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[2021.01]アルゼンチン音楽特集 コルドバ・シーンの今 Vol.2

※本エントリーは、2021年1月6日(水)まで、無料でお読みいただけます。1月7日(木)以降は、定期購読者様が読めるエントリーになります。

 前回の「アルゼンチン音楽特集コルドバ・シーンの今シンガーソングライター、インディ編」に引き続きエレクトロ・ミュージック、室内楽、ジャズ、フォルクローレ編です。コルドバ音楽概略については前回の記事の冒頭をご覧ください(以上編集部)

文●宮本剛志

Text By Takeshi Miyamoyo

■エレクトロニック・ミュージック

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Federico Estevez『De Aquí Hasta Aquí』(2020)

 デジタル・クンビア、スロウテクノ、オーガニック・テクノ、と呼び名はたくさんあるが、その系統に位置する音楽家がコルドバ生まれで現在はブエノスアイレスで活動するフェデリコ・エステベスだ。打楽器奏者としてチャンチャ・ビア・シルクイートなどで活動しつつ、2014年にSebastián Zanettoもゲスト参加したソロ作『Fin De Año』をチリのレーベルSello Regionalから発表。その彼の2作目がエル・ブオとバリオ・リンドによるベルリンのレーベル、Shika Shikaからリリースの『De Aquí Hasta Aquí』となる。チャンチャ・ビア・シルクイートや同郷のクリック&フリックも参加した2020年のオーガニック・テクノを代表するトライバルかつディープな1枚だ。

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Klik & Flik / 『Refugio』(2019)

 コルドバ出身で現在はメキシコで活動するのがRafael CaivanoとLisandro Sonaによるチーム、クリック&フリック a.k.a. フリックステイラーズだ。2010年代初頭から頭角を表し、デジタル・クンビアを代表するレーベル、ZZKの一員として長らく活動。リミックスワークもEl GuinchoやJulieta Venegasなど大物との仕事も目立つ。名前を使い分けているのは音楽的な方向性からだろう。彼らの本流であるデジタル・クンビアを追求するフリックステイラーズ、そしてよりミニマルなトライバル・サウンドへ向かったクリック&フリック。どちらの名義でもベースミュージックの分野では今後も注目を集め続けることは間違いない。

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Frikstailers / 『Extrasolar』(2019)


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This Valley Of Old Mountains (Taylor Deupree & Federico Durand)『This Valley Of Old Mountains』(2020)

 コルドバ・シーンとは直接の関わりはないかもしれないが、コルドバ近郊の小さな町、ラ・クンブレで活動を続けるのがフェデリコ・デュランだ。Chihei Hatakeyamaとのコラボレーションでも知られ、12Kなどの世界中の電子音楽系のレーベルからエレクトロ/アンビエントな作品をリリースし続けてきたフェデリコの2020年新作は、12Kのレーベルオーナーでもあり、坂本龍一やデヴィッド・シルヴィアンらともコラボレーションするニューヨーク在住の電子音楽家/サウンド・アーティストのテイラー・デュプリーとのコラボレーション作品。電子音響で作られたイマジナリー・フォークロアとでも言いたいアンビエントかつ超自然的な1枚。


■室内楽

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Flor Sur Cello Trío『Andorinha』(2020)

 女性のチェロ奏者3人組で結成されたのがフロール・スール・チェロ・トリオだ。ラウル・カルノータ、アナ・ロブレスからオスバルド・プグリエーセまでカバーした前作からメンバーチェンジはあったものの、今作でも同じくフォルクローレを中心にカバー曲を演奏している。メリー・ムルーアなどゲスト陣も素晴らしいが、なかでもガブリエラ・ベルトラミーノが歌うジョニ・ミッチェルの「Both Side Now」が白眉な出来。


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Flora Frete『Encuentros』(2015) 

(con diseño de serigrafía de Luchi Sanchez)

 ピアニストで歌手のフロレンシア・フレテことフローラ・フレテによるフォルクローレ meets チェンバーミュージックな作品がこちら。大学の卒業制作のためのプロジェクトだというが、メンバーにクララ・カントーレが参加していたりと、いわゆる学生仕事ではないことは明白だ。フィジカルは、シルクスクリーン印刷に手縫いという布製のジャケットというのも面白い。Exequiel Mantegaによる室内楽プロジェクト、La máquina cinemáticaの系譜として聴くことができる1枚。


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Magnolia Cuarteto de Cuerdas『Se Acaba la Mufa』(2015)

 ロドリゴ・カラソの『Octógono』やアナ・ロブレス『Sabe el Viento』などコルドバ・シーンのシンガーソングライターの作品などにもゲスト参加する弦楽四重奏団がマグノリア・クアルテート・デ・クエルダスだ。2006年に結成以来、これまでに3作ソロ名義作を発表しているが、中でも自作タンゴ曲からフォルクローレ名曲、グアダルぺ・ゴメス&キケ・シネシとの「Serás Verdad?」を収録した2作目『Se Acaba la Mufa』が素晴らしい。彼らもまたコルドバ・シーンに欠かすことのできない存在だといえる。


