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[2023.1]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㊳】厳しい戦いの歌のB面で美しく響く — Desalento

文と訳詞●中村 安志 texto por Yasushi Nakamura

 この「シコ・ブアルキの作品との出会い」と、「アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い」との二つの大好評シリーズは基本的に交代で掲載しております。ブラジル・ポピュラー音楽界をリードしてきた、あるいはしている二人の実像はあまり紹介されることはなかったのですが、このシリーズで、もう一度彼らの作品を聴き直して、新たな感動に浸った読者は数多いんじゃないでしょうか?
 今回は、ヴィニシウスの力を借りて仕上げた、美しいラブソング…。味わい深い名曲です。
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編集部


 この連載の27回目で、シコ・ブアルキが、弾圧を逃れ生活していたローマから帰国してすぐに、真正面から体制を批判してみせたApesar de vocêという、とても重い内容の作品を紹介しました。

 シコの長い活動の中でも、最も厳しい圧力を受けていた頃の作品と位置付けられる作品で、祖国の状況が改善していると思って戻ったというのに、むしろ人権抑圧は深刻化していたことが後で判った中でも、この曲を世に出すことになったシコ・ブアルキの声には、1枚重さが加わっているようにも感じられます。それもそのはず。シコは、幼少時から家族ぐるみで親しくしてきた作詞家のヴィニシウス・ジ・モライスから、「決断し祖国に戻る以上、かなりの騒音を立てて帰るべきだ」との助言を受けていたのです。

シコ・ブアルキが、幼少時から家族ぐるみで親交を得ていた、
名作詞家のヴィニシウス・ジ・モライス

 英断の結果、この曲を収めたシングル盤は、厳しい弾圧の時代にありながら、10万枚もの売り上げを記録しました。曲の引き起こした社会的反響が関係していますが、同時に、このシングル・レコードのB面に、打って変わって思想の一欠片も見せない、美しいラブソングが収録されていることも、人気を更に高めたのではないかと思われます。

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