マガジンのカバー画像

Web版 2022年3月

18
2022年3月に新規にアップした記事のみが収められているマガジンです。こちらでアーカイブ記事は読めませんので、アーカイブ記事も購読するには定期購読マガジンの「ラティーナ」(月額9…
¥950
運営しているクリエイター

#中村安志

[2022.3]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉒】大西洋の向こうの国の革命に送った祝福の歌 - 《Tanto mar》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura  1978年のシコのアルバム『Chico Buarque』において目立つのは、この連載の第1回目にご紹介した「Cálice」(ワイングラスとも聞こえるし、「黙れ」と命令されているようにも聞こえる歌)や、誰に向かってであるかは曖昧にした格好で、「あなたがどうであろうと違う日が来る」と説く「Apesar de você」など、軍政による独裁と人権抑圧を強く糾弾する歌ですが、遠く大西

[2022.3] 【連載 アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い⑲】 これはショパンのプレリュード? - 《Insensatez》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura  ボサノヴァの人気レパートリー「Insensatez」(愚かなこと。1961年作)は、元恋人らしき相手が去ったことを悲しみながら、「僕の繊細な心を傷つけた君は、なんて愚かなのだ」と独白する内容で歌われる名曲。どこか寂しげなトーンと、ゆったりと流れるシンプルなメロディーが心を打つのでしょうか。ブラジル内外の多数のアーティストに、演奏されています。    ⬆名手ジョアン・ジルベル

[2022.3]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉑】 女性のために歌ったが、批判を受け、歌わないことを宣言した作品 – 《Com açúcar, com afeto》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura  今年1月の終わり頃、リオから意外なニュースが飛び込んできました。軍政や大規模開発などを通じ、厳しいことの多かった60年代以降のブラジルにおいて、弱い立場にあった女性の身になって歌う歌を長年送り出しヒットさせてきたシコ・ブアルキが、その部類の名作とされるはずの曲の1つについて、フェミニスト運動家たちの批判も踏まえ、「この歌は、自分のレパートリー(作品目録)から除外し、今後は歌い

[2022.2] 【連載 アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い⑱】おそらく初作と言われる初期の作品 - 《Imagina》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura  ジョビン・ファンの間でよく知られる後年のアルバムで、彼の還暦を記念し、未発表の録音などを盛り込んだ『Tom inédito(未出のトン)』という2枚組アルバム(1987年)。これに収められている1曲ですが、曲の制作はかなり初期、おそらくこれが最初の作品ではないかとも目されている作品があります。「Imagina(想像してごらん)」という歌です。  作曲された当初は、「感傷的ワ

[2022.3] 【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い⑳】多様性溢れる国でのアイデンティティと、マエストロ・ジョビンへの敬意 - 《Para todos》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura  日本の面積の22倍半という、広大な国土を擁するブラジル。カリブ海側、赤道をまたぐアマゾンの熱帯から、冬に雪も舞う南部まで、地域ごとの自然、文化、社会などが非常に多様であることは、大きな特徴です。  シコ・ブアルキは、リオデジャネイロという街で暮らしながら、この旧都市に各地から渡ってきた人々と共生する中で、歌を創作しています。実家のお手伝いさんはリオグランデドノルテという北部