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[2023.9] 【映画評】この秋に観るべき傑作2本 ⎯ 『熊は、いない』『バーナデット ママは行方不明』

この秋に観るべき傑作2本

『熊は、いない』
『バーナデット ママは行方不明』

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文●あくつ 滋夫しげお(映画・音楽ライター)

 先月紹介した2本の映画は、フィクションとドキュメンタリーの境界が曖昧になるような作品だったが、イラン映画『熊は、いない』はそんな虚実の皮膜がより複雑かつ効果的に作用し合い、観る者がめまいを覚えるような面白さと深さを持った作品で、昨年のヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞している。

『熊は、いない』 9月15日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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 その妙味を存分に味わうためには、まず監督のジャファル・パナヒその人自身のことと、彼が今イラン国内で置かれている立場を知る必要があるだろう。なぜなら彼自身が主人公として劇中に登場し、その境遇が投影されたメタ的な視点で物語が描かれるからだ。イランに生まれたパナヒは、初期の作品からイラン社会に横たわる理不尽な規制や因習によって、登場人物である主に子供や女性たち、そして貧困層の人々の人権が侵され苦境に立たされる姿を、人道的な視点から優れた人間ドラマとして描いてきた名匠だ。それらの作品の多くは世界三大映画祭のカンヌ、ヴェネチア、ベルリンをはじめ、様々な国際映画祭で数多くの受賞を果たし、世界的な評価を得ている。

 しかし厳格なイスラム国家であるイランにとって、パナヒの作品群はタブーへの挑戦というよりも国家への反逆であり、彼は2010年に “国家の安全を脅かした罪” で、20年間の映画制作禁止と海外への出国禁止を命じられてしまう。それでも様々な工夫を凝らした手法で、その後も『人生タクシー』や『ある女優の不在』など5本の発想豊かな長編作品を完成させ、イラン国内からイラン市民が直面する “今” を世界に向けて発信し続けている。そのたゆまぬ闘志と勇敢に映画作りを続ける姿に対して、世界が賛辞と支援を惜しまないのは、言うまでもないだろろう。

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