[2024.1]Best Albums 2023 ④
2023年ベストアルバムを選んでいただきました!
(カタカナ表記のものは国内盤として発売されています)
●清川宏樹
個人的には、コロナ禍を経てタンゴへの熱狂はやや冷めてしまったようで、少し距離を置いて過ごした1年だった。溌溂とした新鮮さと驚きに満ち、かつタンゴとしてのアイデンティティを持った新作は、実はあまり多くないのかも知れない。けれどもここに挙げた作品(①~⑤)には、新しい音への野心や、先人たちへの敬意といった、リスナーを惹きつける磁力を感じた。①は古典タンゴの様式美をモダンの方向へ最大限に拡張した編曲が見事。②からは世を去ったマエストロへの敬意と、音楽を継承する決意を感じた。自身の音楽性をブレることなく追求し続ける③、現代社会をコンテンポラリータンゴに投影した④からは、リーダーの人間性を色濃く感じられた。相変わらずのグレコ兄弟の躍動⑤が聴けたのも個人的に嬉しい。
タンゴ以外では、溢れんばかりの美しさと瑞々しさを湛えたアルゼンチンピアニストの作品⑥⑦と、バンドリンの名手による超絶作⑧が見事。日本からは、ピアニスト西山瞳による過去作とは一線を画す⑨、そして嬉しい驚きとなったLampによる新作⑩を挙げた。
(番号は順不同)
① Vanguardia Vieja / Por Las Astas
② Color Tango / Sentido Unico
③ Ramiro Gallo Quinteto / Alquimia
④ Juan Pablo Navarro Septeto / Visiones Pandémicas
⑤ En Desórbita / La historia imperfecta
⑥ Fabio Cadore, Hernan Jacinto / Acto 3
⑦ Rolo Rossi · Joaquín Corso · Fernando Caballero / Colibrí
⑧ Hamilton de Holanda Trio / Flying Chicken
⑨ 西山 瞳 / Dot
⑩ Lamp / 一夜のペーソス
●鈴木一哉
タンゴ界きっての巨匠の元夫妻が再会した①は、完成したスタイルの安定感の中に瑞々しい感性を湛えて感動的。②はラミーロ・ガジョの個性が横溢したタンゴ新作からなる80分超の大作。作曲・編曲を担当するサンティアゴ・ベラ・カンディオティ (gui)のもと、ダミアン・フォレティック(bn)、大長志野(pf)らの腕利きメンバーからなる五重奏団の2作目③は、現代タンゴの歴史を踏まえつつ前進する気概に溢れる。昨年来日したデュオによる④は、タンゴ名曲に付随する長い編曲史の壁を軽々と超えて新鮮なアレンジを提示。若手バンドネオン奏者による自作中心のファースト・アルバム⑤は、ビクトル・ラバジェン(1曲目に参加)からの影響と思われる非線形な展開で予定調和から外れていく音楽性を評価したい。ロサリオ市で独創的な活動を繰り広げているオルケスタ・ティピカの3作目⑥は、すべてオリジナル作品で演奏内容も含めて攻めの姿勢を保つ。⑦は現代音楽や現代即興の要素の導入によって前衛タンゴを極限まで脱構築する。キルメス市で活動する五重奏団の新編成での2作目⑧は、ディエゴ・スキッシからの影響も感じさせる新感覚タンゴを目指す。ベテランのフルート奏者フリアン・バットと若手ギター奏者ラミーロ・ファルブのデュオによる⑨は、超絶テクと歌心が同居し、この上なくスリリングなピアソラ作品集。ピアノ・ソロによるタンゴ名曲集⑩では、ジャズ的感性を加味しつつも、曲自体に内在する深いタンゴ性が滲み出てくる静謐な演奏に沈潜してしまう。
現代タンゴのアルバムに絞っての選出(順不同)
① SUSANA RINALDI, OSVALDO PIRO / Reencuentro
② Ramiro Gallo QUINTETO / Alquimia
③ VANGUARDIA VIEJA / POR LAS ASTAS
④ ASATO - PAIS / AQUELLOS TANGOS DE CÓDIGO ABIERTO
⑤ BRUNO LUDUEÑA / DE BARRO Y ASFALTO
⑥ ORQUESTA UTÓPICA / CORTAFUEGO
⑦ JUAN PABLO NAVARRO SEPTETO / VISIONES PANDÉMICAS
⑧ UMBLARES QUINTETO / PASEO
⑨ JULIAN VAT – RAMIRO FARB / ESCUALO
⑩ Juan Carlos Cirigliano / A solas con el tango y algo más
