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[2023.3]【アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い㊱】ジョビンが長く追い求めた、鳥の姿をした精霊 - Matita Perê

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

中村安志氏の大好評連載「アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い」は相変わらず評判のまま続いておりますが、いよいよ終盤にさしかかってまいりました。今月は、ジョビンが「ボサノヴァのジョビン」から新しい世界を求めた時期の作品です。でも、趣は違えど私たちを素晴らしい世界に誘ってくれている名曲であることに変わりはありません。

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編集部


 1973年。それまで、米国などで大きな成功を収めつつ、大手レコード会社のレーベルで作品を世に出してきたジョビンが、初めて自費制作を試みたアルバムがリリースされました。ニューヨークのスタジオで独自録音された、Matita Perê(マチータ・ペレー)です。

 60年代初期までのボサノヴァ・ブームの流れの中では、恋心などをわかりやすい言葉で表現した歌が多く見られたジョビン。しかし、このアルバムでは、打って変わった作風の曲が、複数収録されています。

⬆晩年となる93年12月に放映されたテレビ番組で、様々な思い出を語るジョビン。リオのチジュッカの森など、自然の中で過ごしたことなどについても、随所で述べている。

 このアルバムの中には、一歩早い1972年にシングル版で発表され、その後エリス・レジーナとジョビンの共演や、ジョアン・ジルベルトの絶妙な弾き語りなどで世界的にヒットした名曲「三月の水(Águas de março)」も収められています。その一方で、アルバムのタイトルともなったMatita Perêという曲については、ジョビンに傾倒するボサノヴァ・ファンの間でも、あまり語られないようです。どうしてでしょうか。

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