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[2023.3]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2023年3月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。

20位 Baul Meets Saz · Banjara

レーベル:Uren Production [8]

 トルコ出身ベルギー在住のサズ奏者 Emre Gultekin と、インド出身でバウル(インド・ベンガル地方の吟遊詩人のことでユネスコ無形文化遺産に登録されている)を実践している音楽家 Malabika Brahma(歌手)、Sanjay Khyapa(パーカッショニスト)によるトリオの最新作。前作は2018年にリリースしており、本作はそれ以来のリリースとなる。
 Emre Gultekin はブリュッセルを拠点とし、海外でサズを演奏する活動を行なっている。2016年インド・ベンガル地方に行った際に、Malabika と Sanjay の二人に出会い、音楽や人間性に自分のルーツと共通するものを感じたという。トルコにもサズを演奏するアーシュク(aşik)と呼ばれる吟遊詩人がおり、共通部分が多いのだろう。その場で一緒に演奏し、それ以来機会があると共演している。
 力強く伸びやかな Malabika の歌声、そしてサズとドゥブキ(小さいフレームドラム)がそれを支えている。二つの文化と音楽的な伝統が見事に融合し、神秘的で哲学的でありながら、現代的な音楽となっている。アルバムを聴いていると、三人が音楽を通して対話しているようだ。ライヴでの音源も収録されており、即興演奏の感じも伺える。国境や人種、文化の違いを超越し、彼らの友情や人間愛といったものが感じられる。バウルとサズの出会い、まさにアルバムタイトル通りで、三人が織り成す音がとても美しい。

19位 Mahsa Vahdat & Skruk · Braids of Innocence

レーベル:Kirkelig Kulturverksted [9]

 イラン人女性歌手 Mahsa Vahdat 、ノルウェーの合唱団 SKRUK 、ノルウェーのハープ奏者 Ellen Bødtker による最新作。
 Mahsa Vahdat は、1973年テヘラン生まれ。テヘラン芸術大学で音楽の学士号を取得し、ペルシャの伝統音楽を様々な師匠から学んできた。ペルシャの古典音楽や声楽の伝統に根ざしつつも、現代的で革新的な表現を反映、個性的な演奏スタイルを確立している実力派歌手。海外のアーティスト達と多くコラボレーションを行い、国際的にも活躍している。姉のMarjan Vahdatも歌手であり、共演も多数行っている。姉妹はノルウェーのレーベル Kirkelig Kulturverksted と契約しており、本作もこのレーベルからリリースされている。
 本プロジェクトは3年前から構想されており、昨年の8月に実際に録音された。Mahsaがメロディーを作り、彼女の夫であるイラン系アメリカ人の音楽家・作曲家の Atabak Elyasi が合唱団のために作詞と編曲、メロディーを追加で書き、プロデューサー Erik Hillestad が、詩を英語に翻訳した。他にも古典のルーミーや現代詩人の詩も本作に収録されている。タイトルは直訳すると「無垢の三つ編み」。
 昨年の9月、ヒジャブ着用を義務づける法律に違反したとして、22歳の女性がテヘランで道徳警察に逮捕・拘束され、その後死亡した。これはイラン人女性の怒りに火をつけることとなり、三つ編みは女性たちの自由のシンボルとされた。亡くなった女性もヒジャブの下に三つ編みをしている写真が公開されている。録音したのもタイトルを付けたのもこの事件の前のことであるが、偶然が重なり本作は注目されることとなった。Mahsa と合唱団の女性メンバーは、抗議と連帯のため髪を切る動画を制作し、世界的にも拡散されている。
 アルバム収録曲は、Mahsaのソロ歌唱とEllenのハープの音、そしてそれを支えるかのように合唱団のコーラスが重なる。彼女の歌の表現力が実に見事で、女性たちの苦しみを代弁しているかのようだ。とても美しく、希望や真っ直ぐなメッセージが強く伝わる音となっている。SKRUKの指揮者は、本作を「音色の絵画」と表現している。まさに絵画のごとく心に響く音色だ。

18位 Angeline Morrison · The Sorrow Songs: Folk Songs of Black British Experience

レーベル:Topic [14]

