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[2020.11]野田隆司【特集 私の好きなアジア映画】

選・文●野田隆司

 いわゆるアジア映画を見るようになったのは1980年代後半あたり。ワールドミュージックのブームと同じ頃のこと。沖縄からたまに上京する機会があると、”ぴあ“でスケジュールをチェックして、ミニシアターやライブハウス、CDショップを訪ね歩いた。
 「紅いコーリャン」(チャン・イーモウ / 中国)や「友だちのうちはどこ?」(アッバス・キアロスタミ / イラン)は、ユーロスペースで見た記憶がある。アジア映画を見るという意識はあまりなく、なんとなく都会で評判の映画を見ると、それがアジアの映画ということが多かった。
 「パラダイスビュー」や「ウンタマギルー」など、沖縄の高嶺剛監督の作品が話題を集めたのも同じ時期。芝居や音楽、舞踊といった沖縄の芸能や、南国ならではの空気感が映画を通して伝えられることを面白く感じた。そんな手触りを、他のアジア映画にも求めてきたように思う。

南へ走れ、海の道を

南へ走れ

『南へ走れ、海の道を』(日本・1986年)監督:和泉 聖治

 大学時代、映画のエキストラのバイトがあると言われて出かけると、この映画の撮影だった。「琉球連合」というヤクザの事務所を舞台にした大規模な抗争シーンの撮影で、真っ昼間に那覇市内の大きな道路を封鎖して行われた。制作スタッフから割り振られたのは、救急隊の役。私たちの動き出しが全体のキューになるからと、和泉聖治監督ではなく、助監督の方から繰り返し説明を受けた。その他大勢で立っているだけのエキストラだと思っていたので、かなり戸惑った。
 白いヘルメットと白衣をつけて、救急車の後ろのドアから2人で担架を担いで「琉球連合」の事務所に入っていった。そこにはソファに座った、長門裕之さん(刑事役)がいて、「ご苦労さん」と声をかけられた。ここではカメラが回っているわけではないのだが、まさに映画の中に迷い込んだような不思議な体験だった。完成した映画を見ると、短いシーンにも関わらず、萩原健一さんの存在感が圧倒的だった。


セデック・バレ

セデックバレ

『セデック・バレ』(台湾・2011年)監督:ウェイ・ダーション

 那覇と台北は飛行機で1時間10分ほど。私自身も年に数回は台湾を訪ねるし、友人も増えた。この作品は、隣人、そして友人という立場で、日本と台湾の歴史の一つの側面として見ておきたかった。ある種の使命感に駆られて、やや肩に力が入り気味でみたのだが、エンターテインメントとして、非常に見応えのある作品として楽しむことができた。
 物語の題材は、1930年、日本統治下の台湾で起こった原住民セデック族の抗日暴動「霧社事件」。その引き金は、原住民族の独自の文化や習慣を蹂躙し、過酷な労働と服従を強いる日本の統治者としての高圧的な態度。日本人警察官との間に起こった小さな諍いをきっかけに、運動会が襲撃され、子供と女性を含む132人の日本人が殺された。そして、日本軍の激しい報復が、さらなる悲劇を生む。
 前後編合わせて4時間半を超える大作だが、冗長さは一切なく、まさに全編が見どころ。状況が落ち着いたら、霧社の町を訪ねてみたい。


大海原のソングライン(原題:Small Island Big Song)

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『大海原のソングライン(原題:Small Island Big Song)』
(オーストラリア・台湾・2019年)監督:ティム・コール
©️『大海原のソングライン』

 日本では「大海原のソングライン」という邦題で公開された。台湾を出発して世界の16の島々を歌で繋いでいくドキュメンタリー作品。アジア映画というより、アジア発の映画である。
 2015年に監督のTimとプロデューサーのBaoBaoと、ハンガリーの音楽見本市WOMEX(the World Music Expo)で知り合った。二人はこの作品の長い撮影行に出かける直前で、会うたびに途中経過を聞かせてもらった。そして2019年、沖縄国際映画祭でジャパン・プレミアとして上映し、二人を沖縄まで招いた。
 この映画が素晴らしいのは、島々の民族音楽を記録するだけではなく、そうした様々な土地の音楽を重ねて新たな音楽を創造しているところ。島の暮らしのすぐそばにある、地球規模の気候変動による海面上昇やマイクロ・プラスティックなどの環境問題も紹介される。美しい映像と音楽は、それだけで力強いメッセージとして伝わってくる。

2020年1月、札幌・シアターキノ、沖縄・桜坂劇場にて公開予定
公式HPはこちら↓
http://moolin-production.co.jp/songline/

野田隆司 Ryuji Noda●プロフィール
長崎県佐世保市出身、沖縄県那覇市在住。桜坂劇場(那覇市)プロデューサー、ミュージックタウン音市場(沖縄市)館長。”Music from Okinawa”というプロジェクトで、沖縄発でアジアの音楽ネットワークを構築中。2015年から、国際音楽カンファレンス”Trans Asia Music Meeting”を開催。同時開催の街フェス”Sakurazaka ASYLUM”をショーケースに、多くのアーティストを海外に紹介する。現在、新たな音楽プロモーションのプラットフォーム”Music Lane”を準備中。

(ラティーナ2020年11月)

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