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世界の音楽情報誌「ラティーナ」

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2022年11月の記事一覧

[2022.11] 【島々百景 第77回】 粟国島 沖縄県

文と写真:宮沢和史  1999年の12月に公開され瞬く間に沖縄のみならず全国で大ヒットした沖縄映画がある。中江裕司監督の『ナビィの恋』である。数ある沖縄をテーマにし、沖縄で撮影された映画の中で興行的に最も成功した作品ではないだろうか。  何らかの理由で都会から生まれ故郷の沖縄県の小さな島に戻ってきた主人公の菜々子(西田尚美)。島へ渡る船で島には似つかわしくないダンディーな老人(平良進)を見かける。実はその老紳士は菜々子のおばあ(平良とみ)の昔の恋人で南米から60年ぶりに島

[2022.11]【太平洋諸島のグルーヴィーなサウンドスケープ㉘】 アオウミガメの旅 ―小笠原で生まれ、育まれた子どもの歌―

文●小西 潤子(沖縄県立芸術大学教授)  世界的に個体数が減り、絶滅も危惧されるアオウミガメの日本最大の産卵地が小笠原です。小笠原海洋センターは、魚類や鳥類などの天敵から捕食される確率を低くするため、父島の海岸で回収した卵を人工ふ化し、数ヶ月飼育して放流しています。アオウミガメは、採食を行う地域と産卵地の間を回遊することが知られています。小笠原諸島で産卵する個体群は、南日本や南西諸島で採食することが知られますが、放流した個体が東のハワイの手前に向かった例も観察されています。

[2022.11]【境界線上の蟻(アリ)~Seeking The New Frontiers~2】 Fulu Miziki(コンゴ民主共和国)

文●吉本秀純 Hidesumi Yoshimoto  コンゴ民主共和国発のポピュラー音楽といえば、その代表格は言うまでもなくルンバ(スーク―ス、リンガラ音楽)。しかし、2000年代に入った頃から注目されるようになってきたのが、廃車の部品や使用済みのポリタンク、空き缶といったキンシャサの街に転がっている〝ジャンク品〟を改造して組み立てた自作楽器を使ってユニークなサウンドを奏でる面々だろう。電気増幅した親指ピアノで世界中にインパクトを与えたコノノNo.1もマイクやスピーカー、打

[2022.11]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㊱】キューバで親交を持った盟友の歌 — Yolanda

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura  この連載の第17回目の記事では、映画の主人公の心の中で蠢めく欲望を示すかのような歌詞が続く中で、「頭の中や口の中で蠢めく何か」など、表現の自由を奪われている当時の時代の人々の本音を間接的に表しているとされる、O que seráという歌を扱いました。  この歌をめぐって、作者のシコ・ブアルキは、革命後のキューバの様子を伝えるカメラマンのフェルナンド・モライスが見せてくれた写

[2022.11][悲報]ヌエバ・トローバの創設者、パブロ・ミラネス、マドリードで死亡!

編集部  キューバの偉大なシンガー・ソングライター、パブロ・ミラネスのFBに掲載されたこの一文に世界は嘆き悲しんだ。 「大きな痛みと悲しみをもって、巨匠が今朝11月22日未明、マドリードで亡くなったことをお知らせします」  パブロ・ミラネスは、ここ数年は体調不良で、ステージを離れることはあっても、ステージへの愛着は人一倍だった。事実、この11月30日に、メキシコシティの市立劇場であの素晴らしい声を満員の聴衆に聞かせることになっていたし、その後も、新年の2月からスペイン公

[2022.11] Bs. As. Tokyo Connection 2022 ~ブエノスアイレスと東京を結ぶ、新たなシーンへ~

文●斎藤充正  アストル・ピアソラの孫であるドラマー、ダニエル・ピピ・ピアソラらとのエスカランドゥルムや、バンドネオンのルシアーノ・フングマンらのラ・カモーラ、自身のセステートやトリオ、そしてアストル・ピアソラ財団キンテートなどで活躍を続けてきたピアニストでアレンジャー、コンポーザーのニコラス・ゲルシュベルグ。  片や、5人組ユニットのLAST TANGOを率い、幅広いジャンルのアーティストたちとも共演を続けるヴァイオリン奏者の柴田奈穂。昨2021年12月には、座・高円寺2