 イングランド南西部コーンウォールを拠点に活動する女性フォーク・シンガー/ソングライター/マルチインストゥルメンタリスト/研究者である、アンジェリーン・モリスンの最新作。イギリスの黒人歴史月間である10月(2022年)にリリースされた。
 アフリカ系のルーツを持つ彼女は、学生時代からイギリスにおける黒人のアイデンティティについて研究してきた。2020年、Black Lives Matterの発端となったアメリカでの警官による黒人殺害事件をきっかけに本作のプロジェクトについて考え始めたという。調査を行ったところ、英国の伝統的なフォークソングでは、アフリカ系移民の人々は少なくともローマ時代からこの島に存在していたにもかかわらず、その歴史はほとんど知られておらず、英国の民謡に登場することはあまりないことが判った。本作には、英国の歴史に登場する実在の人物の物語を掘り下げた彼女のオリジナル曲を、伝統的な英国スタイルのフォークソングで制作、収録されている。
 登場人物は、大西洋横断奴隷貿易の時代にコーンウォール沖合で難破した船から見つかった年齢不明の「西アフリカの少年」や、19世紀初頭にサーカスに売られ、見せ物にされた白斑のある黒人少年 George Alexander Gratton、1919年のリバプールの人種暴動で殺害された黒人 Charles Wotten、7歳のときにブラジルから奴隷として連れて来られたが最後は主人と一緒に墓に埋葬された Evaristo Muchovela など、アルバムタイトルが『哀しみの歌』であるように、どの物語もとても痛ましい。しかし、我々の心に語りかけるような彼女の落ち着きある歌声が、登場人物たちの人生を語り直し、彼らを称えている。
 全16曲収録されているが、そのうち5曲は間奏(Interlude)としてセリフのような声が入っている。「有色人種の生活水準は非常に低い」というストレートな声から始まると、胸をギュッと掴まれる思いになる。間奏がいい演出となり、各曲にぐいぐい引き込まれていく。何も考えずにこのアルバムを聴いたなら、おそらく英国伝統フォークとして聴いたのだろうが、物語を知ると深く心に刻み込まれる。歌詞をじっくりと見ながら聴きたいと強く思った。我々が到底知ることがなかっただろう過去の出来事を知るきっかけとなる貴重なアルバムだ。

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)

17位 Bassidi Koné · Kaïra

レーベル:Remote / Studio Mali [-]

 西アフリカ・マリ共和国出身のジャンベ/バラフォン奏者であるバシディ・コネ(Bassidi Koné)の1stソロアルバム。
 マリのグリオの家系に生まれ、父親がバラフォン(ひょうたんを共鳴させる木琴楽器)奏者で、先祖代々受け継がれてきた伝統的な歌とリズムを幼少期から教え込まれてきた。父親とも一緒に演奏し、その際にはバラ(ひょうたんの太鼓)を演奏していた。13歳の頃、首都バマコに移り、ジャンベの名手 Koninba Bagayogo と出会う。バシディのバラの演奏技術に感銘を受けたKoninba はジャンベも演奏するよう薦めたことがきっかけで、Koninbaのもとでジャンベの演奏技術を磨き才能を伸ばしていった。革新的なプレイで独自の個性を確立し、ジャンベ奏者として国際的なコンテストで際立った存在となり、2005年に自身のルーツであるブワ族の伝統を守るため、同じ系統のグリオ出身のメンバーで構成するパーカッショングループ「Bwazan」を設立。今ではマリを代表するグループとなり、自分たちの音楽的遺産を守りつつ、マリ国内はもとより世界中に平和と連帯のメッセージを広めている。アフロジャズやラテン、レゲエやクラシックなど、ルーツが異なる様々なミュージシャンたちとコラボし、彼が受け継いできた伝統音楽に他のジャンルを取り入れ、芸術性を高めている。
 グループとしてのアルバムリリースはあったが、ソロとしては本作が一作目。今までの活動を色濃く反映した作品となっており、マリの伝説的なミュージシャンたち(ンゴニ奏者のバセク・クヤテや、マリのマルチプレイヤーであるセク・バー、コラ奏者ママドウ・ディアバテ)も参加している。何よりバシディのジャンベの超高速リズムが衝撃的な作品。2曲目「An Kan Ben」では、マリの音楽とキューバの音楽が見事に融合!(マリとキューバの音楽交流は1960年代から行われていたそう)
 マリの豊かな音楽性、バシディの無限の芸術的な演奏テクニックが存分に楽しめるアルバムだ。

16位 Sona Jobarteh · Badinyaa Kumoo

レーベル:African Guild [11]

