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[2023.4]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2023年4月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。

20位 Debashish Bhattacharya · The Sound of the Soul

レーベル:Abstract Logix [14]

 インド出身、スライドギターの設計も行う音楽家/作曲家/教育者のデバシシュ・バタチャルヤの最新作。
 ベンガル州コルカタで、インドの伝統的な声楽家夫妻のもとに生まれ、幼い頃から音楽を教え込まれてきた。3歳の時に父親からハワイアン・ラップスティールギターを与えられ、それ以来スティールギターに夢中になり4歳の時にデビューしたそう。キャリアは55年以上、今年で63歳の大ベテラン!ヒンドゥスターニ・スライド・ギターというジャンルの第一人者でもある。6弦ホローネックのラップスティールギターで、6本の主旋律弦の低音側にドローン弦2本、高音側にリズム弦2本、低音側に共鳴弦12~14本という3セットの弦が加わる、チャトランギと呼ばれるギターを15歳の時に初めて設計した。片手に鉄棒、もう片方の手にフィンガーピックを持って演奏する。このギターを演奏し、伝統的なアプローチと独自の現代的なアプローチを融合させ、スライドギターによるインド古典音楽を再定義した。
 本作は、ヒンドゥスターニ音楽のもう一人のパイオニアでもあり、サロードというチャトランギに似た音色を持つ弦楽器の名手、ウスタッド・アリ・アクバル・カーンの生誕100周年を記念して制作された。バタチャルヤのチャトランギと、インドの伝統打楽器パカワジとタブラによるシンプルな構成。4曲入りだがトータル1時間を越える作品(1曲40分近い曲もある!)。
 静寂に包まれた優雅で魅惑的な演奏から、アップテンポで疾走感を感じられる演奏まで、バタチャリヤの卓越したテクニックをじっくりと聴くことができる。東洋と西洋の音楽、両方の魅力を見事に表現している作品。

19位 Jiraan · Sirto

レーベル:Zephyrus [37]

 2016年にベルギーで結成されたアンサンブルグループ、Jiraan のデビューアルバム。精緻な音楽への情熱を具現化するため、シリア出身のヴァイオリニスト/作曲家の Shalan Alhamwy がグループを結成、出身も異なり多様な音楽的背景を持つ音楽家12人で構成されている。楽器は、弦楽器セクション(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)、リズムセクション(パーカッション、鍵盤、コントラバス)、木管楽器(フルート、クラリネット、サックス)をはじめとし、ネイやウード、カヌーン、ケメンチェ、ドゥドゥクなどの伝統楽器からなり、インスト曲もあればヴォーカルが参加する楽曲も収録されている。
 グループ名の「Jiraan」はアラビア語で「隣人」を意味する。彼らの音楽は、シリアやトルコ、イラクなど中東の音楽的遺産に、ジャスやクラシックなど西洋音楽のテイストが加わり、彼ら独自のサウンドを作り上げている。音楽によって、国境や文化、慣習を越えて立ち上がるという結成当時の考えを体現しているといえよう。東洋と西洋の繊細な表現が見事に美しく融合し、彼らのテクニックが堪能できる素晴らしい作品。

18位 Sheikhs Shikhats & B’net Chaabi · Sheikhs Shikhats & B’net Chaabi

レーベル:Zephyrus [-]

 モロッコ系ベルギー人の女性歌手ライラ・アメジアン(Laïla Amezian)が率い、アフリカ系ベルギー人のトランペッター、ローラン・ブロンディアウ(Laurent Blondiau)が音楽監督を務める総勢18人のベルギーのアンサンブルユニット、Sheikhs Shikhats & B'net Chaabi のデビュー作。国際女性デーに合わせてリリースされた。
 19世紀のモロッコで芸術を通して表現の自由を求め戦った女性音楽家、GhanayatsとShikhatsに敬意を表し、モロッコの伝統的な大衆歌謡「シャアビ」にスポットを当て、現代に再解釈するというプロジェクトの一環でリリースされた作品。ライラとローランはそれぞれが一緒に活動するヴォーカリストやミュージシャンたちを集めこのユニットを結成した。「シャアビ」を歌い演奏するユニット、B'net Chaabi の女性シンガーやパーカッショニストも招聘し、バックグラウンドがとても多様なメンバーが集結した。
 伝統的な大衆歌謡であるが、再解釈された楽曲は「シャアビ」がジャズやアーバンエスノと現代的にミックスされ、どれも洗練された楽曲に仕上がっている。B'net Chaabi のハンド・クラップ(拍手)、ヴォーカリストたちの魅力的な歌声、そこに金管楽器の演奏とうまく融合されている。疾走感とともに圧倒的なパワーが感じられる作品。伝統的な音楽を越え、彼ら独自のジャンルを表現しているのが素晴らしい。
 このプロジェクトでは、ヨーロッパでのツアーを行い、さらに「シャアビ」の起源や伝統音楽の口承伝達における女性の役割についてのワークショップなども開催されたそうだ。ツアーだけでなく、アカデミックな展開もしており、とても有効なプロジェクトだといえよう。
 聴いていてとても引き込まれ、このライヴはぜひ観たい!と強く感じた作品。