[2022.11]【琉球音楽周遊❺】 ~宮古島の島うた①| 宮沢和史

文●宮沢和史 *以下敬称略  宮古島では五穀豊穣、弥勒世を願う祈願、感謝のために神と交信しようという神唄が多く歌われてきた。その一方で、島にまつわる重要人物についての物語を記すものや、教訓歌など、島民の生活の営みを歌にしたものを「アーグ」ないしは「アヤグ」と呼ぶ。宮古島は山の無い平面的な地形で、水を確保するのが大変困難で干ばつに苦しんできた歴史をたどっている。そのため、歌による神との交信が頻繁に行われ、雨乞いの歌である “声合” の歌たちを大勢で歌い踊る文化も発達した。こ

[2022.11]速報!2022年ラテン・グラミー各賞発表

編集部 第23回目になるラテン・グラミー賞が、11月27日(木)、ラスベガスのマンダレイベイ・リゾート&カジノにあるミケロブ・ウルトラ・アリーナで開催され、各賞が発表になった。  ウルグアイのホルヘ・ドレクスレルは、C・タンガナとの「Tocarte」で年間最優秀歌曲と年間最優秀レコード、フェルナンド・ベラスケスとの「El plan maestro」で編曲賞、マリーザ・モンチとの「Verdo Sardo」でポルトガル語の歌曲賞の6部門でノミネートされ、その中から最優秀賞を獲

[2022.11]【中原仁の「勝手にライナーノーツ」㉘】 Russo Passapusso, Antonio Carlos & Jocafi 『Alto da Maravilha』

文:中原 仁  まだ地元バイーアでもオルタナティヴな存在だった2013年夏に初来日、フジロックに出演し東京でもライヴを行なった、バイアーナシステム。2017年、バイーアのカーニヴァルで大ブレイク、今ではバイーアのアフロ・ミクスチャー・ポップをリードする存在のバンドとなった。 BaianaSystem 2013/7/29 at 渋谷WWW  バイアーナシステムの頼もしいフロントマンが、来日公演でも抜群の声の存在感を発揮していたフッソ・パッサプッソ(1983~)。2014年

[2022.11]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2022年11月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。 20位 VRï · Islais a Genirレーベル:Bendigedig [23] 19位 Okra Playground · Itkuレーベル:Nordic Notes [-] 18位 BKO

[2022.11]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉟】 上からでも下からでも読める歌詞 — Corrente

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura  シコ・ブアルキは、ポルトガル語の歌詞を、実に巧妙に操ります。多くの作品において、誰かを批判した内容であるのに、そう見えない歌詞になっていたり、文脈や着眼点次第で二重三重にも異なる意味を感じ取ることができる複雑な作品があったりと、卓越した技を見せてきたことについて、この連載で何度かご紹介してきました。  中には、体制批判の歌に数えられる作品とみられつつも、表面上は一切非難する

【追悼】[1998.06]ガル・コスタ、女王の全ディスコグラフィ

文と資料●中原 仁 本欄ご紹介作品中、◯つきの番号のアルバムが単独リーダー作。 ●特記のあるもの以外、すべてCDの番号です。 1 カエターノ、ガル、ジル&ベターニア 参加曲目: ② EU VIM DA BAHIA ④ PRA QUE MENTIR? ⑥SOL NEGRO ⑧ SIM, FOI VOCÊ ⑪ SORTE まだマリア・ダ・グラッサと名乗っていた時代の66年に発表したデビュー・シングルが「エウ・ヴィン・ダ・バイーア」(ジル作)と「シン、 フォイヴォセー

【追悼】[1998.06]ガル・コスタ 彼女の歌人生を集約した最高のショー『アクースチコ』

文●本田健治 texto por KENJI HONDA  俺はガル・コスタのショーに関しては、ほとんどすべて観てきているけれど、今度の「アクースチコ」は凄い。レパートリー、ミュージシャン、アレンジどれをとっても、彼女のキャリアの中でも恐らくベストのショーと言えるんじゃないか。でも、これをやってしまったら、後が心配だ。何故かって、このショーはガルの今までのキャリアの中でのいわゆる名演、名唱と言われた曲をすべて網羅した、ある意味ではベスト・アルバムみたいなものだ。ここ数年の彼

【追悼】[1998.09]ガル・コスタ インタビュー〜30年の道のりを経て成熟した今、生まれ変わった歌の女神〜

文●原田千佳 写真●斉藤憲三  1998年。 すぐそこで待ち構えている21世紀に向かって、世界はとめどもない速度で動いている。世界のどこの街に住んでいたとしても、あと2年後にこの世がどうなっているかなんて、誰に想像がつくだろう。  ガル・コスタにとって1998年という年は、トロピカリズモが30周年、ボサノヴァが40周年を迎えたと同時に、自ら30年の間に築いてきたキャリアを見直すという意味で重要な1年なのだと彼女は言う。 「98年は物事が新しくなった年。いろんなお祝いごとが