 西アフリカのガンビア共和国にルーツを持つイギリス出身のコラ奏者、ソナ・ジョバルテの最新作。前作は2011年リリースの1stアルバム『Fasiya』で、それ以来の作品となる。
 7世紀前から続くガンビアのグリオ(西アフリカの伝統伝達者)の家系に生まれ、その中でもプロとして名手となった最初の女性である。コロナ前の2019年には世界各地のフェスティバルで演奏し、好評を博していた。
 イギリス生まれでありながらもガンビアのルーツを持つためか、ガンビア、そしてアフリカへの思いも深い。アフリカ大陸における教育改革を実践するため、ガンビアに教育機関「ガンビア・アカデミー」を創立し、人道的な活動も熱心に行なっている。このアカデミーの生徒たちも本作の数曲にコーラスとして参加している。
 前作ではガンビアの伝統的な楽曲が収録されていたが、本作では全て彼女が作った楽曲。しかもほとんどの曲で、彼女がコラをはじめ全ての楽器を演奏、コーラスまでひとりで録音したという。「パンデミックがなければこの作品は完成しなかった」と彼女は言っており、パンデミック中に自身の音楽と向き合うことができた。
 本作では、セネガルの大スターユッスー・ンドゥールや、2021年にアルバム『Djourou』(本チャート2021年4月に初ラインクイン)で共演したバラケ・シソコらもゲストとして参加。ユッスーとのコラボ曲「Kambengwo」は、汎アフリカ主義においてアフリカ諸国間の協力が重要であることを表現している。人生でこんなに一生懸命曲を作ったことはないというほど、とても辛く苦しい作業だったそうだ。アフリカ特有のリズムで徐々にアップテンポになり、最後はユッスーが「アフリカ!アフリカ!」とコールしているのがとても印象的。バラケとの曲「Ballaké」はコラの二重奏がとても美しく、二人がコラの音色で対話しているようだ。
 伝統を受け継ぎ、それを進化させようと追求しているソナの姿勢が、彼女の魅力的な歌声や演奏からそれがとても伝わってくる。素晴らしい作品。

15位 Aziz Sahmaoui & Eric Longsworth · Il Fera Beau Demain Matin Jusqu’à Midi

レーベル:Passé Minuit en Accords [13]

 グナワ音楽のグループ「University of Gnawa」のリーダーでモロッコ出身フランス在住のアジズ・サハマウイ(Aziz Sahmaoui)と、アメリカ出身フランス在住20年以上のチェリスト(探検家でもある)エリック・ロンスワース(Eric Longsworth)による最新作。演奏には「University of Gnawa」のパーカッショニスト、アディール・ミルガーニ(Adhil Mirghani)も参加している。数年前のフェスティバル「En Accords, Festival Imprévisible et Inattendu」で二人が出会い、それぞれの世界や人生からお互いインスピレーションを受け、共演へと繋がった。
 本作はイギリスのミュージシャン Cat Steven が1971年にリリースしたアルバム『Teaser And the Firecat』に収録されている「Morning has Broken」のアレンジバージョンから始まる。アジズのマンドリンと歌、そしてエリックのチェロが美しく重なり、繊細さと力強さを表現している。グナワのリズムや、ジャズ、ブルースなどが織り混ぜられ、見事に異文化が融合しているサウンド。アディールのパーカッションもそれを支えて彼らの表現をより豊かにしている。そして、アジズのフランス語やアラビア語で歌う柔らかく妖艶で、詩的な声が、サウンドと絶妙な組み合わせ!彼らの世界観が豊かに広がり、音楽への旅へと誘われる作品。

14位 Debashish Bhattacharya · Sound of the Soul

レーベル:Abstrack Logix [-]

 インド出身、スライドギターの設計も行う音楽家/作曲家/教育者のデバシシュ・バタチャルヤの最新作。
 ベンガル州コルカタで、インドの伝統的な声楽家夫妻のもとに生まれ、幼い頃から音楽を教え込まれてきた。3歳の時に父親からハワイアン・ラップスティールギターを与えられ、それ以来スティールギターに夢中になり4歳の時にデビューしたそう。キャリアは55年以上、今年で63歳の大ベテラン!ヒンドゥスターニ・スライド・ギターというジャンルの第一人者でもある。6弦ホローネックのラップスティールギターで、6本の主旋律弦の低音側にドローン弦2本、高音側にリズム弦2本、低音側に共鳴弦12~14本という3セットの弦が加わる、チャトランギと呼ばれるギターを15歳の時に初めて設計した。片手に鉄棒、もう片方の手にフィンガーピックを持って演奏する。このギターを演奏し、伝統的なアプローチと独自の現代的なアプローチを融合させ、スライドギターによるインド古典音楽を再定義した。
 本作は、ヒンドゥスターニ音楽のもう一人のパイオニアでもあり、サロードというチャトランギに似た音色を持つ弦楽器の名手、ウスタッド・アリ・アクバル・カーンの生誕100周年を記念して制作された。バタチャルヤのチャトランギと、インドの伝統打楽器パカワジとタブラによるシンプルな構成。4曲入りだがトータル1時間を越える作品(1曲40分近い曲もある!)。
 静寂に包まれた優雅で魅惑的な演奏から、アップテンポで疾走感を感じられる演奏まで、バタチャリヤの卓越したテクニックをじっくりと聴くことができる。東洋と西洋の音楽、両方の魅力を見事に表現している作品。

