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[2024.6]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2024年6月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。


20位 Céu · Novela

レーベル:Urban Jungle / ONErpm [-]

 2005年のアルバム『CéU』で、一気に国内外に知られるデビューを果たしたブラジル・サンパウロ出身の女性シンガー/ソングライターのCéu(セウ)が、2021年の『Um Gosto de Sol(太陽の香り)』以来、3年ぶりのアルバム『Novela(ドラマ)』を発表した。Kendrick Lamar、Snoop Dogg、Wu-Tang Clanとの共作でも知られるビンテージ機材での生演奏の録音を得意とする米国西海岸のプロデューサー/プレイヤー、Adrian Younge(エイドリアン・ヤング)と録音するために本作はロサンゼルスで録音、収録された12曲はスタジオでライヴ録音されている。プロデュースには、Adrian Youngeの他、Céu本人、Pupillo(プピーロ|Nação Zumbi等のドラマーであり、現在のCéuの公私のパートナー)も名を連ねている。

 スタジオ・ライヴ録音の布陣は、Adrian Younge(ピアノ、ギター、ビブラフォン、オルガン、ベース)、Lucas Martins(ベース、アコースティックギター、エレクトリックギター)、Pupillo(ドラム、パーカッション)。

 プロデューサーの人選からもはっきりわかるように、『Tropix』(2016年)と『APKÁ!』(2019年)の電子音楽に近づいたアプローチから、本物のビンテージ機材によるアナログな音に大きく変化している。

 先行シングルの「Gerando na alta」は、フランス系セネガル人のアーティストAnaiisと共作・共演。アルバムのトップ曲「「Raiou」は、ブラジル人の両親を持つMC兼作曲家のLadyBug Meccaのライムがフィーチャーされている。アルバムのラスト曲「Reescreve」は、Céuにとって初となるMarcos Valle(マルコス・ヴァーリ)との共作曲となった。

 繰り返しを避けるため時折、その音楽スタイルを変化させるCéu。デビューから19年を経たシンガーソングライターの作品ながら、新鮮な響きの音に引き込まれ、鳴り響く音は終始興味深い。本作には、ソウル、カンシオン、ラップ、ボレロの要素を織り交ぜた優れた楽曲が多数収録された。Adrian Youngeは、本作の中で、多数の弦楽アレンジも手掛けているが、その響きも楽曲の価値を引き立てている。

19位 Marjan Vahdat · The Eagle of My Heart

レーベル:Kirkelig Kulturverksted [26]

 テヘラン生まれのイランの歌手、Marjan Vahdatの最新作。ソロ作としては4作目で、2022年リリースの前作『Our Garden Is Alone』も本チャートにランクインしていた。
 本作では、楽器の伴奏は無しですべてアカペラで歌っている。「アカペラで歌うことは自己批判を超越した解放的な行為」だと彼女は語る。彼女のパワフルで魅惑的な歌声による圧倒的な歌唱力が前面に出ており、楽器の伴奏から解放された生の感情と複雑さを表現している。伝統曲の2曲を除き、楽曲のほとんどは彼女の作曲によるもの。
 また本作では、彼女の父親、祖母、いとこなど、彼女の人生に影響を与えた人物の声が録音されており、瞑想的で魅惑的な演奏にドキュメンタリーのような間奏が加わっている。
 彼女の音楽的革新と伝統が反映された作品。魅力的で力強い歌声に一撃される。

18位 Sahra Halgan · Hiddo Dhawr

レーベル:Danaya Music [7]

