見出し画像

[2018.08]堀内加奈子 土地から土地、人から人へと辿り歩き、音楽で心を通わせ、可能性を切り拓いてきた軌跡 『肝美らさ』

文●岡部徳枝/写真●野村恵子
text by NORIE OKABE /photo by or photos by KEIKO NOMURA

 大城美佐子に弟子入りして18年。北海道出身の沖縄民謡唄者、堀内加奈子が結婚・出産を機に2枚組アルバム『肝美らさ』を発表した。全19曲、勝井祐二、坂田明、柳家小春など多彩なジャンルのアーティストと共演した本作は、三線ひとつで国内外を飛び回り、各地でセッションを重ねてきた彼女の集大成というべき作品。出産から半年、早くも活動再開している〝止まらない唄者〟へインタビュー。


── 今作は妊娠中に作られたんですよね?

堀内加奈子 そうですね。子供を産んだらしばらく仕事できないだろうと思って、これを機に今までの活動を作品にまとめてみようと。2017年5月から構想を始めて、いろいろな人に声をかけて、7月から約3カ月、東京と沖縄でレコーディングをしました。「長いお休みに入る前に」というつもりで作ったけど、実際はすぐにライヴを始めて全然休んでないっていう(笑)

── それこそ堀内加奈子という感じがします(笑)。共演集にしたのは何か理由があった?

堀内加奈子 あえてコテコテの民謡だけを歌う選択もあったけど、それならもう少し後でちゃんと練ってから作りたいなと思って。今回は作り上げるというより、今までライヴで絡んできた人たちとの空気感をそのままパッケージしたかった。だから、ほとんど一発録りなんです。沖縄民謡は最初の曲だけ決めて、あとはお客さんの雰囲気によって曲を変えていくのが基本なので、皆さんとも即興的なスタイルで録りたくて。

── 日本でも海外でも、どんなジャンルの人でも出会ったその場でセッションを始めてしまうのが堀内加奈子スタイルかと。

堀内加奈子 なぜそんなに脱線するんだって言われるけど(笑)。沖縄民謡なら一緒にやってみたいって興味を持ってくれる人は多いし、私自身飛び込んでいくのが好きなんですよね。大城美佐子先生の弟子でいることは、後世に残す作業があるということ。でも私はがっつり残すというより、「加奈子の唄は美佐子先生の匂いがするね」と言われるくらいのことがいずれできればいいなと。前は必死に残さなきゃと急いでいたけど、急いだからといってできるものじゃないと気づいて。沖縄民謡は多少決まりごとがありつつも、あとは自由。かといって、自分がすごく崩しているわけでもないし、考えた方としては応用編みたいな感じですね。

── 所属しているユニットChurashima Navigatorの活動については? 今作には彼らがトラックを手掛けた「花想い」を収録。

堀内加奈子 沖縄民謡は節を繰り返していく音楽だから、前からクラブミュージックと共通点があるなと感じていたんです。同時に、沖縄民謡がもっと世界中に届いてほしいという思いがあって、ビートに民謡を乗せるスタイルがその可能性を広げてくれるかもしれない、と。いろんな要素を取り入れているクラブミュージックなら、違う畑に種を撒けるんじゃないかなって。そんな中、5年前にChurashima Navigatorの創設メンバーであるDJのShinkichiくんとNu-dohくんから誘われて加入したのが始まりです。三線は、弾くというより叩くという表現があるくらい打楽器的な要素があって。ビートを生み出す楽器でもあるんです。3つの弦だけでどんどん高揚させていく感じ、あのグルーヴ感は本当にすごい。そういう沖縄民謡独自のおもしろさと彼らが作るビートとの出会いでどんな可能性があるか、今は楽しみながら探っている最中ですね。

── サルサバンドKACHINBA4やコラ奏者ママドゥ・ドゥンビアとの共演、翁長巳酉さんがビリンバウ、パンデイロで参加した「ヒヤミカチ節」など、世界各地の音楽との出会いも。

ここから先は

1,447字 / 1画像
このマガジンを購読すると、世界の音楽情報誌「ラティーナ」が新たに発信する特集記事や連載記事に全てアクセスできます。「ラティーナ」の過去のアーカイブにもアクセス可能です。現在、2017年から2020年までの3.5年分のアーカイブのアップが完了しています。

「みんな違って、みんないい!」広い世界の多様な音楽を紹介してきた世界の音楽情報誌「ラティーナ」がweb版に生まれ変わります。 あなたの生活…