13位 Constantinople, Kiya Tabassian & Ghalia Benali · In the Footsteps of Rumi

レーベル:Glossa [7]

 イラン出身でカナダ在住のシタールの巨匠キヤ・タバシアンによって2001年にモントリオールで設立されたユニット、コンスタンチノープルの最新作。東洋と西洋の異文化間の交流促進、世界中の多様な音楽的要素を取り入れた音楽を制作するために活動、これまでに20枚のアルバムをリリースしている。
 本作は、13世紀のペルシャのスーフィー(イスラム神秘主義)の詩人、ルーミーの作品がテーマとなっている。キヤ・タバシアンが、チュニジア系ベルギー人のアーティスト/歌手のガリア・ベナリと出会ったことで、本作のプロジェクトが具体化された。キヤは「彼女こそ、ルーミーの洗練された詩を歌うための理想的な声であり、ルーミーの作品の象徴的な意味を音楽的に伝える名手たちのアンサンブルをすべてまとめるために必要な原動力だと感じた」と言っている。まさにその通りでルーミーの世界観や普遍性といったものが、音楽的に見事に表現されている。音楽に合わせてガリアによる詩の朗読もあり、とても美しい。
 2018年にリリースされたセネガル人歌手/コラ奏者アブライエ・シソコとの共演作品『Traversees』も記憶に新しいが、それとは世界観が全く異なる作品となっており、コンスタンチノープルのテクニックに驚嘆せずにはいられない作品。

12位 Houria Aïchi · Chants Courtois de l’Aurès

レーベル:Accords Croisés [-]

 北アフリカ・アルジェリア出身の女性歌手、フリア・アイシの最新作。
 アルジェリア北東部サハラアトラス山脈の東側、オーレス山地には、そこに定住しているベルベル系先住民族「シャウイ人」の伝承歌をはじめとした独自の音楽文化がある。シャウイ人であるフリアは、幼い頃からこの文化に親しみ、祖母たちから多くの伝承歌を学んできた。パリの大学で心理学を、大学院で社会学を学び、音楽とは縁のない世界へと進むが、シャウイの伝統音楽に対する熱意はそのまま持ち続け、シャウイの伝承歌を広めるべく、1985年から歌手としての活動を開始した。
 本作『オーレス〜知られざる愛の歌』は、オーレス山地周辺で歌われてきた貴重な伝承歌の中でも、女性たちに対する男性たちの愛が綴られた全10曲が収録されている。絶滅の危機に瀕するオーレスの音楽的文化遺産を再発掘し、社会学的な見地も用いつつ研究、そしてこの作品で現代に蘇らせることに見事に成功した。この地方の女性たちは伝統的に刺青をしていたそうだが、それがジャケットにも表現されている。
 アルジェリアの伝統楽器マンドールをはじめとする弦楽器、葦笛ネイ、大型のフレーム・ドラム、ベンディールによるシンプルな編成のアコースティックな演奏に、フリアの味わい深く力強い歌声が重なっている。伝統楽器の独特な音色やコブシのきいた歌声、男声コーラスとのやり取りも幻想的でとてもエキゾチック。アルジェリア伝承歌の魅力が充分に伝えられている作品。彼女だからこそできた作品と言えるだろう。

↓国内盤あり〼。(日本語帯付き)

11位 V.A. · Perú Selvático: Sonic Expedition into the Peruvian Amazon 1972-1986 

レーベル:Analog Africa [27]

 ペルーのジャングルで独自に発展したパーティ音楽、クンビア・アマゾニカ。1972年から86年までに誕生した楽曲が収録されているコンピレーションアルバム。ドイツのレーベル Analog Africa からのリリース。
 ペルーの首都リマから内陸に100マイルも離れていないところに、ペルーの大ジャングルがある。首都の流行から切り離され孤立した都市では、周囲の森の音、大河アマゾン川やウカヤリ川の流れ、遠く離れた放送局からトランジスタラジオで聴くクンビアのリズムなどから、独自の音楽スタイルが生まれ始めた。電気が普及すると、新しい世代の若いミュージシャンがギターを接続し、アコーディオンをシンセサイザーに持ち替えるようになった。ここからアマゾンのクンビアが誕生した。クンビア伝統のリズムに哀感漂うエレクトリック・ギターの音色をのせ、サーフ・ロックやサイケデリック・ロックの要素なども加味した彼ら独自のサウンドは、当時アマゾン地方に流入した出稼ぎ労働者たちを中心に大きな人気を博した。
 この地域以外では聴かれることはほとんどなかった楽曲ばかりが収録されており、歴史的価値もある貴重なアルバムといえよう。

↓国内盤あり〼。(日本語解説/帯付き)
貴重写真と詳細情報が掲載された充実のブックレットは必見です!

