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【e-magazine LATINA】の編集長が聴いてほしいラテングラミー2020受賞曲からの5曲[12/3更新]

[無料記事][2020.12.3]

文●花田勝暁

 こんにちは〜! 今回は、【e-magazine LATINA】 の編集長の花田が特に聴いて欲しいと思った曲を新譜5曲を紹介するシリーズの特別編。
 11月下旬に発表されたラテングラミーの受賞作から、独断で5曲(+1曲)を紹介したいと思います。個人的意見で選んでいますが、先週「ラテングラミー2020受賞作を聴こう!」というエントリーの中から自分でも全作聴いてみました。

 では、早速、厳選した5曲を観て・聴いて下さい!

1曲目。Natalia Lafourcade「Mi Religión」

 今年のラテングラミーの一番の顔は、3部門で受賞したメキシコの歌姫(SSW)、ナタリア・ラフォルカデ(1984年生まれ)だろう。
2002年にアルバムデビューし、天性のポップセンスで、00年代は才能溢れるポップ・アイコンとして活躍したナタリア・ラフォルカデは(2010年には来日公演も行っている)、10年代に入ると、メキシコのフォルクローレを意欲的に取り上げるようになった。
 今回のラテングラミーで、彼女は「アルバムのレコード大賞」「最優秀オルタナティブ楽曲(1989年生まれのプエルトリコ出身の女性シンガーiLEとの共作曲での受賞)」「最優秀リージョナル楽曲」の3部門で受賞しており、彼女のポップスをやったときの新しさも、彼女のルーツ志向での成熟も、そのどちらも広く認められているということが表れた結果だ。
 この楽曲「Mi Religión」での街角の人々の反応を見ていると、メキシコ人全員が彼女のことが大好きなんじゃないかって思えてくる。


2曲目。Rosalía & Ozuna「Yo X Ti, Tu X Mi」

 鋭利なポップセンスで、自身の音楽にフラメンコを革新的に取り入れた独自のスタイルで人気に火がついたスペイン出身の女性シンガー(SSW)、ロサリア。
 米国のマーケットも見据えて広く北米&中南米に進出しているのかという気配は感じていたが、今回のラテングラミー賞で「最優秀アーバン・フュージョン/パフォーマンス」「最優秀アーバン楽曲」(こちらの2部門はプエルトリ出身のレゲトン/ラテントラップのシンガー、オズナとの共演曲「Yo X Ti, Tu X Mi」での受賞)「最優秀ミュージックビデオ」(ヒューストン出身のラッパー、トラヴィス・スコットとの共演曲「TKN」)という3部門で受賞し、そのカリスマ的かっこよさはそのままに、スムーズに支持が広がっているのがよくわかる結果だ。

↓ラティーナの過去のロサリア関連の記事(定期購読で読むことができます)。


3曲目。Residente「Antes Que El Mundo Se Acabe」

 2015年にソロキャリアをスタートさせたレシデンテは、社会問題に対する政治的メッセージを発信するプエルトリコの大人気HipHopグループ、Calle 13の創設メンバーの1人だった。2017年にソロデビュー・アルバム『Residente』を発表してからまだ次のアルバムは出ていない中で、今回のラテングラミーでは2部門(「今年の楽曲大賞」「最優秀ラップ/ヒップホップ楽曲」)を別々のシングル曲で受賞した。
 ここで紹介する「Antes Que El Mundo Se Acabe(世界が終わる前に)」という曲は、「世界が終わる前に今のところはお互いにキスをしよう」と歌われる曲で、「世界中のあらゆる社会階級でキスが連鎖する」というアイデアから発展していった曲だという。レシデンテと彼の妻とのキスから始まるビデオは、そのアイデア通り、有名人カップルを含む世界中のカップルのキスが連鎖していく(有名人のところは、当方は、メッシしかわからなかった。面目ない)。老夫婦もいれば、LGBTのカップルもいる。妊娠してる人もいるし、水中でキスするカップルもいる。役者じゃない人のキスをこんなに見るのは人生で初めてだと思うが、南アのゲイの男の子のカップルあたりで涙ちょちょ切れ。すっごいビデオだと思う。
 映像作家でもあるレシデンテは、このビデオのために、まずキスをしてもいいという友人たちと話し、そのあと、Instagramで呼びかけ、100人以上と直接話してこの映像を進めたという。キスだけでビデオを作ろうというアイデアは思いつくかもしれないけど、「言うは易し行うは難し」。このビデオは、より多くの人に、一生に一回は見てほしい。