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Luciano Ponzano『El observador, es a la vez, un criptógrafo』(2016)

 ルシアノ・ポンサノはビル・フリゼールやジュリアン・レイジらに影響を受けたギタリストとして活動し、2020年にはラ・パルシフォニカのPepi Parsiとともにライブ録音したジャズ・スタンダードを2曲リリースしているが、2016年にリリースしているソロピアノ作品はチリー・ゴンザレスの名作『Solo Piano』を思わせるジャズでもクラシックでもない音楽性の1枚。


■ジャズ

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Pedro Giraudo & WDR Big Band『An Argentinian in New York』(2018)

 コルドバ出身のジャズ・ミュージシャンで最も世界的に成功しているのは、90年代中盤よりニューヨークに移住し活動するベーシスト、ペドロ・ジラウドで間違いないだろう。ジャズ、そしてタンゴの分野で活躍し、客演ではパブロ・シーグレルやパキート・デリべラ、ルベン・ブラデスら世界的な音楽家らのアルバムやライヴに参加する一方、自作ではラージアンサンブルを率いる作品が多いのが特徴で、その作編曲の能力はマリア・シュナイダーからも激賞されるほど評価が高い。2011年には『Córdoba』というタイトルのアルバムもリリースしているペドロだが、最新作ではドイツのケルンの名ビッグバンド、WDR Big Bandとのコラボレーション作品で、自身が持つアルゼンチンのルーツを掘り下げている。

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Milton Arias『50. El Caldero』(2018)

 同じくベーシストではミルトン・アリアスがいる。彼の2018年作『50. El Caldero』ではフォルクローレのリズミカルな影響を前面に出しつつも、エレピなどのエレクトリック楽器やトランペットを加えており、そのサウンドは完全に欧米のコンテンポラリー・ジャズと並列で聴くことができるものとなっている。同じアルゼンチン出身で、フォルクローレからジャズまでを横断する6弦ベース奏者、Willy Gonzálezをも彷彿とさせるプレイヤーではないだろうか。


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Nicolás Ojeda『Mayo』(2018)

 こちらもベーシストで、現在はブエノスアイレスを拠点に活動するのがニコラス・オヘダだ。2作目のソロ名義作品である『Mayo』に参加しているのもセバスティアン・サネットやビクトリア・ソタリスなどブエノスアイレスの音楽家たちとなっている。自身は黒子に徹した印象だが、全体としてのアブストラクトなサウンドの方向性はニコラスの意図したものだろう。プレイヤーとしてよりも作曲家としての面が現れたアルバムだといえる。


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Javier Girotto『Tango Nuevo Revisited』(2019)

 イタリアで活動するマルチ管楽器奏者、ハビエル・ジロットは、メルセデス・ソーサからラルフ・タウナーまで多くの巨匠たちと共演経験のあるベテランだが、2019年作では幼い頃に多大な影響を受けたというアストル・ピアソラとジェリー・マリガンによるタンゴ×ジャズの歴史的名作『Tango Nuevo (Summit)』へのオマージュ作品に取り組んでいる。バリトンサックス、バンドネオン、ピアノという編成も珍しく、そういう点でも聴き応えがある1枚だ。


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Gabriela Beltramino『Senses』(2015)

 シンガーではガブリエラ・ベルトラミーノがいるが、2020年、日本での長期間の仕事の最中にCOVID-19が発生してしまい、まだアルゼンチンに帰国できないでいる。彼女のデビュー作は、アルゼンチンを代表する若手トランペッターのMariano Loicáconoや、ベーシストのJerónimo Carmonaといったブエノスアイレスを代表するジャズミュージシャンが参加したオールドタイミーな香りのするジャズ・アルバムだったが、現在発表されているシングルから予想するなら、新作では自作曲を中心にコンテンポラリーなジャズを聴かせてくれることだろう。


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Córdoba Jazz Orchestra『Comechingonia』(2017)

 2006年にアメリカ人ドラマーのSteve Zensとアルゼンチン人ドラマーのGermán Simanによって結成されたのがコルドバ ・ジャズ・オーケストラだ。現在はマルチ管楽器奏者ですべてのアレンジも手掛けるNicolás Ocampoがディレクションを務めているが、2017年のデビュー作『Comechingonia』ではJavier Girotto、Milton Arias、Pedro Giraudoといったコルドバ出身のジャズミュージシャンの筆による作品を中心にその選曲しており、フォルクローレのリズムを取り入れたアレンジも含め、アルゼンチン、そしてコルドバという地に根ざした作風が面白い。


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TELLER ULAM『Despertar』(2017)

 若手のコンテンポラリージャズ・グループで特に素晴らしいのが、TELLER ULAMだ。トラップのリズムを取り入れ、ラッパーやシンガーを招いた作風は海外の現行のジャズシーンとも通ずものがある。YouTubeではリンキン・パークをジャズアレンジした「In The End」が新曲として2019年に公開されているが、そちらもぜひ聴いていただきたい。



TELLER ULAM - In The End (Linkin Park)