 「アフリカの角つの」と呼ばれるアフリカ大陸東端にある未承認国家、ソマリランド共和国出身の女性歌手サハラ・ハルガンの最新作。
 ソマリア北西部が内戦により1991年にソマリアから独立したのがソマリランド。内戦が過酷でサ1992年に政治難民としてヨーロッパに渡ることとなり、現在はフランス在住。9年前に、ジュネーブ発のバンド Orchestre Tout Puissant Marcel Duchamp のギタリストであるマエル・サレーテス、BKO QUINTET の創設メンバーであるリヨン出身のパーカッショニストエメリック・クロールと出会い、リヨンでサハ・ハルガン・トリオとして活動を開始し、オリジナル曲とソマリアの伝統的な歌をミックスした1stアルバム『Faransiskiyo Somaliland』を2015年にリリース。続いて2020年にも2ndアルバムをリリースし、本作が3作目となる。本作にはトリオの他に新メンバーのレジス・モンテがヴィンテージ・オルガンとプロト・エレクトロニクスで参加している。
 アルバムのタイトル『Hiddo Dhawr』は「Preserve Culture」を意味し、直訳すると「文化を守る」。彼女が2013年にソマリランドの首都ハルゲイサに設立した文化センターの名前でもある。彼女はトリオで、機会あるごとにソマリランドの国旗を掲げて世界中をツアーしてきた。「私は自分がソマリランド人であることを世界に知ってもらいたい。文化、言語、音楽、伝統など、私たちがどれだけ豊かな国なのかを知ってほしい」と訴えている。本作にはソマリランドの文化を守るという彼女の理念が込められている。
 先行リリースとなるシングル曲しかまだ聴けていないが、古くから伝わるソマリアの伝統と、繰り返されるギターリフ、ハンドクラップ、タンバリンの容赦ないビートを融合させている。アフリカのポップさとパンクのミックスが堪らない!砂漠のブルースも彷彿させるギターリフはクセになる。

17位 Lina · Fado Camões

レーベル:Galileo Music Communication [4]

 ポルトガルの若手女性ファド歌手リナ(Lina)の2作目となる最新作。2020年にリリースされた前作は、シルビア・ペレス・クルスやロザリアなどと共演したスペインのミュージシャン/プロデューサーのラウル・レフリーとの共作で高く評価された。本作は彼女にとって初のソロ名義作となる。
 本作では、16世紀に活躍したポルトガルを代表する歴史的詩人、ルイス・ヴァス・デ・カモンイス(Luis Vaz de Camoes 1524-80)の古典詩を基に、“ファドの王様” アルフレード・マルセネイロ(1891-1982)や、モザンビーク生まれのポルトガル人女性歌手アメリア・ムジェによる作曲のナンバーやリナの自作曲、さらには伝統曲などを独自のアレンジで展開している。
 今回は、ティナリウェンやロバート・プラントらとコラボしたイギリス人ギタリストのジャスティン・アダムズがプロデュース。世界の様々なミュージシャンたちとコラボしてきた彼独特のアプローチで個性的なファドを創り出した。伝統と革新がうまく融合した楽曲を、彼女が美しく神秘的な歌声、豊かな表現力で歌う。ポルトガルギターの巨匠、ペドロ・ヴィアナによるポルトガルギターの音色もさらに豊さを彩り、聴いてきてうっとりするほど。現代ファドの進化をじっくりと感じさせてくれる作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり)

16位 Tarwa N-Tiniri · Akal

レーベル:Atty [-]

 2012年幼なじみ達で結成したモロッコの5人組バンド、タルワ・ン=ティニリの最新作。本作が2作目となる。バンド名は「砂漠の息子たち」を意味し、「砂漠の民の文化と尊厳を永続させる責任を持つ世代」としてバンドの使命が凝縮されている。ベルベル族の遊牧民である彼らは、自分たちのルーツを讃え、豊かな遺産を世界と分かち合うために音楽活動を始めた。
 本作タイトル「Akal」は、タマジグト語で「土地」のこと。自由な土地への帰属を表現し、文化を広め、モロッコのベルベル族の文化遺産を紹介するために、さまざまな土地へ音楽とともに旅をすることを表現している。
 「砂漠のブルース」を演奏するバンドは近年よく耳にするが、彼らは他のバンドとは一線を画している。伝統的なベルベル族の音楽、北アフリカ特有のメロディーが、ブルース、ジャズ、レゲエやロックのリズムとシームレスに融合している。もちろんモロッコの伝統音楽であるグナワ音楽もミックスされ、彼ら独自の魅惑的なサウンドを生み出している。
 本作ではゲストでモロッコの NUKAD、オランダの Thijs Borsten、ノルウェーの Elin Kåvenなど、多彩なミュージシャンも参加。モロッコだけでない世界観も表現している。

15位 Quintet Bumbac · Héritages

レーベル:Collectif Çok Malko [24]

