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[2017.12]【連載 TÚ SOLO TÚ #212】ラテン音楽界を代表する新世代編曲家 ダグ・ビーヴァーズの“アレンジの芸術”

文●岡本郁生

 ちょうど2年前のこの時期に、前作の『ティタネス・デル・トロンボン』を紹介したのがトロンボーン奏者のダグ・ビーヴァーズだ。

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 1950年代後半にキューバで録音され、ニューヨークの音楽家たちにも大きな影響を与えた、カチャオ(Bs)によるデスカルガ・アルバム『キューバン・ジャム・セッション』へのオマージュ曲からスタートし、軽快なミディアム・テンポのボンバ、ラテン・ジャズ、サンバのカバー、チャ・チャ・チャ…… といったバラエティ溢れる内容で、オスカル・エルナンデス(Pf)、ザッカイ・カーティス(Pf)、ルケス・カーティス(Bs)、ルイシート・キンテロ(Per)、さらにダフニス・プリエト(Dr)、エディ・モンタルボ(Per)などなど、全部で37人ものミュージシャンたちを使い、充実した演奏が展開されていたアルバムである。そのとき拙稿に「やはり一番印象に残るのは、そのアレンジのセンスである。(中略)ラテン音楽界がこれまでに積み上げてきた蓄積を踏まえたうえで、ドーンと一気に突き抜ける力を感じさせる新世代のアレンジャー/プレイヤーといえるのではないだろうか」と書いたのだが、つい先ごろリリースされた彼の最新アルバムは、まさに『アート・オヴ・ジ・アレンジメント(エル・アルテ・デル・アレグロ)』。“アレンジの芸術”というタイトルである。

 さて、このダグ・ビーヴァーズ、音楽家としてはちょっと変わった経歴を持つ人物だ。

 もともと、奨学金を得てカリフォルニア大学で電子工学を学ぶはずだったそうだが、たまたまラジオでジョン・コルトレーンのアルバム『クレッセント』を聞いたことから、その奨学金を断り、カリフォルニア州立大学で音楽を専攻することになったという。大学ではクラシックのトロンボーンとジャズのアレンジを学び、卒業後は、さらなる音楽的飛躍のためにニューヨークのマンハッタン・スクール・オヴ・ミュージックへ。ここで、トロンボーンのコンラッド・ハーウィグに師事するとともに、アレンジやオーケストレーション、さらに、作曲、映画音楽も学ぶようになった。やがて、さまざまなコンサートでのオーケストラ・アレンジの仕事をこなすようになっていく中で、ローズマリー・クルーニーのコンサートを収録したアルバム『ザ・ラスト・コンサート』(2002年)が、グラミー賞にノミネート。ビーヴァーズの名前が一躍注目されるきっかけとなった。こうして、トロンボーン奏者/作曲家/アレンジャーとして頭角を現した彼は、ミンガス・ビッグ・バンドに参加。さらに師匠のコンラッド・ハーウィグの推薦でパルミエリ楽団に加入することになる。

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 パルミエリ楽団では、アルバム『ラ・ペルフェクタⅡ』から始まって『リトモ・カリエンテ』そして『リッスン・ヒア!』に参加して腕をふるっているほか、スパニッシュ・ハーレム・オーケストラでも活躍。自己の楽団としては、2010年にダグ・ビーヴァーズ9の名義でアルバム『トゥ・シェイズ・オヴ・ヌード』をリリース。2015年の『ティタネス・デル・トロンボン』に続くのが今回のアルバムということになる。

 アレンジの重要性については、ここで改めていうまでもないだろう。同じ楽曲であっても、アレンジひとつでまったく別の曲に生まれ変わるということはよくある。ラテン音楽、特に現在のサルサやラテン・ジャズのもとになっているのは40年代に誕生したアフロ・キューバン、さらに50年代のマンボやチャ・チャ・チャといった音楽だといえるが、ここにおいてもアレンジは非常に重要である。もちろん、リーダーの技量や歌手の魅力、メンバーの技術といった面も大切だが、ある意味で、その楽団や楽曲の特徴を決定づけるのは第一にアレンジだといっても過言ではない。一般的にはそれほど知られる存在ではないとはいえ、これまでの音楽の歴史の中で、アレンジャーの役割はものすごく大きいのだ。自らが作曲家でありアレンジャーであるダグ・ビーヴァーズは今回、まさにそのアレンジという部分にスポットを当てたのである。

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