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[2017.10]【連載 TÚ SOLO TÚ #210】ニューヨーク・ラテン界の7人が奏でるストリートのサウンド アルトゥーロ・オルティス

文●岡本郁生

 もう30年になるのか……。1987年12月のウィリー・コロン来日公演は、いまだに鮮烈に記憶の中に刻みつけられている。

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 コンサート自体ももちろんそうなのだが、筆者にとってもっとも印象的だったのは、イラストレーターの河村要助さんに誘われて見に行ったサウンド・チェックである。

 新宿・歌舞伎町。いまはゴジラが乗っかった巨大ビルとなってしまった同じ場所にかつてあったのが、数々の名物公演で知られた新宿コマ劇場だ。その地下1階にあったシアターアプル。たしか午後4時過ぎごろだったろうか。前年にベネズエラ録音のアルバム『コントラバンダ』を発表、その年には、プロデュースしたエクトル・ラボーの『ストライクス・バック』が大ヒットしていたウィリー・コロン。日本ではいったいどんなステージを見せてくれるのだろう? とワクワクしながら、階段を降り、ロビーを抜けて歩いていくと、壁の向こうから聞こえてくるではないか。くっきりとしたクラーベの音が! そうか、やっぱりクラーベだ。これがサルサなんだ! と感激しながら客席のドアを開けてステージを見てみたら…… なんと、そこにいたのは、ジャラジャラとぶっといゴールドのネックレスをぶら下げたり、スポーツウェアでキメた、そのまんまエル・バリオ直送のあんちゃんたちだった。84年にバッド・ストリート・ボーイズの『ルッキング・フォー・トラブル』のジャケットで仰天したままの世界が目の前に展開していたわけである。そのとき、ある意味、ニューヨーク・ラテンの現実を肌で実感した。ラテン音楽~サルサとヒップホップ~ダンス・ミュージックとは地続きのものなのである、と。

 来日メンバーは、コンガに、のちにプエルトリコ・サルサのプロデューサー/バンド・リーダーとなるサミー・ガルシア。ボンゴは、マーク・アンソニーなどで活躍することになるボビー・アジェンデ。ティンバレスには、ラテンと並行してオールマン・ブラザーズ・バンドに加入し注目されるマーク・キニョーネス。ベースは、ルイ・ベガのプロジェクトに欠かせない存在となるジーン・ペレス。サックスは、現在、主にジャズ界で活動するボビー・フランチェスキーニ。さらに、トロンボーン:ジェイミー・ラモス、ピアノ:ボブ・クアランタ、キーボード:ジョナサン・ハンセル、という精鋭メンバーだった。のちにきいた話では、実はこのとき、寸前まで、セルヒオ・ジョージ(やがてRMMレーベルのプロデューサーとしてオルケスタ・デ・ラ・ルスやマーク・アンソニー、インディアなどを手がける)が来ることになっていた。だが、何かでトラブって結局別の人に交替したのだという。

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このセイス・デル・ソラールでシンセサイザーを担当したことがきっかけでルベン・ブラデスのレギュラー・メンバーとなっていった。

 彼らはほぼ同世代で、だいたいが、1960年前後の生まれだ。来日時20代半ばで、まだあまり知られてはいないが、その後ラテン界を背負って立つことになる才能あふれるミュージシャンばかりである。さすがにウィリー・コロンの目は確かだった、ということだろうか。ただ、その同じニューヨークという場所から生まれたヒップホップなどが盛り上がっていった80年代、ラテン音楽は迷走を始め、ファニアがメキメキと勢力を拡大していった70年代とは明らかに状況が異なっていた。一時は、サルサという音楽が消滅してしまうのではないか? という危機感の中で、さまざまな模索を繰り返し、やがて90年代になると、マークやインディアといったスターが誕生。ニューヨークのラテン界は息を吹き返すことになる。そのとき中心となっていたのはやはり、60年前後生まれの彼らだったのである。

 さて、いままで名前が出た人たちのほかに、もうひとり、忘れてはならない人物がいる。それがピアニスト/キーボード奏者/アレンジャーのアルトゥーロ・オルティスだ。リーダーとしてバリバリ活動してきたわけではないので、まあ、地味といえば地味。しかし、80年代以降のラテン音楽界を語るとき、絶対欠かすことのできない重要人物である。

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