 フランス出身の音楽家ダヴィッド・ブロシエ(David Brossier)を中心に2015年に結成された5人組、クインテット・ブンバックの最新作。ヴァイオリン、ヴィオラ、コントラバス、チェロなど弦楽五重奏のユニット。
 ダヴィッドはバルカン半島や中東の音楽を独自の方法で表現する音楽家、作曲家、編曲家、演奏家であり、革新的なプロジェクトで現在の芸術シーンに関わっている。彼らが演奏するのもルーマニアやブルガリア、ギリシャ、トルコの伝統音楽やポピュラー音楽などで、ダヴィッドが作曲/編曲を手がけている。
 5つの弦楽器は、超越的なループの中でそれぞれの音色がブレンドされている。リズミックなモザイクを構築し、それぞれの音が統合され5人でひとつの音を形成しており、何より音色が非常に豊か。ダヴィッド以外のメンバーたちのキャリアも多彩で実力派。拡がりのある音に驚かされると同時に説得力もある。ポピュラー音楽も収録されており、聴いたことがあるフレーズも!ダヴィッドのアレンジテクニックも堪能できる。
 聴いていると、とても豊かな気分が満たされ、弦楽器で心が癒されるかのようだ。これはいいです。

14位 V.A. · Congo Funk! Sound Madness from the Shores of the Mighty Congo River (Kinshasa / Brazzaville 1969-1982)

レーベル:Analog Africa [10]

 アフリカ音楽のメッカとみなされたコンゴ音楽の黄金期である70年代の音源を中心としたコンピレーションアルバムがランクイン!アフリカ音楽のレア音源を復刻することで人気のドイツのレーベル “Analog Africa” からのリリース。
 アフリカ中央部を流れるコンゴ川沿いにあるコンゴ民主共和国(旧ザイール国)の首都キンシャサと、対する北岸にあるコンゴ共和国の首都ブラザヴィルに実際に行って集めた音源約2000曲から厳選した14曲のファンク系ナンバーが収録されている。二つの都市のさまざまな側面を紹介し、有名無名を問わず、ルンバを新たな高みへと押し上げ、最終的に大陸全体、そして世界の音楽に影響を与えたバンドやアーティストにスポットを当てている。
 当時の音源にどっぷり浸れる貴重な作品!

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き、LPもあり〼)

13位 Olcay Bayir · Tu Gulî

レーベル:ARC Music [-]

 ロンドンを拠点に活動するトルコ出身クルド人SSWオルカイ・バユルの最新作。フルアルバムとしては三作目となる。
 10代の頃家族とともにロンドンに移住し、ロンドンの大学でオペラを学んだが、クラシック音楽は自分の進む道ではないと悟った。自身のルーツであるアナトリアの民謡を探究し、2014年1stアルバムをリリース。彼女独自のアレンジで5ヶ国語で歌った作品はは高評価を博し、イギリスのワールド・ミュージック・シーンで最も素晴らしく、最も魅力的なシンガーの一人と評された。
 本作もアナトリアの伝統音楽をもとに、現代的なアレンジと西洋的な歌い方でアナトリアとロンドンの現代的なサウンドが絶妙にミックスされたサウンドとなっている。歌っている歌はどれもアナトリアの伝統音楽で、結婚式のダンス音楽、アナトリアの歴史を通して多くの女性が共有した経験を歌った歌、戦争の悲惨さを訴える歌など、女性に纏わる楽曲を集めている。
 タイトル「Tu Gulî」とはクルド語で「あなたは薔薇(You are a Rose)」という意味。かつての女性達に敬意を表しながらも、時を超えて語り継がれてきたアナトリアの女性たちの物語を、彼女自身の世界観で表現している。これまでの彼女のキャリアで拓いてきた豊かな音楽性を美しい歌声で披露している。言葉はわからなくとも、物語にどっぷり浸れるような作品。

12位 Jembaa Groove · Ye Ankasa | We Ourselves

レーベル:Agogo [8]