10位 Gaye Su Akyol · Anadolu Ejderi

レーベル:Glitterbeat [2]

 2017年に SUKIYAKI Meets the World で来日し多くのファンを魅了したトルコの女性歌手、ガイェ・ス・アキョル(本作でガイ・ス・アクヨルより呼び名が変更)の最新作。本作で4作目、4年ぶりのリリースとなる。
 トルコのサイケデリアをベースに、サーフロックやポストパンクの要素を織り交ぜた独自の音楽性を展開し、世界各地のフェスやツアーで飛び回っていた。しかし、パンデミックにより自宅で作曲に集中、その間100曲以上作曲したとのこと。これらの曲を中心に本作に収録されている。(選曲と曲順を決めるのが大変だったそう!)
 タイトルは直訳すると「アナトリアのドラゴン」、神話に登場するドラゴンが深い眠りから目覚める様子を表現している。母国トルコでかつて起きたクーデーターで多くのものが失われたことを憂い、現在の政治に対してのメッセージ、そして女性や性的マイノリティの人々の権利向上を訴える内容となっている。ドラゴンが咆哮するかのごとく、まさに彼女の魂の叫びがこのアルバムに込められている。
 過去作からの進化形として、本作では新しいサウンドを追求した。それは楽器編成にも表れており、ロックギターやベース、ドラムといった現代の楽器に、ウードやエレクトロ・バグラマ、ジュンブシュ(トルコのバンジョーのような弦楽器)などの伝統的な楽器が加わり、トルコの過去と現在をより密接に結びつけるものとなっている。
 過去作よりもポップさは感じられるが、サイケデリックやロックとの融合が本当に絶妙で気持ち良い!MVのセンスも(いい意味で)ぶっ飛んでいて、カッコ良い!彼女の叫びがストレートに心に響く。良い作品です。

↓国内盤あり〼。(日本語解説/帯付き、LPもあり)

9位 King Ayisoba · Work Hard

レーベル:Glitterbeat [-]

 ガーナ北部出身1974年生まれ、フラフラ族の伝統楽器コロゴ(二弦の弦楽器)を使って弾き語りするキング・アイソバの最新作。2017年の前作『1000 Can Die』以来のリリースとなる。
 幼い頃からコロゴを独学で学び、演奏し続け、2000年代前半にガーナの音楽界に登場。彼の鋭いダミ声での歌声とコロゴによるライブパフォーマンスで多くの注目を集め、ヨーロッパにも活動の場を広げた。2014年リリースのアルバム『Wicked Leaders』の収録曲「Mbhee」で、ガーナ音楽賞の最優秀伝統曲賞をキャリアで2度目となる受賞を果たした。
 本作のプロジェクトは当初オランダでレコーディングを始めたが、パンデミックの影響でガーナに戻ることとなった。アルバムを完成させるためガーナで全力を注ぎ制作された渾身の作品。タイトルは「Work Hard」は、自分の音楽と懸命に向き合ったということを表現しているのだろう。10年来活動を共にしてきたオランダ人音楽家 Zea(アーノルド・デ・ボーア)が今回もプロデューサーとして参加、ガーナ音楽の伝統と最先端の音楽をさらに融合させたミクスチュアを構築している。また、ガーナにおける社会問題についても取り上げており、選挙の際に公約だけを掲げいざ当選すると国民に背を向ける政治家や、国境における緩い規制、政治家がいかに汚職に目をつぶっているか、ガーナの女性たちの不平等な立場などについて、フラフラ語、トウィ語、彼独特のスタイルのピジン英語でメッセージを送っている。
 アフリカ独特のリズム感、歌詞のリピート、そしてアイソバのダミ声によるヴォーカルが絶妙にマッチしている。笛と太鼓を使い日本のお祭りの音楽にも聴こえる曲もあり、何度も繰り返して聴きたくなる。
「ボブ・マーリーがレゲエ・ミュージックを世界に広めたように、私はコロゴ・ミュージックを世界に広めたい」と語るアイソバ。彼の思いが濃縮している本作を通して、世界に伝わっているのではないだろうか。

↓国内盤あり〼。(日本語解説/帯付き、LPもあり)

8位 Vieux Farka Touré et Khruangbin · Ali

レーベル:Dead Oceans [3]