17位 Payadora Tango Ensemble · Silent Tears: The Last Yiddish Tango

レーベル:Six Degrees [23]

 アルゼンチン/ウルグアイのタンゴと民族音楽、そしてオリジナル曲を独自のアレンジで演奏するカナダの室内楽アンサンブルユニット、Payadora Tango Ensemble による作品。キンテートで演奏したり、タンゴとバレエのコラボを行うなどいくつかのプロジェクトを精力的に行なっている。2月に19位に初登場し、先月は23位、今月は17位にランクイン。
 本作は、トロントのユダヤ人介護施設のソーシャルワーカーであるポーラ・デイヴィッド博士が主導したプロジェクトにより制作された作品。ホロコーストで性的暴力や拷問の犠牲となった女性たちの証言や文章、詩に、ユニットのメンバーによるオリジナルの曲が付けられた。ホロコーストの生存者である彼女たちが文章を書くことによって、その時のトラウマを処理する助けになるのだという。トロント在住の作家は、戦時中だった思春期の頃、ポーランドの納屋で小さな木箱に入れられ、地中に埋められたそうだ。この経験をはじめとし、本作はナチス占領下のポーランドで女性や子供たちが経験した想像を絶する暴力の物語を語っている。
 楽曲は、戦前、戦後にポーランドなど東欧諸国のユダヤ人の間で発展したイディッシュ・タンゴ。歌詞もイディッシュ語で歌われている。ヴァイオリンの音色が女性たち、子供たちの心の悲鳴のように聴こえる。曲の背景を考えると、聴いていて胸が締め付けられる想いになる。
 イギリスBBCをはじめとした世界中のテレビ局で “史上最高のユダヤ音楽の録音” と絶賛、報道された。歴史的に記録として残すべき作品。

16位 Kala Jula & Gangbé Brass Band feat. Fama Diabaté · Asro

レーベル:Buda Musique [24]

 マリのグリオ/歌手で「マリの黄金の声」とも呼ばれ、惜しくも2018年に69歳で亡くなったカッセ・マディ・ジャバテ(Kassé Mady Diabaté)を偲び、2019年10月にスイスで開催されたライヴ音源を収録した作品。
 スイスのマルチ楽器奏者、ヴァンサン・ザネッティ(Vincent Zanetti)と、マリのグリオ家系出身のギタリスト、サンバ・ジャバテ(Samba Diabaté)によるデュオ「Kala Jula」と、ベナンのアンサンブルユニット「Gangbé Brass Band」がコラボレーションした公演。カッセ・マディ・ジャバテの甥のファマ・ジャバテ(Fama Diabaté)も、ヴォーカルとバラフォンで参加している。公演当時は14歳で、彼の才能がこの公演により披露された。
 アフリカの伝統楽器コラやバラフォンを使い、グリオに伝わる伝統的な曲を演奏している他、アフロビートやブードゥー音楽、フレンチ・カリビアンやニューオーリンズのジャズまで、様々なアフロ系の要素がミックスされている。ブラスバンドの金管楽器の音とコラやバラフォンの融合がとてもパワフル!ライブの熱気がそのまま伝わってくる良作だ。

↓国内盤あり〼。

15位 Gao Hong & Kadialy Kouyate · Terri Kunda

レーベル:ARC Music [34]