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Tangrama『El Instante Que Precede al Día』(2019)

 10人編成のジャズ・アンサンブルでブラジルのショーロ、ウルグアイのカンドンベなど南米由来のリズムを取り入れたサウンドを奏でるのはタングラマだ。元々エルメート・パスコアールの音楽的思想に同調し2013年に結成されたというが、ラージアンサンブル的なサウンドに南米的なものを取り入れるのは、ノラ・サルモリア率いるOrquesta Sudamericanaに近いのではないだろうか。


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Juan Carlos Ingaramo『Canciones Con Amigos』(2019)

 1980年代に兄弟のミンギや、セサル・フラノフ、オスカル・フェルドマンらと結成したフュージョニックなジャズロック・グループ、Grupo Encuentroで頭角を現して以降、アルゼンチンのジャズ界で演奏を続け、スピネッタやリト・ネビアのようなアルゼンチン・ロックの巨星とも共演・録音経験のあるベテラン鍵盤奏者がフアン・カルロス・インガラモだ。目下最新作『Canciones Con Amigos』は、リト・ネビア、フィト・パエス、ウーゴ・ファトルーソら南米音楽史に残る音楽家や、盟友セサル・フラノフ、兄弟のミンギやデュオ名義作をリリースしたオランダのチェロ奏者Heleen De Jongなどと共演したキャリアを総括するような記念碑的な1枚となっている。


■フォルクローレ

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Guadalupe Gómez & Mingui Ingaramo『Primer Atardecer』(2019)

 キケ・シネシとのデュオ名義作品でも知られるフォルクローレ・シンガーのグアダルぺ・ゴメス、フアン・カルロス・インガラモの兄弟としても知られる作曲家でピアニストのミンギ・インガラモによるデュオ作品がこちら。二人ともコルドバ出身ということもあるかもしれないが、端的に素晴らしい相性としか言いようがない、歌とピアノだけで構成されたとても豊かな音楽だ。キケ・シネシのカバー曲「Serás Verdad」、アントニオ・カルロス・ジョビンのカバー曲「Dindi」、そしてソロピアノのみで演奏される1曲を除いて、すべて2人による共作。

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Clara Cantore『Entre Algarroba y Durazno』(2020)

 5弦ベースやギターで弾き語るフォルクローレ系シンガーソングライターがクララ・カントーレだ。新作においてはベース、ドラム、サックスのトリオ編成で、これまでのソフトな印象とは全く異なる70年代を思わせるフュージョニックなジャズロック・サウンドでフォルクローレを演奏している。


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Kaichy Volpa『Ñandu』(2016)

 カイチィ・ボルパは現在ブエノスアイレスで活動するが、結成は当時メンバーが在住していたコルドバで行われたグループだ。形式としてはフォルクローレだが、メンバーの志向としてはフォルクローレのみならずポストロックやメタル、レディオヘッドなどにも影響を受けているという。3本のギターのアレンジメントには確かにそれらのような複雑さがあるのではないだろうか。


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La Parsifónica『Niña Salvaje』(2018)

 ラ・パルシフォニカはかなりジャンル分けについては悩まされる存在だ。というのも、デビュー作と次作では音楽性がまるで変わってしまっているから。歌手でヴィブラフォン奏者のステファニア・パルシことテフィ・パルシ(現在はさらにPepi Parsiに改名)のプロジェクト、ラ・パルシフォニカは管楽器や弦楽器などアコースティックなサウンドを中心とした『La Tejedora』を2017年にリリースしたが、その一年後には電子音を取り入れ、デジタル・クンビア/オーガニック・テクノ的な方向性へと舵を切った『Niña Salvaje』を発表。ゲストにもコルドバのロドリゴ・カラソが参加しているかと思えば、ラ・プラタのインディーロックバンド、Totomásもゲスト参加と驚きを与えてくれた。


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Airena Ortube - Julian Beaulieu『Ñacu』(2019)

 フアン・キンテーロ&ルナ・モンティ以降、アルゼンチンでフォロワーが絶えない男性ギタリスト/歌手&女性歌手という編成。コルドバでその筆頭に挙げられるのがアイレナ・オルトゥーべ&フリアン・ボーリューの男女デュオだ。テクニカルなギターをナチュラルに聴かせる技量、息のあったコーラスワークも素晴らしいが、カルロス・アギーレ、ビオレタ・パーラからスピネッタまでという選曲も素晴らしい。ゲストには同郷のルカス・エレディアも参加。


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Mery Murua & Horacio Burgos『Roble 10 Años』(2017)

 コルドバ生まれのフォルクローレ歌手、メリー・ムルーアとブエノスアイレス生まれで現在はコルドバで活動するギタリスト、オラシオ・ブルゴスによるデュオが10周年を迎えたことを記念し録音されたのが『Roble 10 Años』。クチ・レギサモンやチャブーカ・グランダなど南米のフォルクローレ史に残るソングライターの曲を、熟成したかのようなまろやかで息のあった演奏と歌で綴る1枚。

シンガーソングライター、インディー編はこちらから。

(ラティーナ 2021年1月号)

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