[2019.06]サンバとサンビスタたちのゴッドマザー、ベッチ・カルヴァーリョ、永遠に!
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[2019.06]サンバとサンビスタたちのゴッドマザー、ベッチ・カルヴァーリョ、永遠に!

文●アルセウ・マイア text by ALCEU MAIA

 ベッチ・カルヴァーリョは、とても若い頃から、僕がプロのミュージシャンになるその前から知っている。彼女は僕の親戚の家で開かれるミーティングに出入りしていて、さらに僕の叔父と彼女の叔母が結婚したことで、家族的なつながりもできた。出入りしていたミーティングで彼女と知り合い、僕はミュージシャンとしてのキャリアの初期を歩みはじめていたのだが、彼女はライヴミュージシャンとして誘ってくれ、一緒に小さいグループを結成した。彼女は当時サンバの世界に足を踏み入れたばかりの頃だった。ことはうまくすすみ、彼女はより完璧なグループを組む必要性を感じて、そうして僕が知っていたミュージシャンと彼女が希望する人に声をかけて、フルート、バンドリン、カヴァキーニョ、ギター、スルド、パンデイロ、アコースティック・ベース、ドラムで「A Fina Flor do Samba(ア・フィナ・フロール・ド・サンバ)」を結成した。彼女はギターを弾き、(すでにボサノヴァのムーヴメントの仲間の一員で)ハーモニーを熟知しており、ベッチとは、本当に仕事がしやすかった。お祭り好きで、サンビスタ(サンバを演奏する人)の世界で何が行なわれているかということに常にアンテナを張り、人気のあるものからあまり知られていないものまで、たくさんの “ホーダ” に足を運んでいた。

 ある日、彼女はCacique de Ramos(カシーキ・ヂ・ハモス)に連れていかれて、そうして、彼女の人生が一変し、サンバも一変した。彼女はそこで「Fundo de Quintal(フンド・ヂ・キンタル)」と出会い、彼らが奏でる異なる音の虜になった。あの場所で、ゼカ・パゴヂーニョ、ルイス・カルロス・ダ・ヴィラなどサンバの巨人たちにも出会った。作曲をしていた彼らの音楽を集めて、フンド・ヂ・キンタルをスタジオに招集し、そうしてサンバ演奏の新しい潮流をつくっていった。新しさというのは、ウビラニが発明したヘピーキ・ヂ・マォンで、セレーノ(タンタン)の演奏の仕方、そして、ビラ・プレジデンチのパンデイロの演奏の仕方だった。それに、アルミール・ギネトが取り入れた、バンジョー・カヴァキーニョも。

 本物のサンバがある場所に行きたいという彼女の関心は、ネルソン・カヴァキーニョや、ギリェルミ・ヂ・ブリート、カルトーラなどの巨匠たちと出会うきっかけをつくった。彼女によって巨匠たちの作品を再発掘され、それらの美しい作品が世に広められた。それは相乗効果をもたらし、彼女はそうして人気を得たのだった。

 おそらく、彼女は新しいコンポーザーたちの作品を一番多く取り上げた歌手でもある。前述のゼカ・パゴヂーニョをはじめ、アルリンド・クルスとその兄のアシール・マルケス、ソンブリーニャと兄のソンブラなど、彼女を通して多くの名前がサンバの世界で知られるようになった。

 ベッチ・カルヴァーリョと仕事をした時代というのは、僕自身にとっても最も重要な時代だ。キャリア初期のミュージシャンで、彼女や、グループの仲間たちから学んだことが多い。初めてスタジオで録音した仕事は、結局作品として世には出なかったのだが、翌年彼女がプロデユーサーのヒルド・オーラに推薦し、『Mundo Melhor』の録音に参加した。この作品が僕にとってスタートだったと思っている。

 ベッチ・カルヴァーリョは親しみを込めて、「Madrinha do Samba(サンバのゴッドマザー)」の愛称で呼ばれる。まさしくその愛称にふさわしく、知られていなかったり、人々から忘れられていた優れた才能を見つけて、彼らを支援し、世に広めることに尽力した。

 私たちのポピュラー音楽における最も重要なアーティストの一人である彼女抜きにサンバを語ることはできない。彼女が歌ったものだけではく、私たちが愛する音楽に彼女がもたらしたものも含めて。彼女は力強さを備えた戦士であり、旅立つ日なんてまるで永遠に来ないかのように歌う感動を生きた、サンバの偉大な女王だ。そのあゆみの一部に参加できたことに感謝と、誇りを僕は抱いている。サンバとサンビスタたちのゴッドマザー、ベッチ・カルヴァーリョよ、永遠に!

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写真:浅田英了

(月刊ラティーナ 2019年6月号掲載)



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