 中国出身で現在はアメリカ在住のピパ(琵琶)奏者ガオ・ホンと、セネガル出身のコラ奏者カディアリー・クヤテのデュオアルバム。
 ガオ・ホンは幼少の頃からピパを演奏し北京のエリート中央音楽院を卒業後、1994年に渡米。中国の伝統音楽を演奏しつつ、多くのミュージシャンや交響楽団とも共演、伝統音楽だけではなく多様なジャンルにおいて音楽活動を行なっている。カディアリー・クアテはセネガルのグリオ家系に生まれ現在はイギリス在住、大学でコラを教えたり、多くのミュージシャンとコラボし活動している。
 ピパ(琵琶)とコラ、おそらく出会うことがほぼ無いであろう楽器が、二人の名手によって、出会い、音楽的な交流が始まった。本作タイトル「Terri Kunda」はセネガルのウォロフ語で「出会いの場所」を表す。二人が出会い、音楽的な交流が始まったことを意味している。
 イギリスとアメリカにいる二人はZoomでやり取りをしていたそう。どちらかがリードしもう一方はそれに乗るというスタイルを曲ごとに展開。お互いリラックスした状況で創作していったという。それがゆったりとした美しい音色にも表れている。どちらも弦楽器ではあるが、それぞれの個性や魅力が二人の演奏で豊かに引き出されている。楽器で二人が会話しているようだ。中国のメロディもあり、アフリカ特有のコラの楽曲と思わせるものもある。二人がそれぞれの楽器を通して会話し、友情を育んでいる、そんなことを思わせるアルバム。それぞれの音色にうっとりする。

14位 Driss El Maloumi · Aswat

レーベル:Contre-Jour / Zig Zag World [-]

 2017年(国内盤は2019年)にリリースされたアルバム『Anarouz(希望)』が好評を博したユニット3MAのメンバー、モロッコ出身のウード奏者ドリス・エル・マルーミ(Driss El Maloumi)のソロ名義最新作。3MAでは、マリのコラ奏者バラケ・シソコと、マダガスカル出身のヴァリハ(マダガスカルの民族楽器で竹筒の周りに弦を張った撥弦楽器)との共演がとても素晴らしく、世界で大きく評価された。
 ドリスは1970年モロッコ生まれ。1994年モロッコ国内のウードコンテストで名誉賞を受賞するなど数多くの賞を受賞している。ヨーロッパや中東など世界の多くのミュージシャン、詩人などとの共演や、映画音楽にも携わるなど活躍しており、「ウードの魔術師」とも称される実力派アーティスト。
 本作はウードとパーカッションによる音楽で、何年も前から構想していたという。アルバムタイトル『Aswat』は、アラビア語で「音」という意味。アラブ音楽におけるタラブ(tarab:音楽を聴いた後の至福、満足、歓喜、恍惚の間にある驚きの感覚)を追求した作品となっている。パーカッションは、ラフシーン・バキール(Lahoucine Baqir)、サイード・エル・マルーミ(Saïd El Maloumi)の二人が担当。サイードはドリスの弟で、本作ではウードも演奏している。また彼らの妹カリマ・エル・マルーミ(Karima El Maloumi)もヴォーカルとして参加。ウードとパーカッションの世界が豊かに広がり、歌で彩りをそえている。ドリスのウードのテクニックに驚嘆すると同時に、ウードの音色の豊かさに心奪われ、まさに魔術にかかるような感覚をおぼえる美しい作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説/帯付き)

13位 V.A. · Ears of the People: Ekonting Songs from Senegal and The Gambia

レーベル:Smithsonian Folkways Recordings [6]

 西アフリカのセネガル共和国とガンビア共和国のカザマンス地方に住むジョラ族の伝統楽器「エコンティン」の音楽を集めたコンピレーションアルバム。アメリカのスミソニアン・フォークウェイズからリリース。
 エコンティンは、瓢箪と木の棒、動物の革、釣り糸で作られた3弦のリュート型撥弦楽器で、バンジョーのルーツであるとも言われている。この地方独特の楽器で手作業で作られている。
 本作は、アメリカの民俗音楽学者スコット・リンフォードが2019年に現地で録音、セレクトした全25曲が本作に収録されている。女性も含めた9人のエコンティン奏者たちの演奏と歌が、村の広場や自宅、即席のスタジオなどで録音された。彼らが歌うのは日常的なテーマで、人生、愛や友情、暴力や紛争の苦難、路上爆撃の悲惨な記録など、セネガルの社会を多様に表現している。エコンティンの音が素朴でシンプルなのだが、生命力溢れる歌がなんとも魅力的。家畜の鶏の鳴き声も聞こえるのは気のせいか⁈
 この地方でしか聴けない実に貴重な音源が収録されており、ジョラ族が生きてきた歴史や文化、伝統が込められている。日本の民謡にも聴こえるような歌もあり、ユニークでエネルギーが感じられる作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)

