見出し画像

ワールドミュージック専門誌の編集長が聴いてほしい新譜の5曲

文●花田勝暁

 [2020.09.07]

 はい、新企画「【週刊】ワールドミュージック専門誌の編集長が聴いてほしい新譜5曲」です!
 企画が続くようにぜひ、心の中とかコメントで応援してくださいな。

 当サイトは、すでに情報量が多いと思うので、
 何を聴いていいかわからないという人のために、
 編集長の花田が特に聴いて欲しいと思った曲を毎週数曲紹介するという企画です。

(放っておくと曲数が増えちゃいそうなので、マックス5曲ということで自制します。時に、もう手が回らないときは1曲のときもあるかもしれない。それでも継続を優先したいと思っています)
※試聴リンクの掲載は、無料ユーザーでも試聴できるSpofityを基本として、オフィシャルが掲載した形でYouTubeで試聴できる場合は、YouTubeも貼ります。YouTubeにしかない動画があったりした場合も、もちろんYouTubeで掲載します)

1曲目。Shinkansen 「Walking On Clouds」

 トニーニョ・オルタ×ジャキス・モレレンバウム×マルコス・スザーノ×リミーニャによるブラジル音楽界の重要人物4人によるユニット「シンカンセン」(ちなみに、4人の名前の順番ですが、ブラジルだとリミーニャが必ず最初に来ます。プロデューサーとして絶対的な知名度があります)。
 10年間温めていたアルバム『Shinkansen』の中からトニーニョ・オルタの楽曲 「Walking On Clouds」を。



 先日、トニーニョ・オルタへのインタビュー記事をアップしています。

 本作収録のトニーニョの楽曲は、「Shinkansen 」「Sayonara em Narita」 「Walking On Clouds」の3曲 ── なんですが、「Walking On Clouds」の元々のタイトルは「Sakura」だったそう。トニーニョが、桜の花びらが舞い落ちる様子を思い浮かべながらギターを弾いたそう。アルバムの中では地味目な曲ですが、そんなトニーニョの姿を想像しながら聴くと、感じ入るものが多くて(新しいタイトル「Walking On Clouds」は、録音したスタジオ名が英訳すると「Studio On Clouds」という名前のスタジオ名なので、それに関係あるのではないかと思います)。
 それから、トニーニョを最近に招聘して成田空港に送っていったのはラティーナだったので、「Sayonara em Narita」はもしかして私たちに捧げられた曲なのか? って興奮しちゃいましたが、録音はかなり前なので、違いました。トホホ。

2曲目。Rodrigo Carazo 「Mis ideas」

 国内盤CDの発売に合わせて、インタビュー記事をアップをしたロドリゴ・カラソの新作は、一人でも多くの音楽ファン聴いていただきたい清涼感溢れる傑作。年間ベストの頃にもまた話題になるでしょうから、まだ聴いていない人も、ぜひ早めに聴いてみてください!

 この曲「Mis Ideas」は、ロドリゴがギターやウクレレなどを多重録音し、あのサンティアゴ・バスケスが親指ピアノやドラム、パーカッションを多重録音しています。


3曲目。Mahsa Vahdat「Enlighten The Night」

 先日更新された【Transglobal World Music Chart】の9月期のランキングで、マーシャ・ヴァダットの新作『Enlighten the Night(夜を照らす)』が1位を獲得(先月の4位からランクアップ)。マーシャの前作は、クロノス・クァルテットとのアルバム『Placeless』で、そちらも同チャートで1位を獲得していました。
 マーシャは、クラシックおよびワールドミュージックの範疇で活動する女性ヴォーカリストで、長年ペルシャ/イランの古い伝統的民俗音楽の唱法を彼女なりのやり方で習得。本作は、現代ペルシャの詩にクラシカルなメロディーなメロディーを付けたものです。アルバムタイトル曲の本曲「Enlighten the Night(夜を照らす)」も終始重たい雰囲気ではあるが、夜が明けることを願うばかりではなく、長い夜の暗闇の中でどう道を見つけるかを考えるべきということでしょうか。


4曲目。Tigran Hamasyan - Vortex ( ft. Tosin Abasi)

 待ってました! アルメニア出身の鬼才ピアニスト、ティグラン・ハマシアンのオリジナル曲中心の新作『The Call Within』がリリースされました。
 
 いち早くlessthanpandaさんの「Musica Terra」で取り上げられ、

 Mikikiには、インタビュー付きで記事が出ています。

 アルバム『The Call Within』には、シングル扱いでのビデオ・クリップのある曲もすでに3曲ほどありますが、今日は、インストゥルメンタル・メタル・バンド、アニマルズ・アズ・リーダーズ(Animals as Leaders)のギタリストであるトーシン・アバシが参加した「Vortex」という曲を(ティグランはロックやメタルからも大きく影響を受けていることでも)。

 ティグランがオリジナル曲中心の世界を披露するとき、複雑な変拍子やポリリズムは当たり前の、とても人間技とは思えない曲の展開が続く。ピアノ・トリオなので、ティグランに呼応できるドラマーとベーシストがいるわけですが、スイス出身のドラマー、アーサー・ナーテク(Arthur Hnatek)が、この曲をスタジオで録音しているときの動画をあげています。どういう拍の取り方をしているんですかね。動画の下に一回「ここのパートだけあとで重ねて録音してそれは録画忘れてしまった」っていうテロップが出てくるんですが、この動画見て完コピする強者に向けたコメントなんですかね…

 しかも、この曲、YouTubeに採譜した楽譜が上がっていました。すごい。ぼくもそんな能力が欲しかった。世界には色んな人がいます。

5曲目。Ammar 808 「Mahaganapatim」

 こちらも今、最も勢いに乗っている若い才能です。チュニジア人音楽家のソフィアン・ベン・ユーセフは、ケル・アスーフ(Kel Assouf)、アマール808(Amamar 808)、 バルグー08(Bargou 08)など、複数のグループで並行して活動し作品を残し、そのどれもがワールド・ミュージック界隈での大きなニュースとして取り上げられてきました。2019年3月号に、吉本秀純さんによるソフィアン・ベン・ユーセフへのインタビュー記事が掲載されています。

 アマール808は、自身のリーダー・プロジェクトで、チュニジア~アルジェリア~モロッコに跨るマグレブ圏の音楽を、強靭なビートで最強のダンス・ミュージックに変える。強すぎる…
 本曲は、今年に入って2曲目のシングル曲であり、もうすぐアルバムリリースも近いということでしょう。リリースが待ち遠しい。

 以上が、編集長が今聴いてほしい5曲でした。
では、来週もぜひ聴いてください。
 「e-magazine LATINA」も登録してくれたら嬉しいです。
 登録してくれる方が増える分だけ、依頼できる原稿も増えていって、より強力なメディアになりますので!

(ラティーナ2020年9月)