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Festival & Mundial Tango BA 2022タンゴダンス世界選手権とその周辺の話題〜レポートその2

文●本田 健治 texto por Kenji Honda

結果速報
ステージ準決勝結果
ピスタ準決勝結果
ステージ予選結果
ピスタ予選結果

 タンゴBA 2022の選手権が、準決勝にまで進んで,俄然タンゴ・ファンの目が集まり始めている。13日、大会本部から、GALAへの正式な招待状が届いた。この日は、世界各国、地方、アルゼンチンの地方予選の勝者たちや主催関係者を集めた特別な発表会&カクテル・パーティ(GALA)が開かれた。基本的には世界から集まってくれた各地チャンピオンたちへの敬意を表して開くものだ。

 アジア選手権や、韓国、バリ大会のチャンピオンたちや、アルゼンチンの地方大会の勝者たちへの、事前のオーディトリウムでの簡単なダンス披露のためのレッスン、振り付けがあって、夕方18時からそれぞれ20秒前後の小さな発表ダンスがあり、今までの「1曲をチャンピオンたちが分け合って、少しずつ分ける方法」から、今回は「自分たちの選んだ優勝曲のクライマックスを25秒くらいにまとめて、全員分を繋いで発表する」ことになった。

 で,関係者は17:00集合というので出かけてみると、オーディトリウムにはもうすでに長蛇の列。市民にはすべてのイベントを無料となっているが、どのイベントも席数に限りがある。この争奪戦も半端じゃない。
 18:00になって、予定通りまず、今日のガラ・コンサートを支えるファビアン・ベルテロ楽団の演奏。

ファビアン・ベルテロの楽団

 弦を中心としたタンゴ楽団だが、この日はバンドネオンも3本加えた編成で、ゲスト歌手には、ラウル・ガレーロの最後の歌手だったラウタロを迎えて演奏を披露。優雅な弦のサウンドを聴かせる楽団なのだが、どうにも当時の音の厚みがなくて包まれない。誰がこのサウンドを指示したのか、どこか勘違いしている感じもあったが、少しづつ調子も出てきた。続いて、ピスタ部門のチャンピオンたちが一カップルずつ紹介され、それぞれが20秒程度の得意技を披露してつないでいく。アジア・チャンピオンのロンドン&ソランへがトップバッターで登場して魅力を振りまき、ステージ部門ではそれぞれがクライマックスの技を披露して、会場は熱く盛り上がった。

ピスタ・アジア・チャンピオンのロンドン&ソランヘ
ステージ・アジア・チャンピオンのエセキエル&ユカ
世界、国内のチャンピオンたち

 小コンサートが終わると、今度は上の3階に移動して世界中のチャンピオンや関係者たちが一堂に会して懇談。アジア選手権は最も古い予選大会だから、知っている関係者も数多いし、過去のこのMundialに関わったスタッフも参加者もたくさん来ていて、楽しい時間を過ごした。やがて、場内がざわつく。オラシオ・ラレータ市長だ。世界選手権として始めたのは、実は今の国の政権を担う政党のイバラ市長だったが、彼が大火災事故で弾劾され、後の大統領マクリが市長になってから、このタンゴ選手権だけはやめるどころかこのラレータ市長に至るまで、一段とグレードアップして現在に至っている。普通は、ブエノスアイレスの市長がやがて大統領候補になる。が、今は、アメリカで実績をつくったばかりのマッサというスーパー経済大臣(3つの省の権力を一つにしてこう呼ばれている)も含め数人の争いとなり、来年の選挙はまだまだ予断を許さない。だから、この人気のタンゴ・イベントに顔見せするのは、最重要というわけだ。

 市内でのタンゴの盛り上がりもどんどん熱くなってきた。そして、翌日はアジア選手権のチャンピオンの副賞の一つ、タンゴ・ハウスのへのステージ・チャンピオンの出演だ。サンテルモで2つ建物を独占し、4つのショーを毎晩続けている、元々は「ラ・ベンターナ」のオーナー、ルイス・マチが、最近隣で10年以上も閉店していた「ミケランジェロ」の権利も買い大改造、劇場風の作りに改築し、元の「ラ・ベンターナと合わせて4つのショーを同時進行させることにしたもの。そして、この4つのショーのブッキングをしているのが、以前アジア選手権でも審査委員長をやってもらったヘスス・ベラスケス。彼は非常にオーソドックスなタンゴを踊り、今回のフェスティバル&ムンディアルの芸術監督、ナターチャとカップルを組んでいた実力者。今回のアジア選手権のチャンピオンをミケランジェロに出演させるというアイデアは彼から生まれた企画だった。
 昔からこのミケランジェロではタンゴの公演が多かったものの、スペインのジョアン・マアヌエル・セラート、ブラジルのマリア・クレウザ、アルゼンチン陣ながら、メキシコからUSAでも大成功したマリア・マルタ・セラ・リマなど、タンゴ以外の国内外アーティストたちが好んでここで演奏したので有名だ。ピアソラも「ミケランジェロ70」という曲を捧げているように、まだまだ国際的に名を知られていない時代からここで実験的にいろいろなスタイルの演奏をしてきたし、ロベルト・ゴジェネチェ、スサーナ・リナルディもこの店の狭いステージを愛してきた。
 新しくなったミケランジェロは本当に素晴らしい劇場に改装されていた。昔は倉庫だったから天井の高さに限界はあるが、ステージの向きを90度横にして、幅広いステージを作り出した。歌手は往年の大スター、ネストル・ファビアン。前日はラウル・ラビエが歌ったらしい。演奏は、基本的にニコラス・レデスマ、オラシオ・ロモ、パブロ・アグリ等を中心としたセステートあるいはセステート・マジョールが基本だ。