12位 Houria Aïchi · Chants Courtois de l’Aurès

レーベル:Accords Croisés [12]

 北アフリカ・アルジェリア出身の女性歌手、フリア・アイシの最新作。
 アルジェリア北東部サハラアトラス山脈の東側、オーレス山地には、そこに定住しているベルベル系先住民族「シャウイ人」の伝承歌をはじめとした独自の音楽文化がある。シャウイ人であるフリアは、幼い頃からこの文化に親しみ、祖母たちから多くの伝承歌を学んできた。パリの大学で心理学を、大学院で社会学を学び、音楽とは縁のない世界へと進むが、シャウイの伝統音楽に対する熱意はそのまま持ち続け、シャウイの伝承歌を広めるべく、1985年から歌手としての活動を開始した。
 本作『オーレス〜知られざる愛の歌』は、オーレス山地周辺で歌われてきた貴重な伝承歌の中でも、女性たちに対する男性たちの愛が綴られた全10曲が収録されている。絶滅の危機に瀕するオーレスの音楽的文化遺産を再発掘し、社会学的な見地も用いつつ研究、そしてこの作品で現代に蘇らせることに見事に成功した。この地方の女性たちは伝統的に刺青をしていたそうだが、それがジャケットにも表現されている。
 アルジェリアの伝統楽器マンドールをはじめとする弦楽器、葦笛ネイ、大型のフレーム・ドラム、ベンディールによるシンプルな編成のアコースティックな演奏に、フリアの味わい深く力強い歌声が重なっている。伝統楽器の独特な音色やコブシのきいた歌声、男声コーラスとのやり取りも幻想的でとてもエキゾチック。アルジェリア伝承歌の魅力が充分に伝えられている作品。彼女だからこそできた作品と言えるだろう。

↓国内盤あり〼。(日本語帯付き)

11位 Taraf Syriana · Taraf Syriana

レーベル:Lula World [5]

 シリアの民族音楽に影響を受けたカナダ在住の4人の音楽家によるユニット Taraf Syriana(タラフ・シリアナ) のデビューアルバム。シリア内戦の戦火を逃れカナダに移住したシリア人音楽家、Naeem Shanwar(カヌーン)、Omar Abou Afach(ヴァイオリン・ヴィオラ)を始め、モルドバ出身のアコーディオン奏者 Sergiu Popa、スイス人チェリスト Noémy Braun による構成。彼らはシリアやその近隣諸国の民族音楽を専門にしており、メンバーの中には教鞭を取っているものもいる。パンデミックの最中に結成され、リハーサルはリモートで、初コンサートはオンラインで開催された。
 本作には、シリアや中東の少数民族の伝統的な歌や、ロマの歌、そして彼らのオリジナル楽曲などが収録されている。シリアで最も有名なロマの音楽家 Mohammed Abdul-Karim (1911-1989) が作曲したタンゴの楽曲も収録されており、この地域の民族音楽が多様性に溢れていたことがよくわかる。 
 ゲストヴォーカルに、ロマのギタリスト/歌手の Dan Armeanca、カナダで俳優やミュージシャンとしても活躍しているシリア人 Ayham Abou Ammar が参加し、楽曲に彩りを与えている。また、チェロは本来4弦なのだが、2弦を追加し6弦のものを使用。シタールや東地中海の弓奏楽器ケメンチェ、リュート、ギンブリなどの音をチェロで表現したくて使用しているそうだ。カヌーンとチェロ、ヴァイオリンの弦楽器と、アコーディオンの音の組合せがとても絶妙で素晴らしい。シリアは古くから文化や文明、民族が交差する場所だったということがよくわかる作品。様々な民族的、音楽的背景を持つ音楽家たちによる多様で豊かなアンサンブルが堪能できる。

10位 Bassidi Koné · Kaïra

レーベル:Remote / Studio Mali [17]

