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シコ・ブアルキの作品との出会い|文と訳詞●中村 安志

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e-magazine Latina の人気連載「シコ・ブアルキの作品との出会い」をまとめました。
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#ワールド・ミュージック

[2022.10]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉞】ブラジルを代表する料理を囲んで — Feijoada completa

[2022.10]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉞】ブラジルを代表する料理を囲んで — Feijoada completa

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 ブラジルに馴染みのある方が必ず思い浮かべる代表的料理といえば、豚の臓物や干し肉などと黒豆をじっくり煮込んだフェイジョアーダ (feijoada)でしょう。ホームパーティーに招かれた土曜の昼下がり、皆で食べ始めたはいいものの、美味さにつられてすっかり重くなったお腹を抱え、ハンモックで昼寝させてもらい

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[2022.9] 【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉝】希望が見え始めた時代  - 《Fantasia》

[2022.9] 【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉝】希望が見え始めた時代 - 《Fantasia》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 権力を批判する歌を多く書いたことで知られるシコ・ブアルキですが、彼が、厳しかった抑圧時代の辛さとその先に見え始めた希望を、権力との対抗を直接示さない形で表現した、「Fantasia(幻想)」という、少し角度の異なる作品があります。この歌は、1979年に上演された男性4人組コーラスのMPB-4のライ

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【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉙】3度目の正直で居着いた人 — 《Teresinha》

【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉙】3度目の正直で居着いた人 — 《Teresinha》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 シコ・ブアルキというシンガーソングライターは、様々な形で権力と対決する音楽を編み出してきた一方で、慎ましく生きる人々の生き様や、それぞれの思いなどに焦点を当てた歌も数多く、時代背景を抜きにしても、真っ直ぐに人々の心を打つ作品がいくつもあります。この連載の第6回目でご紹介した、石切りで働き慎ましく生

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[2022.6]【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い㉖】価値が減じたお札を皮肉った歌- 《Tamandaré》

[2022.6]【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い㉖】価値が減じたお札を皮肉った歌- 《Tamandaré》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 軍政による言論抑圧に対抗するシンガー・ソングライターというイメージの一方で、シコ・ブアルキが初めて発禁を命じられた作品が批判の対象としたのは、政治ではなく、巷の経済問題でした。これは、シコの芸歴をかなり知るファンにとっても、意外なことかもしれません。

 中南米に馴染みある方々の間では、様々な時期

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[2022.5]【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い㉔】女性を力強く代弁した歌 — 《Sob medida》

[2022.5]【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い㉔】女性を力強く代弁した歌 — 《Sob medida》

文と訳詞●中村 安志  texto & tradução por Yasushi Nakamura

 70年代、各国社会において女性が不利な立場に置かれることが多かった中、ブラジルでは男性のシコが女性に成り代わり、一人称で歌う形式の歌をいくつも創作してきたこと。この連載の初期において、そうした例をいくつかご紹介しました。

 今回は、女性が遠慮がちに語るかもしれないと想定される場面で、自身の存在

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[2022.4] 【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い㉓】ならず者たちと、失われた彼らの美学に光を当てた歌 - 《Homenagem ao malandro》

[2022.4] 【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い㉓】ならず者たちと、失われた彼らの美学に光を当てた歌 - 《Homenagem ao malandro》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 ブラジルの日常において、特に親しい者どうしの会話では、マランドロ(malandro)という存在がよく口にされます。気軽な例でいえば、仲間の誰かが次々と女性に迫りよくモテるプレーボーイであるのを指し、「あいつはマランドロ(=ワル)だ」と称したりしますし、普通には解決しにくい問題を巧みに(時にずるい方

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[2022.3]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉒】大西洋の向こうの国の革命に送った祝福の歌 - 《Tanto mar》

[2022.3]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉒】大西洋の向こうの国の革命に送った祝福の歌 - 《Tanto mar》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 1978年のシコのアルバム『Chico Buarque』において目立つのは、この連載の第1回目にご紹介した「Cálice」(ワイングラスとも聞こえるし、「黙れ」と命令されているようにも聞こえる歌)や、誰に向かってであるかは曖昧にした格好で、「あなたがどうであろうと違う日が来る」と説く「Apesar

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[2022.2]【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い⑲】誰も放っておかない若き美女を憂う子守唄 — Noiva da cidade

[2022.2]【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い⑲】誰も放っておかない若き美女を憂う子守唄 — Noiva da cidade

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 今回は、1978年にアレックス・ヴィアニ監督が制作した映画『Noiva da cidade(街の花嫁)』の主題歌として委嘱され、シコ・ブアルキがピアニストのフランシス・ハイミと共同で作詞・作曲した作品「Noiva da cidade(都会の花嫁)」をご紹介します。1976年のアルバム『Meus c

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[2022.2]【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い⑱】愛着を込め描くリオのストリートチルドレン —《Pivete》

[2022.2]【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い⑱】愛着を込め描くリオのストリートチルドレン —《Pivete》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura 

 美しい風景が、随所に広がるリオ。しかし、治安が極めて優れた日本に住み慣れた者が、この街でうっかり風景に見惚れていると、ひったくりなどに遭う危険を相当伴う……というのも厳しい事実です。
 例えば、有名なコパカバーナ海岸。タクシーを降りた歩道から波打ち際までは、数十mの距離が空いています。観光客が不

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