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[2023.2] 【映画評】 『対峙』『小さき麦の花』『少女は卒業しない』 ⎯⎯ アカデミー賞の話題に埋もれがちな秀作3本を紹介!

『対峙』『小さき麦の花』『少女は卒業しない』

   アカデミー賞の話題に埋もれがちな秀作3本を紹介!

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文●あくつ 滋夫しげお(映画・音楽ライター)

 毎年2月、3月には、アカデミー賞の発表(今年は日本時間3月13日)に合わせた多くの話題作が公開される。今年も作品賞にノミネートされたスピルバーグ監督作『フェイブルズ』やリューベン・オストルンド監督作『逆転のトライアングル』、そして本命と目されるダニエルズ(同じ名前の二人による)監督作『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』などの新作がこの時期に公開を控えているが、そんな話題作に紛れて見落とされがちな秀作も、やはり同じ時期に公開される。本稿ではそんな中から2月公開の、派手さはないが心を揺さぶる傑作3本を紹介しよう。

『対峙』
2023年2月10日(金) tohoシネマズシャンテほか全国公開
© 2020 7 eccles street llc

 まず実際の事件をきっかけに制作された10日公開の『対峙』だ。本作に関して言えば、本当は予備知識を一切入れず何の偏見もなく素直な気持ちで、劇場のスクリーンに一人で正に “対峙” して欲しいが、作品紹介のためにはそうもいかない。なるべく最低限の内容説明として、チラシ等に書かれた「高校銃乱射事件で共に息子を失った家族。被害者両親と加害者両親の対話」とだけ記しておこう。「息子を失った」という点では同じ立場でありながら、互いの息子が被害者と加害者の真逆の立場という、アンビバレントな関係性を持った二組の両親が、初めて対面して会話をするというだけの、極めてシンプルな作品だ。しかしそこにはシンプルだからこその、強さと深さがあるのだ。

 本作には最初から最後までナレーションや文字による説明は一切無く、四人が一堂に会してからは一つの部屋で交わされる会話だけがリアルタイムで描写される。観る者は、この中年と初老の男女四人は誰なのか?どんな関係なのか?何のために集まったのか?何も分からない状態から、会話の端々にヒントを得て少しずつある事件の状況を把握し、その時何が起こったかを衝撃を持って理解してゆく。さらに回想シーンも無く、場面が途切れることも転換することも(そしてスコアも)無いので、俳優陣の圧倒的な佇まいと相俟って、まるで舞台作品を生で観ているかのような臨場感と異様な緊迫感が持続するスリリングな会話劇だ。

『対峙』
2023年2月10日(金) tohoシネマズシャンテほか全国公開
© 2020 7 eccles street llc

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