 ベルリンを拠点に活動する7人組バンド、ジェンバー・グルーヴの2作目となる最新作。ベーシスト/作曲家のヤニック・ノルティングと、シンガー/パーカッショニストのエリック・オウスによって2020年後半に結成された多文化バンドで、ベルリンのアンダーグラウンド・ミュージック・シーンのフレッシュなサウンドと、ガーナやマリの西アフリカの伝統的なサウンドを融合させている。2022年リリースのデビュー作となる前作『Susuma』は国際的にも高評価を受けた。
 本作ではガーナの伝説的なマルチ・インストゥルメンタリストでプロデューサーで、クワシブ・エリア・バンド(Kwashibu Area Band)のクワメ・イエボア(Kwame Yeboah)をプロデューサー/共同制作に迎えた。また、イギリスのシェフィールドを拠点に活動するK.O.G.(Kweku of Ghana)、ガーナを代表する現役アフロ・ビート・マエストロのジェドゥ-ブレイ・アンボリー(Gyedu-Blay Ambolley)もゲスト参加。
 ハイライフが、ジャズやソウルをモダンに融合させ、とても洗練された作品に仕上がっている。アフリカとヨーロッパがうまくミックスされており、聴いていてとても心地よい作品。

↓国内盤あり〼。(LPもあり〼)

11位 Huun-Huur-Tu, Carmen Rizzo & Dhani Harrison · Dreamers in the Field

レーベル:Dark Horse / BMG [-]

 ロシア連邦トゥヴァ共和国の4人組ユニット、フンフルトゥの最新作。トゥヴァの伝統楽器と喉歌を演奏する、1992年結成のベテランミュージシャンたち。日本での公演実績もあり、様々なミュージシャン達とコラボし、世界に広くトゥヴァの音楽を広めている。
 本作では、グラミー賞に2度ノミネートされたプロデューサー/ミュージシャンのカルメン・リッツォと、ジョージ・ハリソンの長男でありシンガー・ソングライターとして活躍するダニ・ハリソンとコラボし、現代的なプロデュース、インストゥルメンテーションとの融合を試みている。
 フンフルトゥの喉歌も充分堪能できるが、それだけでなくカルメン、ダニが加わったことによって、世界中を旅した気分になる楽曲に仕上がっている。レコーディングはトゥヴァをはじめとし、LA、ヨーロッパ、ロンドンで行われ、まさに楽曲も世界を旅してきた。
 喉歌やトゥヴァの伝統楽器が現代的なサウンドと見事に融合し、魅力的な世界が広がっている。ゆったりと自然を感じられ、リフレッシュできる作品。

10位 Ana Lua Caiano · Vou Ficar Neste Quadrado

レーベル:Glitterbeat [9]

 1991年生まれ、ポルトガル・リスボンを拠点に活動する作曲家/歌手/マルチ楽器奏者のアナ・ルア・カイアーノのデビュー作。2022年にリリースされた2作のEPと、同年のWomexに出演したことで、ヨーロッパはもとより世界で高い注目を集めることになった。
 13歳までクラシックのピアノを習い、その後ジャズ音楽学校で4年間学んだ。15歳のときに作曲を始め、いくつかのバンドで作曲と歌を担当、シンセサイザーを演奏した作品へと繋がっていった。そして、パンデミックによるロックダウンにより、独りで音楽制作することになった。他のミュージシャンと一緒に演奏することができなかったため、自宅でエレクトロのテクスチャーやクラブ風のビートを試し始め、エレクトロニックとポルトガルの伝統音楽を融合させる楽曲を制作。伝統音楽はファドのことではなく、口頭で伝えられ田舎で歌われていた音のことだという。ボンボやブリンキーニョといった伝統楽器を使い「カンテ・アレンテジャーノ」と呼ばれるポルトガルの伝統音楽をベースしたオリジナルを作曲。そこにエレクトロニックの要素を加味し、静寂と激動、伝統と先進など相反する要素を取り込んだ、唯一無二なサウンドを作り出した。
 実験的でありながら、伝統的な要素も感じられる。彼女は「伝統音楽は、世界とともに進化していくものだと信じている」と言う。それが見事に表現された作品。今後も注目のアーティストが登場!

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き、LPもあり〼)

9位 Maria Mazzotta · Onde

レーベル:Zero Nove Nove [5]