 マリのギタリスト/SSWであるヴィユー・ファルカ・トゥーレの最新作。昨年11月に来日公演を行ったテキサス出身のトリオ、クルアンビン(Khruangbin)とのコラボ作品となる。ヴィユーの父で、2006年に亡くなったマリの伝説的なギタリスト、アリ・ファルカ・トゥーレへのオマージュ作品で、アリの楽曲のカバー曲が収録されている。アルバムタイトルはもちろん敬意を込めてアリの名前からつけられた。
 クルアンビンは、1960年代のタイ・ファンクから影響を受け2009年に結成されたバンドで、ダブ、ロック、ファンク、サイケデリックなど独自の音楽を展開し、近年世界の音楽フェスに引っ張りだこの存在。バンド名はタイ語で「飛行機」を意味する。そんな彼らとヴィユーが出会い、本作を制作することになったのだが、パンデミックの影響で一時は中断せざるを得なかったがこの度ようやく完成となった。
 マリの伝統音楽のスタイルとブルースが融合されたアリのサウンドを維持しながら、新たな次元の音楽となっている。アリの音楽的遺産が見事なまでに昇華され、若い世代にも伝わるに違いない。ヴィユーとクルアンビンの、アリへの敬愛がとても感じられる作品。

↓国内盤あり〼。

7位 Souad Massi · Sequana

レーベル:Backingtrack Production [4]

 アルジェリア出身のSSWスアド・マシの最新作。本作が彼女にとって10作目のアルバムとなる。昨年11月に本チャートにランクインして以来ずっと上位をキープしている。
 幼い頃から音楽と近くにある環境で育ち、クラシック音楽とアラブ・アンダルシア音楽を学んだ。フラメンコグループや、ハードロックバンドでも活躍、1998年に初のソロ・カセットをリリースした。翌年パリで開催されたフェスティバルに出演し、自ら作詞・作曲を手がけたことで注目を集め、大手レーベルとの契約が成立。その後の作品は世界で多くの賞を受賞し、キャリア20年を越える実力派アーティストである。
 本作は、ほぼ彼女が作詞・作曲を行い、パンデミックで感じた不安や孤独に立ち向かう強い気持ちを表現、フランス語、アラビア語で歌っている。プロデュースはティナリウェンやラシッド・タハを手掛けたイギリスのギタリスト/作曲家のジャスティン・アダムズ(Justin Adams)。彼のアイデアで、カントリー、ロック、カリプソ、ボサノヴァ、砂漠のブルースなど、今までの作品より多彩なサウンドとなっている。
 タイトルは、ガロ=ローマ時代に癒しと治癒の力を持つと考えられていた女神セクアナ(Sequana)から名付けられている。このアルバムを聴いて癒されるように、ということだろうか? 彼女の柔らかく、心に寄り添うような歌声と、ギターの音色は確かに癒される。ジャンルにとらわれず、彼女独自の世界観を堂々と表現していて、強さも感じられる。とても気持ちのいい作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)

6位 V.A. · Ears of the People: Ekonting Songs from Senegal and The Gambia

レーベル:Smithsonian Folkways Recordings [-]

 西アフリカのセネガル共和国とガンビア共和国のカザマンス地方に住むジョラ族の伝統楽器「エコンティン」の音楽を集めたコンピレーションアルバム。アメリカのスミソニアン・フォークウェイズからリリース。
 エコンティンは、瓢箪と木の棒、動物の革、釣り糸で作られた3弦のリュート型撥弦楽器で、バンジョーのルーツであるとも言われている。この地方独特の楽器で手作業で作られている。
 本作は、アメリカの民俗音楽学者スコット・リンフォードが2019年に現地で録音、セレクトした全25曲が本作に収録されている。女性も含めた9人のエコンティン奏者たちの演奏と歌が、村の広場や自宅、即席のスタジオなどで録音された。彼らが歌うのは日常的なテーマで、人生、愛や友情、暴力や紛争の苦難、路上爆撃の悲惨な記録など、セネガルの社会を多様に表現している。エコンティンの音が素朴でシンプルなのだが、生命力溢れる歌がなんとも魅力的。家畜の鶏の鳴き声も聞こえるのは気のせいか⁈
 この地方でしか聴けない実に貴重な音源が収録されており、ジョラ族が生きてきた歴史や文化、伝統が込められている。日本の民謡にも聴こえるような歌もあり、ユニークでエネルギーが感じられる作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)

5位 Taraf Syriana · Taraf Syriana

レーベル:Lula World [5]