●西村秀人(PaPiTa MuSiCa共同代表)
...西原なつき、廣津留すみれ、ロモ、アグリも参加した在米ピアニストのアルバム①、ロサリオのトップバンドネオン奏者による自作中心のアルバム②、ディエゴ・スキッシの先鋭ピアソラ作品集③、ヨーロッパで大活躍、2023年は日本にも来た実力派コンビの初アルバム④、日本未公開だが、独=亜合作タンゴ映画のサントラ⑤、タンゴ歌手KaZZmaの初アルバムはギター伴奏のガルデル集⑥、小松亮太の新作は懐かしアニメ主題歌を見事にタンゴ・アレンジ⑦、ロサリオの人気SSWベネガス、コリエンテスのアコーディオン奏者チアバリーノ、タンゴもフォルクローレも自在に操るピアノ奏者トルトゥルが組んだリトラル音楽へのトリビュート⑧、フランチェスカ・アンカローラ、カルロス・アギーレらが軍政時代後期に活躍したチリの偉大なSSWの曲をカヴァーしたアルバム⑨、アコーディオン奏者青木まさひろがファクンド・ロドリゲス・トリオを招いた、何とも楽しい日本でのライヴ(2021年)⑩。
① Típica Messiez / Psicoporteño
② Orquesta de Carlos Quilici / Nosotros los del tango
③ ディエゴ・スキッシ・キンテート / アピアソラード(Diego Schissi Quinteto / Apiazolado)
④ Asato-Pais / Aquellos tangos de código abierto
⑤ Carlos Morel, Fulvio Giraudo, Nicolás Enrich., Humberto Ridolfi etc / Adiós Buenos Aires (Original Sound Track)
⑥ KaZZma(カズマ)/ カルロス・ガルデルを歌う
⑦ 小松亮太 / コラソン・デ・アニソン
⑧ Julián Venegas, Homero Chiavarino, Joel Tortul / Gurupá
⑨ Francesca Ancarola, Simón Schriever, Carlos Aguirre, etc / Canciones de Hugo Moraga
⑩ ファクンド・ロドリゲス・トリオ、民族音楽ようそろ~ず、ポチェット/チャマメ・エン・ハポン・エン・ビーボ!!
●吉村俊司
年末ギリギリに飛び込んできたすごいアルバムが1972年コロン劇場でのライブ録音①②。これまで公開されていた音質劣悪なYouTube映像とは比べ物にならないクリアな音質で、映像未収録の曲目も含まれる完全版。必聴。③は大作に新たに挑んだ日本の音楽家たちの素晴らしい記録。④は踊れない私でも踊りたくなるタンゴの数々に1曲だけ入ったピアソラも秀逸。タンゴ界最高のYouTuberデュオによる開かれたタンゴ⑤はモダンで自由。同じく自由、かつ過激なピアソラ再解釈ながらオリジナルへのリスペクト溢れる⑥もすごい。⑦はガツンとロック。結成15周年を迎えたオルタナ系トリオのスタジアムライブ。以降はSpotifyで偶然出会ったアルバムたちで、⑧はボストン在住ウルグアイ出身ジャズピアニストと多彩なゲストによる母国の鬼才の作品集、⑨はアフロ・フューチャリズムのブラジル的展開、⑩は弦楽と多彩なブラジルのリズムの交錯。
① Astor Piazzolla y su Conjunto 9 / Teatro Colón 1972
② Horacio Salgán y su orquesta / Teatro Colón 1972
③ タンゴケリード主催柴田奈穂プロデュース / 歌劇「ブエノスアイレスのマリア」
④ トリオ・ロス・ファンダンゴス / 8
⑤ Asato Pais / Aquellos tangos de código abierto
⑥ ディエゴ・スキッシ・キンテート / アピアソラード(Diego Schissi Quinteto / Apiazolado)
⑦ Eruca Sativa / XV Años - En Vivo Estadio Obras
⑧ Nando Michelin / The Magical Universe of Eduardo Mateo
⑨ Red Hot Org / Red Hot & Ra: SOLAR
⑩ Wanessa Dourado / Em Volta da Fogueira
(ラティーナ2024年1月)
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