 イタリア南部プーリア州出身のヴォーカリスト、マリア・マッツォッタの最新作。パーカッション/クリスティアーノ・デッラ・モニカ、ギター/エルネスト・ノビーリのトリオでの作品。ゲストに今月チャート5位のボンビーノもギターで、またニューヨーク在住ドイツ人ジャズ・トランぺッター、フォルカー・ゲーツェも参加している。
 2000年から2015年まで南イタリアの伝統的な民族音楽を探求するバンド、Canzoniere Grecanico Salentino のメンバーとして活躍、ソロになっても様々なプロジェクトで活動しボーカル・テクニックの知識を深めた。2020年にはソロ名義としてデビューアルバムとなる『Amoreamaro』をリリースし、国内外から高い評価を受けたアーティスト。
 本作のタイトルは「波」。波のような絶え間ない変化についてを本作で表現している。彼女のパワフルでダイナミックな歌声、しかし決してそれでだけではなく、感情と抑揚が込められたテクニックを大いに堪能できる。20年以上のキャリアに裏付けされる歌声は圧巻。シチリア出身の女性歌手ローザ・バリストレーリが歌ったことで知られる「Terra Can Nun Senti(愛なきふるさと)」も収録。今現在世界で起きている戦争や争いによって居場所を失った人々に捧げられているのが、とても胸に沁みいる。
 低音だけでなく高音の高らかな歌声もあり、色々なバリエーションを持つ歌手。そして彼女のイタリアの民族音楽の解釈がポストロックと見事に融合しているのがとても独創的で素晴らしい。彼女の歌声がストレートに響き、そして3人が共鳴しているさまに惹き込まれてしまう作品。

8位 Avalanche Kaito · Talitakum

レーベル:Glitterbeat [16]

 ベルギー・ブリュッセル在住のトリオ、アヴァランチ・カイトの2作目となる最新作。2022年リリースの前作となるデビュー作も本チャートにランクインし、世界のいくつもの著名なフェスティバルにも招聘され、国際的にも評価された。
 彼らは自身の音楽「グリオ・パンク・ノイズ」と呼んでいるが、本作でもそれは健在。一曲目から、不協和音を基調とした楽曲でスタート。ノイジーなのだが、嫌にならないのが彼らの音楽のとても不思議なところ。アフリカの民族楽器が使われ、繰り返される楽曲のせいなのか、本作も中毒性のある作品となっている。
 タイトル『Talitakum』(タリタクム)には、ヴォーカルの Kaito Winse の故郷ブルキナファソの言葉であるムーア語で「死者よ、蘇れ!」という意味が込められているそうだ。彼らの不協和音によって、先祖たちは静かに休んではいられないだろうが…。
 本作もまたハマっちゃう作品です。ご注意を。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり〼)

7位 Kiran Ahluwalia · Comfort Food

レーベル:Six Degrees [12]

 インド生まれでカナダ在住の女性ミュージシャン、キラン・アフルワリアの8作目となる最新作。現在はニューヨークとトロントを行き来しながら音楽活動をしている。カナダの音楽アワードである、JUNO賞を二度も受賞している実力派アーティスト。 子供の頃一家でカナダへ移住し、幼少の頃からインド音楽をはじめとした音楽を習得、大学卒業後には実際にインドにも行きあらゆるインド音楽の勉強を行った。デビュー後は世界中で公演し、これまでティナリウェンやジャスティン・アダムズなど多様なジャンルのミュージシャンたちとも共演、高く評価されている。
 彼女を支えるバンドは、エレキギター、アコーディオンやオルガン、タブラ、ベース、ドラムからなる6人編成。リーダーは、彼女の夫でもあるパキスタン系アメリカ人ギタリストのレズ・アバシ。毎年開催されるダウンビート国際批評家投票で常にトップ10に入る名ギタリストである。
 彼女の音楽は、インドの伝統的な歌唱法と、西洋のロックやジャズなどがミックスされた楽曲で、彼女の大陸を越えた生い立ちを反映している。本作でもそれが表現されており、聞いていてとても不思議な感覚。歌い方一つで聴こえ方がこんなに変わることに驚く。マサラミックス(スパイスみたい!)の音楽と言われるのも納得だ。
 ポップなワールドミュージックとなっているが、本作ではプロテストソングも歌われている。ヒンドゥー原理主義や民族ナショナリズムに抗議する力強い曲、インドでのニューデリーで行われた女性だけの平和的抗議活動で、警官が女性たちに暴力を振るったことに対して抗議している曲など、大陸を超えて活動してきた彼女の情熱やエネルギーが感じられる作品。

6位 Aziza Brahim · Mawja

レーベル:Glitterbeat [2]

