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[2022.6]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉗】独裁に刃向かったはずが最初取り締まられなかった歌 ⎯ 《Apesar de você》
文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura
中村安志氏の好評連載「アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い」と「シコ・ブアルキの作品との出会い」は、基本的に毎週交互に掲載しています。今回は、シコの別な意味で禁止になった名曲です。外交官として長くブラジルに滞在した中村氏だから書けるエピソードです。お楽しみ下さい。
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この連載では、シコ・ブアルキが巧みな言葉の芸術を用い、一見そう見えない別な内容を歌っているようで、実は鋭い政治批判が込められているといった例を、何度かご紹介してきました。特に、1964年から20年以上続いたブラジルでの軍政を糾弾した作品が多く残されています。
そうした中で今回ご紹介する作品は、「あなたがどうであれ、人々は承服していないし、朝日が昇ることをあなたが止められないように、この世の中は自ずと自らの意志で回っていく」等々と述べたApesar de você(あなたがどうであろうとも)という歌です。
歌詞を追ってみましょう。語りかける相手を「あなた」という代名詞だけで指し、具体的に誰かは明示されていません。しかし、聞いているうちに、続々と出てくる「あなた」という人物がしでかしているのは、「暗闇を作り出した」であったり、時の権力者や当局を指していることが誰にも暗黙に理解できる内容となっています。
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