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[2020.08]連載 レオナルド・ブラーボ【リズムで旅するアルゼンチン音楽①】

文と映像●レオナルド・ブラーボ (ギタリスト)

Text & Video By Leonardo Bravo(Guitarrist)

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 ラテンアメリカ、そしてアルゼンチンの大きな財産のひとつがポピュラー音楽だ。それはインディヘナとスペインの植民地支配によるヨーロッパ、16世紀から18世紀にかけて強制的に連れてこられたアフリカ移民、そして1880年から1950年にかけてヨーロッパからの移民の混淆の産物だ。

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 アルゼンチンに音楽に話を移せば、40ほどもあるリズムの誕生には「人間と風景」の関連性は大きく関連している。広大で対照的な地理的条件によって人間の生活における文化的表現は鮮明に分かれていった。

レオナルド・ブラーボ による解説映像(ギター演奏付き)

アルゼンチンには音楽的に分けて大まかに6つの地域がある。

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1.北西部

2.中央部

3.パンパ

4.リトラル(沿岸部)

5.クージョ 

6.パタゴニア

 今回は北西部のリズムを見ていこう。

 北西部は半乾燥地帯で、気温は高く、乾燥している。そこにはアンデス山脈が大地に刻む渓谷や谷がアルゼンチン音楽で最も豊かな伝統や表現方法を生み出してきた。インカやディアギータと言ったインディヘナの強い影響を受けて、当地域では先スペイン期の文化やスペイン文化との混淆が生み出した表現手段が宗教においても通俗的な文化にも多く見受けられる。

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 この音楽表現の多くが集団舞踊であり、祝祭や宗教的儀式の際にパチャママ(大地の母)への捧げ物として、またはスペイン文化との関連性が見てとれるカルナバル(謝肉祭)の際に披露されている。その他にもカップルで踊られるサンバ(Zamba)やバグアラといった踊られない音楽も存在する。

 先スペイン期のリズムにおいて代表的なものが、カルナバリート、ワイノ、シクリ、バグアラ、ビダラ、ジャラビ、チャジャなどといったものがある。これらのリズムは通常ケーナ、ピンクージョ、シーク、エルケ、エルケンチョ、チャランゴといったインディヘナの楽器、打楽器ではカハやヤギの蹄といった体鳴楽器(*)を用いて演奏される。現代楽器ではスネア、マトラカ、パロ・デ・ジュビア(雨音棒)、トライアングルといったものが使われている。

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エルケンチョ

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チャランゴ

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パロ・デ・ジュビア(右端と左端)

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エルケ

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ケーナ

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エルケンチョとカーハ

体鳴楽器(*)楽器の分類用語。板・棒・器などの固体を衝撃(打つ・こする)により振動させて音を発する楽器。木琴・カスタネット・マラカスなど。(出典:大辞林 第三版)

 ジャンルも文化が交わっていく過程で生まれていった。サンバ(Zamba)、バイレシート、ビダリータ、トリステがその代表例であり、数多くある。ギター、チャランゴ、ボンボの使用はこれらのリズムを奏でるにあって必要不可欠な存在だ。

 スペインの征服以前に、アメリカ大陸には弦楽器が存在していなかったことも強調しておくべきだろう。インディヘナたちは手元にあった素材を用いてヨーロッパの楽器を模倣していった。その最たる例がチャランゴであり、スペインのビウエラの「模倣」として世に生み出されたのだ。

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