 西サハラ出身で現在はスペイン・バルセロナ在住のSSW、アジザ・ブラヒムの最新作。EPも含めると本作が6作目のアルバムとなる。
 彼女の出身地である西サハラは未だ領土問題が解決しておらず「アフリカ最後の植民地」と言われているところ。アルジェリアと西サハラの国境近くの難民キャンプで生まれ育った彼女は、ラジオで世界から流れてくる音楽を聴きながら過ごした。10代でキューバに留学し、1990年代の深刻なキューバ経済危機を経験。1995年に19歳で難民キャンプに戻り音楽家としての道を歩み始め、2000年からはスペインで亡命生活を送っている。
 2019年リリースの前作『Sahari』は各方面で高評価を博した。このアルバムのリリースツアーを行おうとしたところでパンデミックとなりツアーは中止となった。そして、2020年にはモロッコ軍とサハラ・アラブ民主共和国との衝突が激化、停戦していた西サハラでの戦争が始まってしまう。悲しみに暮れていた彼女に追い討ちをかけるように、彼女の最愛の祖母が亡くなってしまい、悲しみは頂点を迎えてしまう。それを救ったのが音楽制作で、本作のきっかけとなった。悲しみや喪失感から徐々にインスピレーションが生まれていったそうだ。
 収録曲はアフリカの民族音楽や砂漠のブルースをベースにしているが、ロックやスペイン、キューバといった彼女が歩んできた要素もうまくミックスされ、彼女の生き様が表現されている。深い感情がこもった歌声は、今なお紛争が続いている故郷の人々へのメッセージが込められているように静かに胸に響く。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり)

5位 Asmaa Hamzaoui & Bnat Timbouktou · L’Bnat

レーベル:Ajabu! [18]

 モロッコの民族音楽グナワ音楽の女性として第一人者である若手ミュージシャン、アスマー・ハムザウィと彼女のバンドであるブナット・ティンブクトゥによる最新作。本作が2作目となる。
 モロッコ・カサブランカで音楽家の父とダンサーの母から1998年に生まれたアスマーは、幼い頃からゲンブリ(3弦のリュート)を習ったり、父親のバンドにも加わったりしてきた。グナワの儀式に女性は欠かせないが、グナワ・ミュージシャンとしての女性はほとんどおらず、ましてや女性だけのバンドはなかったそうだ。2012年に女性だけのメンバーでバンドを結成、2017年グナワ音楽のメッカであるエッサウィラで開催されたグナワ・フェスティバルに出演しブレイクした。以降世界のフェスにも出演、世界に新世代のグナワ音楽を紹介している。今年のWOMADにも出演予定で、期待されている存在。一方で、伝統を重んずる一部のグナワ伝統主義者に反対されてもいる。
 低音のゲンブリとリズミカルなカルカバ(鉄製のパーカッション)が催眠術のように続きググッと引き込まれる。「砂漠のブルース」とも言われるグナワ音楽特有の楽曲に、アスマーの表現力豊かなリードヴォーカルと、メンバーのコーラスが加わりじっくりと陶酔できる作品。グナワ音楽の不思議な感じが体感できる内容だ。伝統を存続させたいと願う彼女たちの熱い思いが伝わってくる。このまま活動を続けて欲しいと願うばかりだ。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり)

4位 Aynur · Rabe

レーベル:Dreyer Gaido [1]

 クルド出身のトルコ人歌手/作曲家/楽器奏者アイヌールの8作目となる最新作。20年以上にわたる彼女のキャリアの集大成とも言える作品で、ドイツとスペインで20人近いミュージシャンの協力を得てレコーディングされた。その面々は、スナーキー・パピーのマイケル・リーグ(エレクトリック・ギター)、中国出身の有名なピパの名手ウー・マンなど、注目すべきゲストも参加している。
 愛や精神性、自由といったテーマを探求し制作された本作は、クルド音楽における卓越した声としての地位を再確認し、21世紀のクルド芸術の真髄を体現した。クルドの伝統的な要素と現代的な西洋の楽器や、クラシックやジャズなどのジャンルをミックス、東洋的な楽器も加わり文化的な融合を実践している。クルドの伝統音楽はもちろん、アップテンポなダンス音楽もあり、瞑想的な楽曲や、即興演奏もあり、それを優雅に美しくミックスし、多彩なサウンドが現代的に展開されている。

3位 Sam Lee · Songdreaming

レーベル:Cooking Vinyl [3]