 西アフリカ・マリ共和国出身のジャンベ/バラフォン奏者であるバシディ・コネ(Bassidi Koné)の1stソロアルバム。
 マリのグリオの家系に生まれ、父親がバラフォン(ひょうたんを共鳴させる木琴楽器)奏者で、先祖代々受け継がれてきた伝統的な歌とリズムを幼少期から教え込まれてきた。父親とも一緒に演奏し、その際にはバラ(ひょうたんの太鼓)を演奏していた。13歳の頃、首都バマコに移り、ジャンベの名手 Koninba Bagayogo と出会う。バシディのバラの演奏技術に感銘を受けたKoninba はジャンベも演奏するよう薦めたことがきっかけで、Koninbaのもとでジャンベの演奏技術を磨き才能を伸ばしていった。革新的なプレイで独自の個性を確立し、ジャンベ奏者として国際的なコンテストで際立った存在となり、2005年に自身のルーツであるブワ族の伝統を守るため、同じ系統のグリオ出身のメンバーで構成するパーカッショングループ「Bwazan」を設立。今ではマリを代表するグループとなり、自分たちの音楽的遺産を守りつつ、マリ国内はもとより世界中に平和と連帯のメッセージを広めている。アフロジャズやラテン、レゲエやクラシックなど、ルーツが異なる様々なミュージシャンたちとコラボし、彼が受け継いできた伝統音楽に他のジャンルを取り入れ、芸術性を高めている。
 グループとしてのアルバムリリースはあったが、ソロとしては本作が一作目。今までの活動を色濃く反映した作品となっており、マリの伝説的なミュージシャンたち(ンゴニ奏者のバセク・クヤテや、マリのマルチプレイヤーであるセク・バー、コラ奏者ママドウ・ディアバテ)も参加している。何よりバシディのジャンベの超高速リズムが衝撃的な作品。2曲目「An Kan Ben」では、マリの音楽とキューバの音楽が見事に融合!(マリとキューバの音楽交流は1960年代から行われていたそう)
 マリの豊かな音楽性、バシディの無限の芸術的な演奏テクニックが存分に楽しめるアルバムだ。

9位 Lucas Santtana · O Paraíso

レーベル:Nø Førmat! [2]

 ブラジル・サルヴァドール出身のSSW、ルカス・サンタナの最新作。2019年リリースの前作同様パリのレーベル NO FORMAT! からのリリースで、本作が9作目。1月に初ランクインし、今月も上位キープ!
 タイトル『O Paraíso』とは「楽園(パラダイス)」のこと。パンデミック中に構想された内容で、我々に「楽園はここにある」という発想の転換を促している。自然の美に対する感覚が、実は普遍的なものであるということからインスピレーションを得たそうだ。近年の地球環境問題についての危機へのメッセージも込められいる。
 ルカス自身のギターに、Zé Luís Nascimento のパーカッション、日本に来日したこともあるチェリスト Vincent Segal のチェロなどが加わり、フランス在住のミュージシャンたちが参加している。ブラジル人女性歌手Flavia Coelho、フランスのバンド L'Impératrice の女性歌手 Flore Benguigui もゲストヴォーカルで参加。
 ほとんどの楽曲がルーカスによるオリジナル作品だが、カバー曲2曲収録されている。1974年にリリースされた Jorge Ben Jor の曲「Errare Humanum Est」と、のちにセルジオ・メンデスもカバーしたビートルズの「The Fool on the Hill」で、本作のコンセプトに合わせて選んだようだ。
 カポエィラやマラカトゥのリズムが感じられる楽曲から本作は始まり、彼の世界が広がっている。根底にはブラジルのリズムが感じられ、ジャズやエレクトロニクスがミックスされた独創的なサウンドとなっている。シリアスな内容を扱い、哲学的な内容となっているが、彼の柔らかい歌声や人柄からなのか、繊細で、洗練されたエレガントな作品に仕上がっている。フランス語やスペイン語(これがまたボサノヴァ風で不思議な感じだが良い!)で歌っている曲もあり、ブラジルだけでなくヨーロッパに向け作られていることも推察される。パリのレーベルからのリリースだから本チャートにランクインされたのだろうが、ブラジル音楽としての完成度はとても高い!ルカスの父親はトン・ゼーの従兄弟で、ジルやカエターノと共にトロピカリアを創ってきたプロデューサーの Roberto Sant'Ana(ホベルト・サンタナ)。まさにトロピカリアの継承者であると言える素晴らしい作品。

今月いよいよ来日します!