 シリアの民族音楽に影響を受けたカナダ在住の4人の音楽家によるユニット Taraf Syriana(タラフ・シリアナ) のデビューアルバム。シリア内戦の戦火を逃れカナダに移住したシリア人音楽家、Naeem Shanwar(カヌーン)、Omar Abou Afach(ヴァイオリン・ヴィオラ)を始め、モルドバ出身のアコーディオン奏者 Sergiu Popa、スイス人チェリスト Noémy Braun による構成。彼らはシリアやその近隣諸国の民族音楽を専門にしており、メンバーの中には教鞭を取っているものもいる。パンデミックの最中に結成され、リハーサルはリモートで、初コンサートはオンラインで開催された。
 本作には、シリアや中東の少数民族の伝統的な歌や、ロマの歌、そして彼らのオリジナル楽曲などが収録されている。シリアで最も有名なロマの音楽家 Mohammed Abdul-Karim (1911-1989) が作曲したタンゴの楽曲も収録されており、この地域の民族音楽が多様性に溢れていたことがよくわかる。 
 ゲストヴォーカルに、ロマのギタリスト/歌手の Dan Armeanca、カナダで俳優やミュージシャンとしても活躍しているシリア人 Ayham Abou Ammar が参加し、楽曲に彩りを与えている。また、チェロは本来4弦なのだが、2弦を追加し6弦のものを使用。シタールや東地中海の弓奏楽器ケメンチェ、リュート、ギンブリなどの音をチェロで表現したくて使用しているそうだ。カヌーンとチェロ、ヴァイオリンの弦楽器と、アコーディオンの音の組合せがとても絶妙で素晴らしい。シリアは古くから文化や文明、民族が交差する場所だったということがよくわかる作品。様々な民族的、音楽的背景を持つ音楽家たちによる多様で豊かなアンサンブルが堪能できる。

4位 Acid Arab · Trois

レーベル:Crammed Discs [-]

 結成10年を迎えたパリのエレクトロニック音楽集団 Acid Arab の最新作。タイトル『٣』はアラビア語で3を表す記号で、本作がまさに3作目となる。2012年にパリのDJ、Guido MiniskyとHervé Carvalhoによって結成され、現在はメンバー5人で活動している。中東や北アフリカのサウンドやボーカルと、エレクトロニック・ミュージックやアシッド・ハウスとを融合させ、世界中のフェスティバルやクラブのオーディエンスたちを魅了し続けている。2016年リリースの1stアルバム、2019年リリースの2ndアルバムは、世界的にも大好評を博しており、本作は期待された作品といえよう。いきなり4位にランクインしてくるのも納得!
 本作では、北アフリカやシリア、トルコ出身の8人のゲストヴォーカルを迎えている。アルジェリアのガスバ(ガスバという葦笛を使った音楽ジャンル)、アナトリアのトランス、ダブケやライなどといった中東&北アフリカの多様なスタイルを取り入れ、過去作以上に音楽の領域を越えた作品となっている。深い精神性やサイケデリックも感じられ、高揚感、疾走感もあり、クラブミュージックとしてかなり洗練されている。実に見事な仕上がり!
 1stアルバムの収録曲「Sayarat 303」のPart2となるインストゥルメンタル曲「Sayarat 303 Part 2」も収録されており、過去作と共に楽しめる。来月以降、上位ランクインが期待される作品。

3位 Kimi Djabaté · Dindin

レーベル:Cumbancha [-]

 西アフリカのギニアビサウ共和国出身で現在はポルトガル在住のギタリスト/パーカッショニスト/バラフォン(アフリカの木琴)奏者、キミ・ジャバテの最新作。
 1975年グリオ家系の生まれ。貧しいながらも音楽一家で育ち、3歳の頃バラフォンを与えられ、早くから神童と呼ばれた。彼が演奏することで家族の収入源となった。19歳の時ギニアビサウの国立音楽舞踊団に所属し、ヨーロッパツアーに参加。そのままポルトガルのリスボンに移り住み、地元音楽シーンのネットワークを構築、多くのミュージシャンと仕事しながら独自のサウンドを確立してきた。2019年にはマドンナの「Ciao Bella」にフィーチャリングシンガーとしても参加している。
 初のソロアルバム『Teriké』は2005年に自主制作、2009年には2ndアルバム『Karam』、2016年には3rdアルバム『Kanamalu』を発売、本作が4作目のアルバムとなる。これまでの作品と同様、グリオへのオマージュを込めているが、同時にアフリカの現代生活の複雑さ、喜びと障害についても表現している。アルバムタイトル『Dindin』は、ギニアビサウ北部のマンディンカ族が話すマンディンガ語で「子供」を表す。子供や女性の権利や貧困、教育、宗教など社会的、政治的なテーマを本作で扱っている。
 ギニアビサウの伝統音楽ジャンルであるグンベに、レゲエやアフロビート、カーボヴェルデのモルナや砂漠のブルース、そしてポルトガルのファドなどの多様な音楽が絶妙にミックスされたグルーヴ感がたまらなく心地よい。自身のルーツや、今までのキャリアが凝縮されており、グリオや伝統音楽、母国のギニアビサウやアフリカを、音楽で讃えているのが感じられるアルバム。

