「せーの!」で録音して、もう多くて3テイクですね。だから、すごくペースが速かったですね、今回は(笑)。

── 参加メンバーについても教えてください。

宮沢和史 2チームに分かれていまして「旅立ちの時」と「歌い出せば始まる」は、全員はいませんけど基本的にGANGA ZUMBAのメンバー。「歌い出せば始まる」は高野寛君のアレンジで演奏も宮川(剛)君だったり、tatsuだったり。「旅立ちの時」は土屋玲子さんと大城クラウディアさんもいましたから、よりGANGA ZUMBAに近い形。「白雲の如く(白雲節)」のピアノは鬼武みゆきさん。その他の曲はTHE BOOMの最後の方でサポートに入ってくれた町田昌弘君と、彼のパートナーのキーボーディスト、米田直之君。この2人に頼みました。実は今、沖縄のオリオンビールのCMで「島唄」が使われているんですけど、ハードでアッパーなアレンジをこのチームがやってくれて、すごく面白くて。じゃあ、あとは彼らに任せようということでお願いしました。ベーシストは僕より二回りぐらい下なんですが、非常に良くてね。ここ日本ではギターもドラムもみんな巧くなっているけど、でも特にベース。こういうベースを弾ける人って昔はいなかったなっていう。

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レコーディングスタジオにて、Ganga Zumba のメンバー
「歌い出せば始まる」録音時 左からtatsu、宮川 剛、高野 寛

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レコーディングスタジオにて、「次世界」録音時
左から鬼武みゆき、楠 知憲、伊藤直樹、米田直之、町田昌弘

── あまり世代で分けても意味がないですけど、宮沢さんはいろんな世代の方とお仕事されているのは自然な流れで良いですね。

宮沢和史 大体みんな同じ世代でそのまま歳を取っていく感じが多いんですけど、先輩も若い人とも一緒にその場にいるほうが僕は楽しいですね。年齢は関係ないというか。GANGA ZUMBAに関してはメンバーの歳も違うし、国籍もみんな違いますしね(笑)。

── 『次世界』の発売記念ライブも予定されています。アルバムを核にして、どういう内容にしたいと考えていらっしゃいますか?

宮沢和史 正直、先の状況がどうなるか全く読めないですけど… でも、コロナ禍だからこそ鳴り響くロックっていうのがあるはずなので、その“点”を探していくっていうことでしょうね。僕の中でロックっていうのは何かを叩き壊すっていうよりは、作り出すイメージ。でも矛盾や嘘、欺瞞、そういうものとはぶつかっていく。“理想”って何かわからないけれども、漠然とした人間の幸せ…そういう世界へのインフラがロックだと思っています。コロナ禍でもぶつかって生まれるエネルギー、それがロックの役割だと思うので、ただ楽しければいいとか、汗をかけばいいっていうものでもないし… そういうライブになるんじゃないですかね。

 ライブの素晴らしさっていうのは、お客さんも僕たちもみんな気づきましたから。生きているから出会えるという奇跡を感じるようなアツいものにはしたいけれども、コロナがどうなっているか、開催できるのかさえわからない……。2020年はこういう中でできる“静”のライブはやれたんですけど、次の段階ではやっぱりもう少しエネルギーを感じるものにはしたいですよね。


宮沢和史 コンサート2021
【次世界】~NEW ALBUM「次世界」発売記念ライブ

◆東京公演
【日時】2021年3月6日(土) 開場 15:00 / 開演16:00
【会場】EX THEATER ROPPONGI 
【URL】http://www.ex-theater.com/
【問い合わせ先】サンライズプロモーション東京 0570-00-3337  月-金12:00~15:00
◆大阪公演
【日時】2021年3月8日(月) 開場 17:30 / 開演18:30
【会場】なんばHatch 
【URL】http://www.namba-hatch.com/index.php
【問い合わせ先】キョードーインフォメーション TEL:0570-200-888 月-土11:00~16:00

【チケット料金】¥7,000 全席指定・税込・ドリンク代別途必要・6歳未満の入場不可
【一般発売日】2021年1月23日(土) 10:00~ 各プレイガイドにて
※会場収容人数は政府発表の「イベント開催制限の段階的緩和の目安」に基づいて設定されます。また新型コロナウイルスの感染状況により開催が変更されることもありますのでご注意ください。

(注)一都三県が緊急事態下に置かれ、上記コンサートが開催できるかどうか現状では判断出来かねますので、適時宮沢和史公式ニュース(以下リンク参照)をご覧ください。


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(左:佐々木俊広、右:宮沢和史)
●佐々木俊広|「bounce」「intoxicate」、プロダクション等を経てライター/エディター/コンテンツ・ディレクター。「21世紀ブラジル音楽ガイド」にも参加させていただきました。

(ラティーナ2021年1月)



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