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Web版 2023年4月

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2023年4月に新規にアップした記事のみが収められているマガジンです。こちらでアーカイブ記事は読めませんので、アーカイブ記事も購読するには定期購読マガジンの「ラティーナ」(月額9… もっと読む
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記事一覧

[2023.4]【境界線上の蟻(アリ)~Seeking The New Frontiers~7】 アルージ・アフタブ(Arooj Aftab / パキスタン)

文●吉本秀純 Hidesumi Yoshimoto  インドやパキスタンといった南アジアの国々にルーツを持つ移民/ディアスポラのミュージシャンといえば、やはりバングラ・ビートや〝UKエイジアン系〟と称された音楽が隆盛してきたイギリスがとりわけ盛んなイメージが強い。その一方で、近年の米国においては、スティーヴ・コールマンの周辺から頭角を現わし、ラッパーのマイク・ラッドとの共演作やECMにおける諸作によって現代ジャズの先端を示し続けるピアニストのヴィジェイ・アイヤーや、ラヴィ・

[2023.4]KaZZma Canta GARDEL

文●吉村 俊司 Texto por Shunji Yoshimura 現在日本で最も活躍している男性タンゴ歌手のひとりであるKaZZma。様々なアーティストと共演して多くの公演をこなしており、最近では2021年のタンゴ・ケリード公演、2023年の小松亮太公演の二つの『ブエノスアイレスのマリア』に出演して強い印象を残した。その彼が最新アルバムで取り上げたのは歌のタンゴの王道、カルロス・ガルデルの作品。伴奏は福井浩気(ギター)と清水悠(ギタロン)のDuo Criolloである。

[2023.4]【島々百景 第82回】 船浮 西表島 沖縄県

●文と写真:宮沢和史  コロナで丸々4年間も開催することができなかった沖縄県西表島船浮集落の “船浮音祭り” に4月15日に出演した。実は昨年2022年の音祭りの発案者であり、主催者であり、プロデューサーでもある船浮出身のシンガーソングライター池田卓君に声をかけてもらっていたのだが、新型コロナ感染者数が急激に増加した波に飲まれ、残念ながら開催は叶わなかった…。文字通り満を持して行われた4月15日当日は朝からシトシトと雨が降り始め、最後まで上がることはなかったが公称600人集

[2023.4]【アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い㊲(最終回)】たった1つの音だけで作ったサンバ - Samba de uma nota só

文と訳詞●中村 安志 texto e Tradução : Yasushi Nakamura  50年代、ジョビンが幼馴染みでもあるニュートン・メンドンサと生み出した作品の中で、例えば、この連載の第8回目でご紹介したDesafinado(音外れ)は、別格の傑作でしょう。  「自分は音が外れていると言われるが、そう指摘するあなたこそ、おかしいのではないか、これこそ新しい響き、ボサノヴァなのだ」と、新時代の幕開けを宣言するかのような台詞だけでも粋ですが、そもそもこの歌詞で語ら

[2023.4]【連載タンゴ界隈そぞろ歩き ②】 春に聴くタンゴ~AI にも聞いてみた

文●吉村 俊司 Texto por Shunji Yoshimura 今年の桜はずいぶん早い。これが公開される頃にはソメイヨシノの開花もずいぶん北上して、青森あたりか北海道か。東京は八重桜が盛りを迎えているだろうか。そんな春爛漫のこの季節、今回のそぞろ歩きのお題も「春に聴くタンゴ」にしてみた (南半球のブエノスアイレスは今は秋だが、我々が体感している季節の方を選んだ)。 とはいえ実のところ、そんなお題を立てても私自身の持ち合わせている知識だけでは大したものは出て来ない。普段

[2023.4]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2023年4月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。 20位 Debashish Bhattacharya · The Sound of the Soulレーベル:Abstract Logix [14] 19位 Jiraan · Sirtoレーベル:Zeph

