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シコ・ブアルキの作品との出会い|文と訳詞●中村 安志

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e-magazine Latina の人気連載「シコ・ブアルキの作品との出会い」をまとめました。
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#ラティーナ

[2023.3]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㊴】 私が感じる全て — Todo o sentimento

[2023.3]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㊴】 私が感じる全て — Todo o sentimento

文と訳詞●中村 安志  texto por Yasushi Nakamura

 1987年、シコ・ブアルキは、自身のファーストネームを冠したアルバムFranciscoを制作した際、多くの曲で、粋なベテラン・ピアニスト、クリストヴァン・バストスの参加を得ました。このクリストヴァンと一緒に作った中でも、特に名作となっている「Todo o sentimento」は、シコの作品の中でも出色の美しいメロデ

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[2023.1]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㊳】厳しい戦いの歌のB面で美しく響く — Desalento

[2023.1]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㊳】厳しい戦いの歌のB面で美しく響く — Desalento

文と訳詞●中村 安志 texto por Yasushi Nakamura

 この連載の27回目で、シコ・ブアルキが、弾圧を逃れ生活していたローマから帰国してすぐに、真正面から体制を批判してみせたApesar de vocêという、とても重い内容の作品を紹介しました。

 シコの長い活動の中でも、最も厳しい圧力を受けていた頃の作品と位置付けられる作品で、祖国の状況が改善していると思って戻ったとい

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[2022.12]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㊲】規制されたが、体制批判が理由ではなかった歌 — Partido alto

[2022.12]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㊲】規制されたが、体制批判が理由ではなかった歌 — Partido alto

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 シコ・ブアルキは、軍政を批判する作品の数々を当局から規制されましたが、中には、政治批判を狙った曲であったにもかかわらず、異なる理由で禁止を言い渡されたこともあったようです。今回は、そのような例として、シコが1972年に出したPartido altoという曲をご紹介します。

 60~70年代に急速

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[2022.11]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉟】 上からでも下からでも読める歌詞 — Corrente

[2022.11]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉟】 上からでも下からでも読める歌詞 — Corrente

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 シコ・ブアルキは、ポルトガル語の歌詞を、実に巧妙に操ります。多くの作品において、誰かを批判した内容であるのに、そう見えない歌詞になっていたり、文脈や着眼点次第で二重三重にも異なる意味を感じ取ることができる複雑な作品があったりと、卓越した技を見せてきたことについて、この連載で何度かご紹介してきました

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[2022.10]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉞】ブラジルを代表する料理を囲んで — Feijoada completa

[2022.10]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉞】ブラジルを代表する料理を囲んで — Feijoada completa

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 ブラジルに馴染みのある方が必ず思い浮かべる代表的料理といえば、豚の臓物や干し肉などと黒豆をじっくり煮込んだフェイジョアーダ (feijoada)でしょう。ホームパーティーに招かれた土曜の昼下がり、皆で食べ始めたはいいものの、美味さにつられてすっかり重くなったお腹を抱え、ハンモックで昼寝させてもらい

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[2022.9] 【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉝】希望が見え始めた時代  - 《Fantasia》

[2022.9] 【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉝】希望が見え始めた時代 - 《Fantasia》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 権力を批判する歌を多く書いたことで知られるシコ・ブアルキですが、彼が、厳しかった抑圧時代の辛さとその先に見え始めた希望を、権力との対抗を直接示さない形で表現した、「Fantasia(幻想)」という、少し角度の異なる作品があります。この歌は、1979年に上演された男性4人組コーラスのMPB-4のライ

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[2022.8] 【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い㉜】お家芸サッカーの名選手に捧ぐ - 《O futebol》

[2022.8] 【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い㉜】お家芸サッカーの名選手に捧ぐ - 《O futebol》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 今回は、サッカーを題材に作られた、シコの楽しい歌、「O futebol(1989年作)」をご紹介します。

 ブラジルといえば、世界に誇る数々の天才プレイヤーを生み出し、ワールドカップでも通算5度の優勝を果たしたサッカーは、伝統あるお家芸。そんなこの国では、ポップソングの歌詞にも、古くからサッカー

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[2022.8] 【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉛】 無念にも先立っていった人への慕情 -  《Pedaço de mim》(私のひとかけら)

[2022.8] 【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉛】 無念にも先立っていった人への慕情 - 《Pedaço de mim》(私のひとかけら)

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 シコが作った演劇『ならず者のオペラ(Ópera de malandro)』の中で歌われる1曲に、とても物悲しい歌があります。息子が軍政時代に罪もなく捕えられ、帰らぬ人となった、ズズ・アンジェルという実在の女性のことを思い書いた「Angelica」という作品(この連載の27回目の中で、ご紹介しました

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【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉙】3度目の正直で居着いた人 — 《Teresinha》

【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉙】3度目の正直で居着いた人 — 《Teresinha》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 シコ・ブアルキというシンガーソングライターは、様々な形で権力と対決する音楽を編み出してきた一方で、慎ましく生きる人々の生き様や、それぞれの思いなどに焦点を当てた歌も数多く、時代背景を抜きにしても、真っ直ぐに人々の心を打つ作品がいくつもあります。この連載の第6回目でご紹介した、石切りで働き慎ましく生

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[2022.6]【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い㉖】価値が減じたお札を皮肉った歌- 《Tamandaré》

[2022.6]【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い㉖】価値が減じたお札を皮肉った歌- 《Tamandaré》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 軍政による言論抑圧に対抗するシンガー・ソングライターというイメージの一方で、シコ・ブアルキが初めて発禁を命じられた作品が批判の対象としたのは、政治ではなく、巷の経済問題でした。これは、シコの芸歴をかなり知るファンにとっても、意外なことかもしれません。

 中南米に馴染みある方々の間では、様々な時期

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[2022.5]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉕】カーニヴァルでの苦々しい再会 — 《Quem te viu, quem te vê》

[2022.5]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉕】カーニヴァルでの苦々しい再会 — 《Quem te viu, quem te vê》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 ブラジルにおいて、カーニヴァルは、多くの市民の節目となる年中行事。日本の夏祭りの夜の幻想が、それまでの暮らしの回想や、その先の夢をもたらすことがあるように、ブラジルの人々にとって、日々暮らすコミュニティでの生活や人間関係の変化、夢に描いていることが更に膨らんだり消えてしまったり。お祭りとは、そんな

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[2022.5]【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い㉔】女性を力強く代弁した歌 — 《Sob medida》

[2022.5]【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い㉔】女性を力強く代弁した歌 — 《Sob medida》

文と訳詞●中村 安志  texto & tradução por Yasushi Nakamura

 70年代、各国社会において女性が不利な立場に置かれることが多かった中、ブラジルでは男性のシコが女性に成り代わり、一人称で歌う形式の歌をいくつも創作してきたこと。この連載の初期において、そうした例をいくつかご紹介しました。

 今回は、女性が遠慮がちに語るかもしれないと想定される場面で、自身の存在

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[2022.4] 【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い㉓】ならず者たちと、失われた彼らの美学に光を当てた歌 - 《Homenagem ao malandro》

[2022.4] 【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い㉓】ならず者たちと、失われた彼らの美学に光を当てた歌 - 《Homenagem ao malandro》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 ブラジルの日常において、特に親しい者どうしの会話では、マランドロ(malandro)という存在がよく口にされます。気軽な例でいえば、仲間の誰かが次々と女性に迫りよくモテるプレーボーイであるのを指し、「あいつはマランドロ(=ワル)だ」と称したりしますし、普通には解決しにくい問題を巧みに(時にずるい方

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