アジア・ステージチャンピオン、エセキエル&ユカ
往年の大人気歌手、ネストル・ファビアン
抜群の歌唱力を誇るレデスマ夫人マリア

 アジアのステージ部門のチャンピオン、エセキエル&ユカも、当初は「ラ・ベンターナ」への出演で検討されていたが、オープンが間に合ったために、「ミケランジェル」でのダンスとなった。素晴らしいアレンジャーでもあるニコラス・レデスマのピアノだから、本当は録音で踊るはずが、セステートでの実演でのダンスとなった。プロのダンサーも夢見る舞台で、最初から最後まで、とてもこんな大舞台での初仕事は思えないほどの生き生きとしたダンスを披露して喝采を浴びた。その後、オーナーの好意で併設しているバー「ダンテ」で遅くまで話したが、ユカ女史もすっかりブエノスアイレスにはまったようで「真剣にブエノスに住んで勉強したい」と言っていた。まだコロナが開けてまもなくで試運転の状態だが、9月後半からは本格的にプログラムも充実するようだ。新ミケランジェロ、大いに期待したい。

 グローリア&エドゥアルドのエドゥアルドにも会った。グローリア亡き後、とにかく落ち込みが酷いと聞いていたので、前2回の訪問では電話もしなかったが、今回電話すると、喜んで会ってくれた。今は息子と一緒に住んでいるが、息子は仕事でほとんど家にいないし、グローリアがいないから、ご飯も自分で買ってきて食べる気楽な生活、と思ったよりはずいぶん回復していた。ただ、数年前にやった脳梗塞の影響で右手が完全に自由ではないが、今でもグローリアが教えていた生徒たちに、ダンスの基本を教え続けていると話してくれた。エドゥアルドは、アルゼンチンでもTVがようやく普及し始めた時代から毎日TV番組でタンゴを披露したり、海外公演でもヨーロッパからアメリカまで誰よりもたくさんの舞台で活躍してきた、本当の意味でタンゴを国際化を成し遂げた張本人だ。しかも、この選手権の誕生時、タンゴ・ピスタ部門(前のサロン部門)のあのおとなしめのルールには最初から反対で、当時の一派とかなりやり合ったのを知っている。今や、エドゥアルドの言うとおりの、動きのより自由なミロンゲーロ・スタイルの復活を心から喜んでいた。グローリアと一緒にいくつものショーを作ってきた思い出話に花を咲かせて帰ってきた。

 選手権の合間を縫って、楽団の演奏も聴いて回ったが、コロナが終わってタンゴの活動が本当に動き出したのを実感してきた。若者の街、パレルモ・ソーホーのレストランで「クアルテート・デル・アンヘル」が演奏していると聞いて電話したら、この日の仕事前に少し聴かせてくれることになった。パブロ・エスティガリビアも出演している高級レストランで、オーナーの趣味が素晴らしい。以前から噂は聞いてはいたが、やはりYoutubeではわからない。メンバーも替わって、ものすごいクアルテートだと確信。今後に大いに期待したい。

 さて、準決勝の合間に、CCKの前の広場では、木曜夜の野外ミロンガが開かれていて、「ラ・フアン・ダリエンソ」が出演するということで行ってきたが、ものすごい数の観客が集まっていた。2年間も来日が延期になっていたが、来春は必ず実現するはず。さらに力強くなったダリエンソ・サウンドがそこにあった。

 さて、Mundialの方は、ステージ部門の準決勝が行われたが、今までの数倍レベルが上がって、アジア勢は大苦戦だった。アジアの期待を一身にあつめたナナ&カイトだが、少し体調を崩していたらしい。本当に残念ながら、決勝進出に至らなかった。バリのチャンピオンできていた青木麻衣子&エマヌエル組も通らず。後は決勝シードのピスタ部門アジア・チャンピオン、韓国のロンドン&ソランヘと、ステージのチャンピオン、エセキエル&ユカに期待するしかない。

 今日、ブエノスアイレス市のスタッフたちと打ち合わせ。いろいろな懸案を話した後に、来年がこの世界選手権の20周年なので、是非アジア選手権も力を入れて頑張ってほしい、と激励された。

(ラティーナ2022年9月)

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