[2023.4]【中原仁の「勝手にライナーノーツ」㉝】Lucas Santtana 『O Paraíso』

文:中原 仁  間もなく初来日し、京都で開催されるミュージック・フェスティヴァル「KYOTOPHONIE」に出演、4月15日にCLUB METROで、23日に金剛能楽堂でライヴを行なうシンガー・ソングライター、ルーカス・サンタナ。フランスのレーベル、Nø Førmat!からCDとLPでリリースした最新作『O Paraíso(オ・パライーゾ)』を紹介する。  ルーカス・サンタナは1970年10月18日、バイーア州サルヴァドール生まれ。父ホベルト・サンタナはトン・ゼーの従兄弟

[2023.4]追悼 : 坂本龍一が去った世界

文●宮沢 和史 texto por Kazufumi Miyazawa  何から書き始めていいか分からない。坂本さんの音楽への思いや、坂本さんとのいくつかの思い出を語れば、与えられた文字数でこの原稿を埋めることはできるだろう。だが、そんなものはどうでもいい気がしてきた。世界中の音楽家、音楽ファンの心に流れていた大きなひとつの水系を我々は失くしてしまったのだ。今はまだその水脈の素晴らしさや、そこからいただいた恵み、そこでの思い出を語る気にはなれない。  世界中の音楽家、音楽

[2023.4] ブラジルからの坂本龍一への追悼コメント【Condolências do Brasil】

DESCANSE EM PAZ, RYUICHI SAKAMOTO【1952.01.17 - 2023.03.28】  ブラジル音楽を愛し、ブラジルの音楽家たちも親交の厚かった、坂本龍一。ブラジルからの追悼のコメントをこちらにまとめたいと思います(随時追加予定)。 Jaques Morelenbaum Caetano Veloso Marisa Monte Paula Morelenbaum Dora Morelenbaum ジャキスとパウラの娘であるDora More

[2023.4]【ブックレビュー|ブラジル現代文学】『曲がった鋤』イタマール・ヴィエイラ・ジュニオール 著/武田千香、江口佳子 訳

文●花田勝暁 『曲がった鋤』という、幾分、そっけないタイトルの小説は、新人作家イタマール・ヴィエイラ・ジュニオール(Itamar Vieira Junior)によって書かれ、2020年にブラジルの主要な文学賞であるジャブチ賞(長編小説部門)とオセアーノ賞をダブル受賞し、2021年には、ブラジルで最も読まれた(売れた)本だった。2022年のベストセラー本のランキングでも、ランキング圏外とはならず、22位にランクインしていた〔Globo.com〕。ブラジルでは、2019年8月に

[2023.4]【追悼】芸術は長く、人生は短い ⎯⎯ 坂本龍一さんに捧ぐ

文●中原 仁  3月末、昨年亡くなった音楽プロデューサー、宮田茂樹さんを偲ぶ会の会場に、新緑の季節を先取りしたと思えるほど鮮やかな緑色の花が飾られていた。それが坂本龍一さんから贈られた花であることを聞いて何人かの出席者と、約2週間前に坂本さんが病床から明治神宮外苑の再開発に反対する手紙を都知事に送ったことなどに触れて、早く元気になって戻ってほしい、と話していたのだが ……。  その数日後に訃報が届き、しかも坂本さんが亡くなれられたのが3月28日で、偲ぶ会の日にはすでに天

[2023.4] 【映画評】 『セールス・ガールの考現学』 ⎯⎯ モンゴル映画の新たな地平を切り開く ポップでキュートな(社会派)エンタメ映画の誕生!

『セールス・ガールの考現学』 モンゴル映画の新たな地平を切り開く ポップでキュートな(社会派)エンタメ映画の誕生! 文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)  “モンゴル映画”と言っても、具体的なイメージを思い浮かべられる人はそう多くはいないだろう。いたとしてもそのほとんどが、雄大な草原に移動式住居のゲル、弦楽器の馬頭琴など、民族色の濃いイメージに彩られているのではないだろうか。本作もモンゴル映画だがわずかに草原が登場するだけで、首都ウランバートルの都会を舞台に一人の少女の成