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)

2位 Lucas Santtana · O Paraíso

レーベル:Nø Førmat! [1]

 ブラジル・サルヴァドール出身のSSW、ルカス・サンタナの最新作。2019年リリースの前作同様パリのレーベル NO FORMAT! からのリリースで、本作が9作目。1月に初ランクインし、先月は1位!今月も上位キープ!
 タイトル『O Paraíso』とは「楽園(パラダイス)」のこと。パンデミック中に構想された内容で、我々に「楽園はここにある」という発想の転換を促している。自然の美に対する感覚が、実は普遍的なものであるということからインスピレーションを得たそうだ。近年の地球環境問題についての危機へのメッセージも込められいる。
 ルカス自身のギターに、Zé Luís Nascimento のパーカッション、日本に来日したこともあるチェリスト Vincent Segal のチェロなどが加わり、フランス在住のミュージシャンたちが参加している。ブラジル人女性歌手Flavia Coelho、フランスのバンド L'Impératrice の女性歌手 Flore Benguigui もゲストヴォーカルで参加。
 ほとんどの楽曲がルーカスによるオリジナル作品だが、カバー曲2曲収録されている。1974年にリリースされた Jorge Ben Jor の曲「Errare Humanum Est」と、のちにセルジオ・メンデスもカバーしたビートルズの「The Fool on the Hill」で、本作のコンセプトに合わせて選んだようだ。
 カポエィラやマラカトゥのリズムが感じられる楽曲から本作は始まり、彼の世界が広がっている。根底にはブラジルのリズムが感じられ、ジャズやエレクトロニクスがミックスされた独創的なサウンドとなっている。シリアスな内容を扱い、哲学的な内容となっているが、彼の柔らかい歌声や人柄からなのか、繊細で、洗練されたエレガントな作品に仕上がっている。フランス語やスペイン語(これがまたボサノヴァ風で不思議な感じだが良い!)で歌っている曲もあり、ブラジルだけでなくヨーロッパに向け作られていることも推察される。パリのレーベルからのリリースだから本チャートにランクインされたのだろうが、ブラジル音楽としての完成度はとても高い!ルカスの父親はトン・ゼーの従兄弟で、ジルやカエターノと共にトロピカリアを創ってきたプロデューサーの Roberto Sant'Ana(ホベルト・サンタナ)。まさにトロピカリアの継承者であると言える素晴らしい作品。

来月、来日公演があるようです!楽しみ!

1位 Mostar Sevdah Reunion · Lady Sings the Balkan Blues

レーベル:Snail [6]

 ボスニア・ヘルツェゴビナの伝説的なグループ、モスタル・セヴダ・リユニオンの12作目となる最新作。1月に9位で初ランクインし、今月はとうとう1位となった。
 彼らは、ボスニア・ヘルツェゴビナ発祥の伝統的な民族音楽セヴダ(セヴダリンカともいう)を演奏する。ユーゴスラビア紛争の最中1998年に結成され、今年で結成25周年。途中メンバーの死去や新メンバー加入を経て、現在も活動している。セヴダだけでなく、ロマのミュージシャンとも共演したり、セヴダと現代音楽との融合を試みている。1stアルバムは1999年にリリースされ、それ以来様々なワールドミュージックのフェスティバルで演奏し、多くの音楽賞を受賞しているグループ。
 セヴダは短調で感情的なメロディーが特徴で、ブルースやフラメンコ同様に喜怒哀楽(特に哀しみ)を表現し、庶民のための音楽。本作は「バルカン・ブルースを歌う女性」ということで、2017年に加入した女性ヴォーカル Antonija Batinić の歌がメインとなっている。女性の気持ちを歌った伝統的なセヴダの楽曲や、オリジナル曲が収録されている。愛する人を待ち続けている女性や、望まぬ結婚をさせられる女性の気持ちを、彼女の伸びやかで力強くも切ない歌声で感情的に表現している。
 アルバム最後の曲は、2021年ツアー前に亡くなってしまったグループのメンバー Milutin Sretenovic Sreta を偲んで録音された曲。Sreta は2018年にリリースされた前作『The Balkan Autumn』でメインヴォーカルを務めていたキーパーソン。SretaとAntonija が一緒に歌っているこの曲が最後の収録となり、ボーナストラックとして本作に収録されている。上記MV最後の映像が彼が歩く後ろ姿を映しているのだが、背中で別れを告げているようだ。
 地理的なことも影響するのだろうが、東洋的な音階も感じられるセヴダ。現代的にもアレンジされており、非常に聴きごたえのある印象的な作品。

(ラティーナ2023年3月)

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