4曲目。Rubén Blades & Carlos Vives「Canción Para Rubén」

 王道のラテン感のある楽曲も1曲紹介。
 バジェナートやクンビアを得意とするコロンビア出身の大スター、カルロス・ビベス(俳優業でも著名)は新作で『Cumbiana(クンビアーナ)』で、クンビアをベースとした世界に通じる音楽に挑んだ。同作は、今年のラテングラミーで「最優秀コンテンポラリー/トロピカル・フュージョン・アルバム」を受賞、「最優秀トロピカル楽曲」もカルロス・ビベスが、パナマ出身で、広くラテンアメリカ諸国でも尊敬されるサルサ歌手ルベン(ルーベン)・ブラデスをゲストに迎えた「Canción Para Rubén(ルベンへの歌)」に与えれた。この曲では、クンビアとサルサの融合を試みている。


5曲目。Emicida feat. Majur & Pablo Vittar 「AmarElo」

 最後は、ポルトガル語部門から、ちょっとヘビーなところもあるこの曲を。
 ブラジルの現代HipHopシーンを代表する才能、エミシーダの新作アルバム『AmarElo』が、今年のラテングラミーの「最優秀ロック/オルタナティブ・アルバム|ポルトガル語」を受賞した。そのアルバムのタイトル曲「AmarElo(amarelo「黄色」と、 amar elo「絆を愛する」のダブルミーニングかと思われる)」のクリップがこちら(字幕を表示にすれば、公式の英語字幕が見られます)。
 クリップは、事故に巻き込まれて障がいを負った男の強気と弱気の入り混じった真夜中の独白から始まる。「沢山血を流して/十分に泣いた/去年死んだけど、今年は生きている」と歌われるベルキオールの「Sujeito de Sorte」が大胆にサンプリングされ、車椅子が映し出さたあと、エミシーダが登場。力強くライムを刻み始める。楽曲には、ドラッグクイーンのスター歌手2人、マジュールとパブロ・ヴィタールが参加。本編で、ベルキオールの遺したメロディーを歌うのがマジュールで、美しいファルセットで聴かせるのがパブロ・ヴィタールだ。クリップは徐々に「希望」を映し出していき、「苦しみを乗り越えて今は生きているんだ」という多幸感を持って、クリップは閉じる。
 ひと昔前は、貧しい環境出身でも成功した後は、自分がどこから来たかを気にできなくなる音楽家が多かったと思うが、エミシーダ以降の世代は「自分がどこから来たか」を見つめ続ける才能が多いように感じている。このクリップを繰り替えし見返し、エミシーダのその壮絶な才能を再確認した。

↓ラティーナの過去のエミシーダの記事(定期購読で読むことができます)。

+1。João Bosco「Abricó-de-Macaco」

 5曲に収まっていないけど、これは紹介したい。現在74歳のジョアン・ボスコが、瑞々しい新曲「Abricó-de-Macaco(「ホウガンノキ|砲丸の木」という、熱帯アメリカ原産の赤い「幹生花(果)」を付ける植物の名前)」で、「ポルトガル語の最優秀楽曲」を受賞しました。74歳ですよ。すっごい! 
 ジョアン・ボスコは今年、その曲がタイトル曲となっている『Abricó-de-Macaco』という新作アルバムも発表しています。


 ラテングラミー受賞作からの紹介は如何でしたでしょうか? 他の受賞作についても知りたくなったら、こちらから聴けますので! ではまた!

(ラティーナ2020年12月)

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 新しくなった世界の音楽情報誌「e-magazine LATINA」に興味を持っていただいたら、まず、こちらの記事をご覧ください。またお会いできるのを楽しみにしています!