見出し画像

[2022.10] 【連載アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い㉛】盟友に頼らずとも見事なジョビンの歌詞 - Luiza

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 中村安志氏の大好評連載「アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い」と「シコ・ブアルキの作品との出会い」は、基本的に毎週交互に掲載しています。今回は、依頼したシコの詩が上がって来ず、自身が詩も書いた名曲のご紹介です。

※こちらの記事は10月12日(水)からは、有料定期購読会員の方が読める記事になります。 定期購読はこちらから。

編集部

 この連載の23回目の記事では、TVドラマ用にジョビンに委嘱された名曲Anos dourados(黄金の年月)のため、シコ・ブアルキに託された歌詞が、シコのあれほどの才能にもかかわらず、ドラマ放映開始に間に合わなかったというお話をご紹介しました。また、連載5回目でご紹介した有名な曲Waveについても、最初は歌詞のない状態で推移し、途中でシコ・ブアルキにジョビンが歌詞制作を依頼したが、いつまでも完成せず、最後ジョビン自身で歌詞を書き上げてしまったというお話もお伝えしました。

 今回は、シコが歌詞を頼まれながら、なかなか完成できなかったもう1つの有名なジョビンの曲、Luizaについてお届けします。この歌は、TVグローボのBrilhante(輝くもの)というドラマの主題歌として委嘱されました。ミス・ブラジルにも選ばれた美人女優ヴェラ・フィッシェルが主演しており、放映当時、このヴェラのために作られた作品だとも噂されたようです。

ドラマ「Brilhante」のオープニング

 いくつかの逸話が伝えられていますが、特に目に止まるお話として、リオ旧市街のラパにあるバーで、ジョビンがウイスキーを片手に作曲家仲間や音楽ファンと過ごしていたひととき、強いにわか雨が来て、店のひさしの下に雨宿りをしにきた美しい女性の姿をジョビンが見咎め、話しかけようと歩み始めたところ、雨が急速におさまり、香水の匂いとルイーザという名だけを残し姿を消してしまった。この出来事が歌の発想のもとになっているという説が、あります。

 実際に歌詞を追っていくと、ルイーザという女性と歌の主人公である男性との間には明らかな距離があり、男性は片思いのまま、相手になどされていません。「君を忘れるために作ったこの歌を、今聞いてくれ、ルイーザよ」と、近づけないまま彼女のことを忘れようとしている心情が描かれています。

ここから先は

1,995字 / 1画像

このマガジンを購読すると、世界の音楽情報誌「ラティーナ」が新たに発信する特集記事や連載記事に全てアクセスできます。「ラティーナ」の過去のアーカイブにもアクセス可能です。現在、2017年から2020年までの3.5年分のアーカイブのアップが完了しています。

「みんな違って、みんないい!」広い世界の多様な音楽を紹介してきた世界の音楽情報誌「ラティーナ」がweb版に生まれ変わります。 あなたの生活…