マガジンのカバー画像

世界の音楽情報誌「ラティーナ」

「みんな違って、みんないい!」広い世界の多様な音楽を紹介してきた世界の音楽情報誌「ラティーナ」がweb版に生まれ変わります。 あなたの生活を世界中の多様な音楽で彩るために、これか… もっと読む
このマガジンを購読すると、世界の音楽情報誌「ラティーナ」が新たに発信する特集記事や連載記事に全てア… もっと詳しく
¥900 / 月
運営しているクリエイター

#宮沢和史

[2023.12]8月の南米ツアー報告~②ペルー編 『パンデミアを経た南米のウチナー社会』

文と写真●宮沢和史  それ以前に単独で海外渡航を試みた日本人は存在したが、明治元年に150人の移民団が日本からハワイに渡ったことからアメリカ大陸における日系移民史は幕を開ける。沖縄の社会運動家當山久三と平良新助らが1899年に沖縄から移民団30名を送り出した目的地もやはりハワイだった。日本からの移民団はハワイに加えてアメリカ本土へも上陸していくが、勤勉に働き、農業において成功する者が台頭するにつれ、アメリカ社会から日系移民への差別意識が高まることとなり、日本人排斥運動へと発

[2023.11]8月の南米ツアー報告~①サンパウロ編 『パンデミアを経た南米のウチナー社会』

文●宮沢和史 写真●Val Ferrer、宮沢和史  新型コロナウイルスが世界を占拠した間、海外渡航はおろか、緊急事態宣言や、蔓延防止法などというものが発出されると、都内からも出られず、公園や河川敷などを散歩して運動不足の解消をしたりしていたものだ。都内はそういった場所ほど混雑していたことがが思い出される。考える事はみな同じなのだ。  当時、世界の感染者数をチェックしてみたら、自分がよく行く国、もしくは行ったことがある国がワーストランキングの上位の多くを占めていて、自分が

[2023.5]【島々百景 第83回】 第二節 あとがきにかえて

●文と写真:宮沢和史  以前、この『島々百景』をまとめて書籍化したのだが、あれから時が流れ、一定数のページが貯まり、このたび “第二節” として発表することになった。まずはこの場を借りてe-magazine LATINAの編集部の皆さん、文中に登場してくださった方々、そして、何よりもこの連載を応援し購読してくださった方々に心からお礼を申し上げたい。  宮沢がこれまで出会ってきたislandとしての “島” を紹介するところから始まった連載ではあるが、「自分たちのテリトリー

[2023.4]【島々百景 第82回】 船浮 西表島 沖縄県

●文と写真:宮沢和史  コロナで丸々4年間も開催することができなかった沖縄県西表島船浮集落の “船浮音祭り” に4月15日に出演した。実は昨年2022年の音祭りの発案者であり、主催者であり、プロデューサーでもある船浮出身のシンガーソングライター池田卓君に声をかけてもらっていたのだが、新型コロナ感染者数が急激に増加した波に飲まれ、残念ながら開催は叶わなかった…。文字通り満を持して行われた4月15日当日は朝からシトシトと雨が降り始め、最後まで上がることはなかったが公称600人集

[2023.4]追悼 : 坂本龍一が去った世界

文●宮沢 和史 texto por Kazufumi Miyazawa  何から書き始めていいか分からない。坂本さんの音楽への思いや、坂本さんとのいくつかの思い出を語れば、与えられた文字数でこの原稿を埋めることはできるだろう。だが、そんなものはどうでもいい気がしてきた。世界中の音楽家、音楽ファンの心に流れていた大きなひとつの水系を我々は失くしてしまったのだ。今はまだその水脈の素晴らしさや、そこからいただいた恵み、そこでの思い出を語る気にはなれない。  世界中の音楽家、音楽

[2023.3] 【島々百景 第81回】 端島 長崎県

文と写真:宮沢和史  江戸時代後期に長崎県沖で見つかった大規模な炭鉱を明治20年代に民間が買い取り、埋め立て工事をして人工島とした “端島(はしま)” をご存知だろうか? 島全体を護岸堤防で固め、採掘するための巨大な施設、そこで働く人達が家族単位で暮らすための団地や公共施設、映画館などの娯楽施設や神社なども完備された天空の城ならぬ、まさに海上の城...。その姿が軍艦土佐を連想させることから“軍艦島”という愛称で長い間親しまれてきた。人口の増加に伴い、島自体が拡張され、ピーク

[2023.2] 【島々百景 第80回】 ブエノスアイレス② アルゼンチン

文と写真:宮沢和史  南米の国土の広い国々の地図を見ていると、長年培った日本的な “縮尺感覚” が当てはまらずに自分自身のサイズを見失うような感覚によく落ち入る。例えば、川沿いにいくつか集落があったとして、経験値から川幅を参考に集落間の距離を推測してみようとするものの、実際はその何倍もの距離だったなんてことがよくある。  アルゼンチンのブエノスアイレス市は海に面しているように見えるがそうではなくてラ・プラタ川の河口に位置している。そこから海水浴をするために有名なビーチであ

