[2023.8]【中原仁の「勝手にライナーノーツ」㊲】 Elza Soares 『No Tempo da Intolerância』
文:中原 仁
2022年1月20日、91歳で旅立ったエルザ・ソアレスが、世を去る直前までスタジオで録音し、結果的に遺作となった『No Tempo da Intolerância(ノ・テンポ・ダ・イントレランシア)』が、生誕93年を迎えた2023年6月23日、デジタル・リリースされた(注:誕生日は1930年7月22日説もある)。
『不寛容な時代に』と題する遺作は、ほぼ全曲が新曲もしくは未発表曲。エルザは10曲中7曲のソングライティングに携わり、多くの歌詞の出典は、彼女が80年代からノートに書きためていたものだという。他の曲の作者は故ドナ・イヴォニ・ララ。バイーアのジョジアーラ、ピチィ。故ヒタ・リー(2023年5月8日に死去)。イザベラ・モライス。全員が女性、さまざまな世代の女性たちなのだ。
このアルバムの制作にあたりエルザは、人種差別や暴力、貧富の差、政治の不正といったテーマだけではなく、女性が家庭や社会の中で長らく抑圧されてきたことへの “NÃO” を、最大のテーマに据えた。真摯な主張とメッセージをこめた歌声に、年齢からくる衰えは全く感じられない。アフロ・ブラジリアン・ファンクを軸とするサウンド・プロダクションも秀逸。エルザが最後まで熱いパッション全開で戦い続けたことに、激しく胸を揺さぶられる。
No Tempo da Intolerância | Novo álbum de Elza Soares
アルバムは配信のみでフィジカルはないが、ブックレット仕立ての曲目表(歌詞カード、メンバー・クレジットつき)がエルザの公式SNSにアップされていたので、その写真も掲載しながら曲順に進めていこう。
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