8位 Mara Aranda · Sefarad en el corazón de Grecia

レーベル:Mara Aranda [26]

(本作の音源がまだ公開されていませんので、公開され次第以下に追記いたします)
スペイン出身、セファルディ音楽を研究しているマラ・アランダの最新作。セファルディ音楽の歴史的レパートリーで、モロッコ、トルコに続く三作目はギリシャのセファルディ音楽をターゲットにした作品。


7位 Moonlight Benjamin · Wayo

レーベル:Ma Case [22]

 ハイチ出身フランスで活動するシンガー(ヴードゥー教の祭司でもある)ムーンライト・ベンジャミンの最新作。本作が4作目となる。
 1971年ハイチで産まれるがその際に母親が亡くなり、牧師の養女として孤児院で育てられた。教会のゴスペルを聴きながら育ち、ハイチのミュージシャンたちのバックコーラスを務るなど歌手活動をしていたが、2002年フランス・トゥールーズへ渡り本格的に歌(ジャズ)を学び始める。2009年ハイチで多く信仰されているヴードゥー教に正式に入信するためハイチに戻る一方、フランスでの歌手活動も並行して行いオマール・ソーサなど著名なアーティストとも共演、ジャズシンガーとしての名声を高めていった。
 2011年には1stアルバムをリリースしたが、それはハイチに根ざしたアコースティックなワールドミュージックだった。2017年にギタリスト/プロデューサーのマティス・パスコー(Matthis Pascaud)と出会ったことで、ヴードゥーロックのスタイルにシフトし、2018年にアルバム『Siltane』をリリース。さらに2020年には前作『Simido』をリリース、彼女オリジナルのヴードゥーロックを展開し大きな好評を得た。
 アルバムタイトルはハイチのクレオール語で「痛みの叫び」と訳される。楽曲はクレオール語で歌い、低音ヴォイスのヴォーカルが心に響く。祈りにも聴こえるような静かな歌声から、ハイチの人々の叫びを表現しているかのような歌声、そして何よりもパワー漲るヴォーカルとそのグルーヴ感にどっぷりと引き込まれてしまう。エレキギターと、低音ながらも疾走感あるドラムの組み合わせが、前作以上にサウンドの重厚感を増している。はっきり言うとロック!でも単なるロックではなく、彼女のバックグラウンドであるハイチ、さらにはワールドミュージックの要素も加わっており、前作よりさらに重みがあるロックとなっている。私たちの耳にも馴染みやすい単語が連呼されており、これは聴けば聴くほどハマってしまう!聴き終わるとなぜかスッキリし、また聴きたくなってしまう。ひょっとしたら魔術にかかってしまったのかもしれない、そんなことを思わされるアルバムだ。

6位 Acid Arab · Trois

レーベル:Crammed Discs [4]

 結成10年を迎えたパリのエレクトロニック音楽集団 Acid Arab の最新作。タイトル『٣』はアラビア語で3を表す記号で、本作がまさに3作目となる。2012年にパリのDJ、Guido MiniskyとHervé Carvalhoによって結成され、現在はメンバー5人で活動している。中東や北アフリカのサウンドやボーカルと、エレクトロニック・ミュージックやアシッド・ハウスとを融合させ、世界中のフェスティバルやクラブのオーディエンスたちを魅了し続けている。2016年リリースの1stアルバム、2019年リリースの2ndアルバムは、世界的にも大好評を博しており、本作は期待された作品といえよう。
 本作では、北アフリカやシリア、トルコ出身の8人のゲストヴォーカルを迎えている。アルジェリアのガスバ(ガスバという葦笛を使った音楽ジャンル)、アナトリアのトランス、ダブケやライなどといった中東&北アフリカの多様なスタイルを取り入れ、過去作以上に音楽の領域を越えた作品となっている。深い精神性やサイケデリックも感じられ、高揚感、疾走感もあり、クラブミュージックとしてかなり洗練されている。実に見事な仕上がり!
 1stアルバムの収録曲「Sayarat 303」のPart2となるインストゥルメンタル曲「Sayarat 303 Part 2」も収録されており、過去作と共に楽しめる。

5位 Altın Gün · Aşk

レーベル:Glitterbeat [-]