 「サム・リー&フレンズ」で来日したこともある、イギリスのフォークミュージシャンで民俗学者のサム・リーの最新作がいきなり3位に登場!2012年にデビュー、本作が4作目となる。昨年、一年かけてレコーディングされ、プロデューサーのバーナード・バトラー(Bernard Butler)、長年のコラボレーターでありアレンジャー/作曲家のジェイムズ・キー(James Keay)とともに本作を作り上げた。
 コントラバスやパーカッション、ヴァイオリンをベースに使っているが、アラビアのカヌーン、スウェーデンのニッケルハルパ、スモール・パイプなど、様々な楽器を取り入れている。また、ロンドンを拠点に活動するトランスジェンダーの合唱団、トランス・ヴォイセズ(Trans Voices)とフィーチャーした先行シングルも一曲目に収録されており、コーラスを交えた壮大な楽曲からスタートする。
 彼はこのアルバムを、「屋外で過ごした時間に感じた感情のモザイクであり、私が目撃し、責任を感じているすべての複雑さを語り、表現することを許された内省的な瞬間に、芸術的に浮かび上がるものだ」と評している。
 英国諸島の自然に直接関連し、その存在そのものを織り込んだ曲を歌うことで、サムは歌を通して土地と交わる伝統を再発明し、同時代化し続けている。まさに大地、自然を感じられ、何より彼の声が癒される。サムの新たな境地が見出された作品だ。

2位 Ali Doğan Gönültaş · Keyeyî

レーベル:Mapamundi Música [6]

 イスタンブール出身のトルコ系クルド人バンド Ze Tijê のリードヴォーカル Ali Doğan Gönültaş のソロ二作目となる最新作。前作『Kiğı』は2022年リリースで、本チャートにも5ヶ月間ランクインしていた。
 クルドの弦楽器タンブールと、彼の歌だけでとてもシンプルな音。しかし、幻想的な彼の歌声と、魅惑的なタンブールの深い音色が絶妙に織り成されている。クルドの歴史や文化、そして個人的な経験を反映した歌で、ザザキ語やトルコ語などで歌われおり、豊かで魅惑的な作品。
 アルバムタイトル『Keyeyî』とは、彼の母国語であるザザキ語で「家」を意味する。自身の故郷を思い出し、実家で過ごした時間や、そこで得た喜びや悲しみなど様々な思いを表現したアルバム。
 彼の民族の物語に不可欠な音楽的遺産を受け継いでおり、豊かで魅惑的な音楽の物語を形成している。シンプルだからこそ刺さってくる作品。

1位 Bab L’ Bluz · Swaken

レーベル:Real World [-]

 2018年モロッコ・マラケシュでモロッコ/フランスの混成メンバーにより結成されたバンド、Bab L' Bluzの最新作。本作が2作目となる。2020年にリリースされた、デビューアルバム『Nayda』は、仏ル・モンド紙や、ニューヨーク・タイムズから称賛を受け、2021年のソングラインズ賞のフュージョン部門を獲得し、世界的にも高い評価を得た。
 モロッコのグナワ音楽など、アフリカ北部マグレブのトランス的で推進力のあるリズムに根ざしており、サイケデリック、ブルース、ロック、ヘビメタにまで通じ、アクセル全開で楽曲が展開していく。MVではモロッコの弦楽器ゲンブリを弾いており、ゲンブリを現代の国際音楽シーンに広めるという夢を持つバンド。ぶっ飛びっぷりがとても気持ち良い!いきなり1位で登場するのも納得するほどのエネルギー溢れる作品。
 自分自身を見失うことで自分自身を見つけるというのが、本作の中心的な信条だそうだ。温かみのあるアナログ・サウンドは、ジミ・ヘンドリックス、レッド・ツェッペリンなど70年代のロック・アイコンに、アフリカのトランスの美学をミックスさせており、神聖な霊の憑依を目的としたモロッコの儀式の影響を感じさせる。これらの融合したサウンドに説得力さえも感じられる。
 フロントウーマンであるモロッコ出身のヴォーカル、ユスラ・マンスールの歌声が素晴らしい。シンプルな歌声ではなく複数音が混ざっているかのような歌声で、多様なメロディを歌いこなす技術に圧巻。そして、激しいリズムで強さを、ゆったりした楽曲では彼女の優しさも感じられる。聴いていて、頭がスッキリ覚醒し、だんだんとハマってしまう作品。堪らない!


(ラティーナ2024年6月)



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