[2024.2] 【映画評】『ミツバチのささやき』から半世紀、ビクトル・エリセから届いた新たな傑作!〜『瞳をとじて』
『ミツバチのささやき』から半世紀、
ビクトル・エリセから届いた新たな傑作!
『瞳をとじて』
文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)
リュミエール兄弟が映画を発明してから約130年の歴史の中で、時代も国境も超えて今も輝き続ける多くの傑作映画が生み出されてきたが、ビクトル・エリセ監督『ミツバチのささやき』もその1本だということに誰も異論はないだろう。1973年の作品だが日本では1985年に初公開されて大ヒットを記録し、その後のミニシアター・ブームの先鞭を付けたとも言える。また主人公の少女アナを演じたアナ・トレントの純粋無垢なあどけなさが、“完璧な美少女” としてアイドル的な人気を博したことも思い出されるが、そんな少女が精霊と交流するという内容は今世の中にある数々の(特にアニメーション)作品にも通じるモチーフで、『ミツバチのささやき』が今も多くのクリエイターに影響を与えているということは紛れもない事実だろう。
エリセは寡作で知られ、長編第1作『ミツバチのささやき』の次は1983年『エル・スール』、1992年『マルメロの陽光』、そして『瞳をとじて』は実に31年ぶりの新作だが、2000年代には4本の短編を残している。中でも2006年『ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区』は、マノエル・ド・オリヴェイラ、ペドロ・コスタ、アキ・カウリスマキという名匠が参加したオムニバス作品だが、エリセの『割れたガラス』が最も強い印象を残す。かつて栄華を誇り今は閉鎖された紡績工場で働いていた人々のドキュメンタリーで、記録された写真の前で彼らが記憶を語り、過去と現在の人生が浮かび上がるという点で、『瞳をとじて』と繋がるものがあるように思う。何より冒頭で示された「ポルトガルでの映画のためのテスト」という文字に膨らんだ新作への期待が、実際に現実となったことが本当に喜ばしい。
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