 アムステルダムを拠点に活動、「ターキッシュ・サイケデリア」や「アナトリア・ロック」を現代版にアレンジしたことで知られるオランダ/トルコの混成グループ、アルトゥン・ギュンの最新作!本作は2021年リリースの『Yol』以来の作品となり、これが5作目となる。
 2019年に発表のアルバム『ゲジェ〜夜』が大注目され、2020年のフジロックに参加予定だったが、残念ながらコロナにより中止となった。しかし、昨年のフジロックについに登場!日本の音楽ファンたちの度肝を抜いたステージを披露した。
 前作では、パンデミックの影響で自宅で制作したためエレクトロニックでシンセサイザーが効いたサウンドだったが、それを一転、初期の頃の作品と同様に70年代のアナトリアのフォーク・ロックサウンドへの豪快な回帰を示している。メンバーみんなでスタジオに入り、一緒に音楽を作り上げていった。テープによるライブ録音に戻り、ヴィンテージの機材や録音技術を使い、細部までにこだわりながら制作したとのこと。生演奏のサウンドと共にメンバーの一体感、パワーやエネルギーなども音から感じられる。
 本作でもトルコの伝統的な民謡を現代風に彼ら独自に再解釈した楽曲が収録されている。サウンドを一転したということだが、エレクトロニックな楽曲が全く無いわけではなく、今まで以上にパワーアップしていると感じられる。本作でもエレクトリック・サズが使われており、彼らのサウンドの特徴であることは変わりない。パンデミックが明けた喜びも感じられ、ますます前進していくぞ!という気概が伝わる作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説/帯付き、LPもあります)

4位 Dur-Dur Band Int. · The Berlin Session

レーベル:Outhere [28]

 東アフリカのソマリアで80年代に活躍したバンド、ドゥル・ドゥル・バンド。ファンクやソウル、レゲエやディスコ・ミュージックと、ソマリアの伝統音楽がミックスされた独自の大衆音楽「モガディスコ・サウンド」を作り上げ、大ブレイクした。内戦が激しくなった80年代終盤以降活動の場を失ってしまい、90年代には解散。しかし、2011年にロンドンを拠点とし、ドゥル・ドゥル・バンド・INTという名前で再結成、本作が実に30年ぶりとなる新作。ソマリア時代の1st、2ndアルバムをリイシューし、2枚組として2018年にリリースされたアルバムも大きな反響があったことは記憶に新しい。
 本作は、2019年にベルリンに招かれた際に録音した作品。ソマリアの伝説的ヴォーカリスト3名も参加、80年代黄金期の「モガディスコ・サウンド」を忠実に再現している。ソマリアの伝統音楽とファンク、ディスコサウンドがミックスされているが、ヴォーカルはどことなく民謡や演歌を思わせ、親近感を感じる。そして超カッコイイ!グルーヴ感がたまらない!
 上記動画からは、レジェンドたちが心から楽しんで演奏している様子が伝わってくる。黄金期を越え、そこに渋さや人生の深みといったいぶし銀の魅力が加わり、音楽的にも幅が広がっている。上位に食い込んできたのも納得できる作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説/帯付き、LPもあります)

3位 King Ayisoba · Work Hard

レーベル:Glitterbeat [9]

 ガーナ北部出身1974年生まれ、フラフラ族の伝統楽器コロゴ(二弦の弦楽器)を使って弾き語りするキング・アイソバの最新作。2017年の前作『1000 Can Die』以来のリリースとなる。
 幼い頃からコロゴを独学で学び、演奏し続け、2000年代前半にガーナの音楽界に登場。彼の鋭いダミ声での歌声とコロゴによるライブパフォーマンスで多くの注目を集め、ヨーロッパにも活動の場を広げた。2014年リリースのアルバム『Wicked Leaders』の収録曲「Mbhee」で、ガーナ音楽賞の最優秀伝統曲賞をキャリアで2度目となる受賞を果たした。
 本作のプロジェクトは当初オランダでレコーディングを始めたが、パンデミックの影響でガーナに戻ることとなった。アルバムを完成させるためガーナで全力を注ぎ制作された渾身の作品。タイトルは「Work Hard」は、自分の音楽と懸命に向き合ったということを表現しているのだろう。10年来活動を共にしてきたオランダ人音楽家 Zea(アーノルド・デ・ボーア)が今回もプロデューサーとして参加、ガーナ音楽の伝統と最先端の音楽をさらに融合させたミクスチュアを構築している。また、ガーナにおける社会問題についても取り上げており、選挙の際に公約だけを掲げいざ当選すると国民に背を向ける政治家や、国境における緩い規制、政治家がいかに汚職に目をつぶっているか、ガーナの女性たちの不平等な立場などについて、フラフラ語、トウィ語、彼独特のスタイルのピジン英語でメッセージを送っている。
 アフリカ独特のリズム感、歌詞のリピート、そしてアイソバのダミ声によるヴォーカルが絶妙にマッチしている。笛と太鼓を使い日本のお祭りの音楽にも聴こえる曲もあり、何度も繰り返して聴きたくなる。
「ボブ・マーリーがレゲエ・ミュージックを世界に広めたように、私はコロゴ・ミュージックを世界に広めたい」と語るアイソバ。彼の思いが濃縮している本作を通して、世界に伝わっているのではないだろうか。