[2023.2] 【書評】 大石 始 『南洋のソングライン―幻の屋久島古謡を追って』

文●今福龍太(文化人類学者)  屋久島に伝わる古謡の幽かな響き。その、南の海の島々を結ぶか細い音の糸の謎めいた曲がりくねりを丹念にたどりながら、人々よって守られてきた伝承の、無数のささやき声に静かに聞き耳をたてる旅人。そんな著者の「旅人」としての真摯さと謙虚さにまず印象づけられる。  旅はたしかに現代人にとってはかけがえなき自己探求の手段だ。だがその探求は、自分が何者であるかを知るだけでなく、何者でないのかを知り、さらには自分のなかに潜む得体の知れない他者を見出すことでも

[2023.1] 【島々百景 第79回】 ブエノスアイレス① アルゼンチン

文:宮沢和史  この3年間は南米からすっかり足が遠のいた。南米に限らず自分は一度も国外へは出ていない。「2023年こそは南米で歌が歌える」と意気込んでいたものの、もはや、第何波なのか知らないが、去年の11月から1日の感染者数が増加に転じ、クリスマスと正月休みをきっかけに感染者数を示すグラフが再度高波状態に推移している。ゼロコロナ政策をあっさり放棄した中国では春節を前に人口の半分弱、メディアによってはもっとずっと多くの人が感染したと伝えている。かたや、サッカーワールドカップ 

[2022.12] 【島々百景 第78回】 多良間島 沖縄県

文と写真:宮沢和史  宮古島諸島に属する多良間島だが、島からの距離を正確に測るとむしろ石垣島に近いという。要するに宮古島と石垣島のほぼ中間地点にポツンと浮かぶこの島に自分はずっと渡ってみたかった。いつかはご縁があるだろうとその機会をうかがっていたが、なかなかその時は訪れない。「そんなにかしこまらずに、宮古島に行ったついでに訪島すればいいものを…」という声が聞こえてきそうだが、この連載の中で紹介してきた80カ所近いシマはとは必然とまでは言わないが運命で結ばれた気が勝手にしてい

[2022.11] 【島々百景 第77回】 粟国島 沖縄県

文と写真:宮沢和史  1999年の12月に公開され瞬く間に沖縄のみならず全国で大ヒットした沖縄映画がある。中江裕司監督の『ナビィの恋』である。数ある沖縄をテーマにし、沖縄で撮影された映画の中で興行的に最も成功した作品ではないだろうか。  何らかの理由で都会から生まれ故郷の沖縄県の小さな島に戻ってきた主人公の菜々子(西田尚美)。島へ渡る船で島には似つかわしくないダンディーな老人(平良進)を見かける。実はその老紳士は菜々子のおばあ(平良とみ)の昔の恋人で南米から60年ぶりに島

[2022.11]【琉球音楽周遊❺】 ~宮古島の島うた①| 宮沢和史

文●宮沢和史 *以下敬称略  宮古島では五穀豊穣、弥勒世を願う祈願、感謝のために神と交信しようという神唄が多く歌われてきた。その一方で、島にまつわる重要人物についての物語を記すものや、教訓歌など、島民の生活の営みを歌にしたものを「アーグ」ないしは「アヤグ」と呼ぶ。宮古島は山の無い平面的な地形で、水を確保するのが大変困難で干ばつに苦しんできた歴史をたどっている。そのため、歌による神との交信が頻繁に行われ、雨乞いの歌である “声合” の歌たちを大勢で歌い踊る文化も発達した。こ

[2022.11]大城クラウディア デビュー15周年記念作品リリース・インタビュー

インタビュー・文●東 千都(ラティーナ編集部)  今年でデビュー15周年を迎えるアルゼンチン出身の歌手、大城クラウディアが、15周年記念作品として、10/5に両A面シングル「我島沖縄/新世ぬはじまい」をリリースした。リリースすることになった経緯やその思い、またこれまでの活動についてインタビューを行った。 (インタビュー:10/27 ラティーナにて) ●CDについて ── 10/5に両A面シングル曲「我島沖縄/新世ぬはじまい」をリリースされました。「世界で暮らすウチナーン

[2022.10] 【島々百景 第76回】 慶良間諸島 沖縄県

文と写真:宮沢和史  沖縄本島那覇市の泊港からフェリーで一時間ほど西へ進むと、圧倒的な海の青さを誇る島々に渡ることができる。そう慶良間諸島である。沖縄県の海の青さといえば宮古島や八重山を思い浮かべる方が多いと思うが、沖縄本島から高速船に乗れば35分程度で行ける30km強の距離(泊港から恩納村への直線距離にほぼ等しい)にありながらその海の美しさには誰もが息を飲むはずだ。“○○○ブルー” という言い方を耳にすることが多いが “ケラマブルー” と表現される青はきっと多くの人の経験