↓国内盤あり〼。(日本語解説/帯付き、LPもあり)

2位 Mostar Sevdah Reunion · Lady Sings the Balkan Blues

レーベル:Snail [1]

 ボスニア・ヘルツェゴビナの伝説的なグループ、モスタル・セヴダ・リユニオンの12作目となる最新作。1月に9位で初ランクインし、先月は1位、今月も2位と上位をキープ!
 彼らは、ボスニア・ヘルツェゴビナ発祥の伝統的な民族音楽セヴダ(セヴダリンカともいう)を演奏する。ユーゴスラビア紛争の最中1998年に結成され、今年で結成25周年。途中メンバーの死去や新メンバー加入を経て、現在も活動している。セヴダだけでなく、ロマのミュージシャンとも共演したり、セヴダと現代音楽との融合を試みている。1stアルバムは1999年にリリースされ、それ以来様々なワールドミュージックのフェスティバルで演奏し、多くの音楽賞を受賞しているグループ。
 セヴダは短調で感情的なメロディーが特徴で、ブルースやフラメンコ同様に喜怒哀楽(特に哀しみ)を表現し、庶民のための音楽。本作は「バルカン・ブルースを歌う女性」ということで、2017年に加入した女性ヴォーカル Antonija Batinić の歌がメインとなっている。女性の気持ちを歌った伝統的なセヴダの楽曲や、オリジナル曲が収録されている。愛する人を待ち続けている女性や、望まぬ結婚をさせられる女性の気持ちを、彼女の伸びやかで力強くも切ない歌声で感情的に表現している。
 アルバム最後の曲は、2021年ツアー前に亡くなってしまったグループのメンバー Milutin Sretenovic Sreta を偲んで録音された曲。Sreta は2018年にリリースされた前作『The Balkan Autumn』でメインヴォーカルを務めていたキーパーソン。SretaとAntonija が一緒に歌っているこの曲が最後の収録となり、ボーナストラックとして本作に収録されている。上記MV最後の映像が彼が歩く後ろ姿を映しているのだが、背中で別れを告げているようだ。
 地理的なことも影響するのだろうが、東洋的な音階も感じられるセヴダ。現代的にもアレンジされており、非常に聴きごたえのある印象的な作品。

1位 Kimi Djabaté · Dindin

レーベル:Cumbancha [3]

 西アフリカのギニアビサウ共和国出身で現在はポルトガル在住のギタリスト/パーカッショニスト/バラフォン(アフリカの木琴)奏者、キミ・ジャバテの最新作。先月3位に初登場し、今月は1位となった。
 1975年グリオ家系の生まれ。貧しいながらも音楽一家で育ち、3歳の頃バラフォンを与えられ、早くから神童と呼ばれた。彼が演奏することで家族の収入源となった。19歳の時ギニアビサウの国立音楽舞踊団に所属し、ヨーロッパツアーに参加。そのままポルトガルのリスボンに移り住み、地元音楽シーンのネットワークを構築、多くのミュージシャンと仕事しながら独自のサウンドを確立してきた。2019年にはマドンナの「Ciao Bella」にフィーチャリングシンガーとしても参加している。
 初のソロアルバム『Teriké』は2005年に自主制作、2009年には2ndアルバム『Karam』、2016年には3rdアルバム『Kanamalu』を発売、本作が4作目のアルバムとなる。これまでの作品と同様、グリオへのオマージュを込めているが、同時にアフリカの現代生活の複雑さ、喜びと障害についても表現している。アルバムタイトル『Dindin』は、ギニアビサウ北部のマンディンカ族が話すマンディンガ語で「子供」を表す。子供や女性の権利や貧困、教育、宗教など社会的、政治的なテーマを本作で扱っている。
 ギニアビサウの伝統音楽ジャンルであるグンベに、レゲエやアフロビート、カーボヴェルデのモルナや砂漠のブルース、そしてポルトガルのファドなどの多様な音楽が絶妙にミックスされたグルーヴ感がたまらなく心地よい。自身のルーツや、今までのキャリアが凝縮されており、グリオや伝統音楽、母国のギニアビサウやアフリカを、音楽で讃えているのが感じられるアルバム。

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)


(ラティーナ2023年4月)

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